第89話 マジックバンブー


 都からガンダルシア島へ戻ってきた僕は、ノワルド先生、シャルと久しぶりに洞窟探検へでかけた。

 お弁当をたくさん作ってもらったのでシャルは張り切っている。


「本日のメインディッシュはチキンの照り焼きであります!」


 しょうゆの実を使ったチキンの照り焼きは、懐かしい前世の味がして非常に美味しい。

 シャルもことのほかお気に入りである。


「父上、そろそろお弁当の時間でしょうか?」

「まだ洞窟に入ったばかりだよ」


 お気に入りなのはいいのだけど、300メートル進むごとにお弁当の時間を聞いてくるので少しだけ困っているところだ。

 かわいいといえばかわいいのだけどね。

 洞窟の奥に進んだ僕たちはめずらしい鉱石やイチゴ石などをたくさん集めることができた。

 販売や、錬金術の素材としてはまずまずの量だろう。


「少し疲れたな。そろそろお昼ご飯にしようか?」


 ノワルド先生がそういうと、シャルは待ってましたとばかりにぴょんと飛び跳ねた。


「それでは、あの林のところにしましょう!」


 洞窟の天井に小さな穴が開いていて、わずかな光がそこから差し込んでいる。

 その光のおかげで植物が生えているようだ。

 近くまで行ってみるとそれは笹の林だった。


「ふむ、これはマジックバンブーだな」


 笹の形状を調べていたノワルド先生がうなずいている。

 あれ、マジックバンブーの名前には聞き覚えがあるぞ。


「加工すると物を収納しておける不思議な植物ですよね?」

「うむ。感心、感心。よく勉強しているようだ」


 ノワルド先生はにっこりと微笑んでいる。

 だんだんと思い出してきたぞ。

 アイランド・ツクールでは、これを使ってステッキを作っていたはずだ。

 魔法の杖といえば攻撃魔法を想像する人が多いかもしれないけど、そんな物騒なものじゃない。

 これに服を入れておけば、一瞬で着替えができるというステッキである。

 服は何種類か入れておくことができたよな。

 素材は他にも必要だけど、簡単に集められるものばかりだ。

 一瞬で着替えができるアイテムだから、みんなに喜ばれるかもしれないぞ。


「これを素材にしていいものを作ってみるよ」

「了解であります。ぜんぶ刈って帰りましょう! でも……」

「どうしたの?」

「その前に照り焼きを食べたいであります!」


 それはそうだ。

 楽しくお弁当を食べてから、大量のマジックバンブーを持ち帰った。


 洞窟から出たところでノワルド先生に別れを告げ、僕とシャルは海岸へ向かった。

 ステッキには貝殻を組み合わせて使うのだ。

 砂浜にはいろいろな種類の貝殻が落ちていたけど、使えるのは比較的大きなものだけである。


「よし、このバケツに貝殻をたくさん集めていくよ。ただし、集める貝殻には条件があるよ。必要なのはシャルの手のひらより大きなものだけなんだ」


 ステッキを作るには大きめの貝殻でないとダメなのだ。


「了解であります! たくさん集めましょう」


 僕とシャルは午後の時間をいっぱい使って、バケツ二杯分の貝殻を集めた。

 これで素材はじゅうぶんだろう。

 あとは加工すればいい。


 戻ってきた僕とシャルはステッキの制作にとりかかった。


「まずはマジックバンブーをこれくらいの長さに切っていくよ」

「これくらいでありますね。了解であります!」


僕はノコギリで、シャルは素手でマジックバンブーを20センチくらいの長さに切っていく。


「全部で百二十四本もできたぞ」

「次は何をするでありますか?」

「シャルは棒の先端に接着剤で貝殻をつけていって。僕はマジックインクで魔法術式をかいていくから」


 術式はわずか一行なので簡単なものだ。

 僕らはどんどん作業を進めて、夕飯前には百二十本のステッキができ上った。


「さっそく実験してみよう。まずはパジャマと水着をステッキにセットして……」


 準備が整うと、僕はパジャマを意識してステッキを振った。

 実験は成功だ。

 一瞬で僕はパジャマ姿になってしまった。


「おお! 父上はもう寝るでありますか?」

「単なる実験だよ」


 次に僕は水着に着替えてみたけど、こちらも成功した。


「おお! いまから海で遊ぶでありますか?」


 シャルは目をキラキラさせている。


「そうじゃないって。これはステッキの実験なんだから」

「そうでありました」


 これは思っていた以上に便利だな。

 ステッキは消耗品なのでずっと使い続けることはできない。

 それでも五十回~七十回くらいの使用には耐えられるはずである。

 しかも、このステッキにはもう一つものすごい力が秘められている。

 それがクリーニング機能だ。

 このステッキに服を入れるときと出すときに、なんと汚れが除かれるのである。

 アイロンをあてたみたいにしわだってなくなるぞ。

 洗濯をしないですむのだから楽でいいよね!


「父上、それをミオやみんなにプレゼントしてみるのはどうですか?」


 ミオさんは魔導鉄道の職員だ。

 だから毎日、制服に着替える必要がある。

 これがあれば便利だろうな。

 ミオだけじゃない、リンやウーパーにとっても必需品だ。

 料理人や支配人は身だしなみが大切だからね。


「シャルは天才だね」

「えへへ」


 僕らは出来上がったステッキを島民たちに配って歩いた。

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