第77話 カジノ・ワイワイヤル
キラキラのブドウで仕込んだ白ワインが完成した。
幸福度100%で仕込んだわけではないので、こちらはシャトー・ガンダルシア・スペシャルになる。
さらに上のシャトー・ガンダルシア・エクストラには及ばないながら、その味わいは他の追随を許さないと評判だ。
赤のシャトー・ガンダルシア・スペシャルは王太子殿下の婚礼パーティーに納めたことがあるけど、白ワインが作れたのは初めてのことである。
さっそくウーパーたちに味見をしてもらったけど、みんな声をなくすくらい感動していた。
いいワインが出来たら届けてほしいと宮内府のテルベルット子爵からも言われていたのでさっそく届けることにした。
今回は特別に新しいラベルも作ったよ。
シャトー・ガンダルシア・スペシャル・赤のラベルは黒字に金でダンテス男爵家の紋章が刷られている。
ということで、白ワインのラベルには銀で紋章を刷っておいた。
こちらも高級感があっていい感じだ。
どうせルイーダスにいくのならマッショリーニさんのところにも寄って行こうかな。
魔導鉄道が引けたのもカジノ・ワイワイヤルの株が急騰したおかげだからね。
お礼にこの白ワインを二本贈呈することにしよう。
たまたまユージェニーが都へ行くことが分かったので、今回もシャルとギアンの背中に便乗させてもらった。
おかげで半日もかからずに都へたどり着けることができた。
魔導鉄道が都まで開通してもこうはいかないから、本当にありがたい。
「都まで乗せてくれたお礼に、ギアンにワインを飲ませてあげたいんだけどいいかな?」
「クエッ! クエッ!」
ギアンはワインが大好きなので、シャトー・ガンダルシア・スペシャルが飲めると知って大騒ぎをしている。
「もう! ギアン、がっつかないの。でもいいのかしら、貴重なワインなのでしょう?」
「ギアンが喜んでくれるんなら、それでいいんだよ」
喉を鳴らしてワインを飲み干し、ギアンは満足そうなため息を漏らした。
「お父様がこのことを知ったら卒倒してしまうでしょうね。私も飲みたかったのに、って悔しがると思うわ」
「大丈夫、シンプソン伯爵にもちゃんと二本用意してあるよ。こちらをお渡ししておいて」
隣人は大切にしないとね。
ユージェニーと別れて宮廷へ行った。
テルベルット子爵は大喜びで八十本のワインをすべて買ってくれたよ。
「男爵、個人的なお願いで恐縮なのだが……」
「テルベルット子爵の分も五本ほど取り置いてありますよ。買っていただけるのならですが」
「それはありがたい! さっそく楽しませてもらうよ。ダンテス男爵も一緒に夕食をどうだね?」
「ありがとうございます。ですが、寄らなければならないところがあるのです。久しぶりの都ですので」
「それは残念だ。だが、今度はこちらから正式に招待状を送るよ。ぜひいらしてくれ」
こうして、今回の取引も無事に済ませることができた。
次に僕らが向かったのはマッショリーニさんのカジノ・ワイワイヤル・ルイーダス本店である。
アポイントメントは取っていないけど、マッショリーニさんはいるかな?
電話のない世界は不便だね。
僕は生まれて初めて都の歓楽街に足を踏み入れた。
「父上、なんだかギラギラしたところでありますね」
「ここはカジノっていうんだよ」
僕らは外にいたのだけど、きらびやかに飾り付けられた建物の中から人々の熱気が漏れ出している。
内部の興奮とざわめきがこちらまで伝わってくるのだ。
子どもが二人でやってきたのでドアマンは怪訝な顔をしていたけど、僕らを邪険に扱うことはなかった。
「坊ちゃん、カジノになにかご用ですか?」
「自分はダンテス男爵と申します。マッショリーニさんにお会いしたいのですが、こちらにいらっしゃるでしょうか?」
名前を告げるとドアマンはすぐに居住まいをただした。
「これはダンテス男爵、ご高名はマッショリーニ氏より聞き及んでおります。取り次いでまいりますので少々お待ちください」
たいして待たされることもなく、僕らはマッショリーニさんのオフィスに通してもらえた。
「セディー君、よく来てくれたね!」
マッショリーニさんは大げさに両手を広げて僕を出迎えてくれた。
「さあさあ、かけてくれたまえ。冷たいものでもどうかな? おいしいアイスティーがあるんだ。シャルロットさんにはケーキをお出ししなければならないな」
マッショリーニさんは血色の良い顔をして、生気にあふれている。
「ご盛況のようで何よりです。昼間でもお客さんがたくさんいるのですね」
「まだまだ序の口だよ。夜になれば人であふれかえるからね。それで、今日はどうしてここに?」
「実はちょっとしたプレゼントがありまして」
僕は銀の紋章が光るワインボトルをマッショリーニさんに手渡した。
「ああ、セディー君!」
マッショリーニさんはまたもや大きく腕を広げて、今度は軽く僕をハグした。
「恩人の君にこんな風に気を使わせてしまって申し訳ないよ」
「恩人? 僕は何もしていませんよ」
「そんなことはない。カジノ・ワイワイヤルが持ち直したのは君のワインとホットドッグのおかげじゃないか。あれらの評判がお客を呼んだといっても過言じゃないんだ」
「それを言うのなら、マッショリーニさんも僕の恩人です」
「私が?」
僕はカジノ・ワイワイヤル・グループの株と魔導鉄道の話をした。
「そんなことがあったのだね。いやあ、知らず知らずのうちに君の役に立てていたとは嬉しい限りだ」
「今日、新しい白ワインをお持ちしたのは感謝を込めてなんですよ」
「ありがとう、大切に飲むことにするよ。ところで、どうだい? 少し社会勉強をしていっては」
「社会勉強というのは何でしょうか? カジノでアルバイトとか?」
「いやいや、チップは私が立て替えるから、遊んでいってはどうかと言っているのだよ」
うーん、そう言われてもギャンブルは怖いなあ……。
この世界では貴族のたしなみでもあるんだけどね。
「やっぱりやめておきます」
「そうかね? 君はギャンブルで身を持ち崩すタイプには見えないから誘ったが、いやというのなら無理にとは言わんよ。まあ、カジノがどんなところか、見るだけ見ていってくれたまえ」
マッショリーニさんに案内されてカジノの中を見学したけど、まったくもってきらびやかな世界だった。
紳士淑女たちが正装をして、グラスを傾けながら賭け事を楽しんでいる。
だけど、みんながみんな笑顔というわけではない。
中には肩を落としている人や、鬼気迫る形相の人もたくさんいる。
うわあ、こちらにフラフラ歩いてくる人はかなり青い顔をしているぞ。
って、僕の目の前で転んでしまったじゃないか。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう」
男の人はハンカチで口を押えながらトイレの方へ行ってしまった。
「やれやれ、今日も負けてしまったようだな」
マッショリーニさんがため息をついている。
「お知合いですか?」
「彼はケモンシーといって、プロのギャンブラーだよ。ここのところ落ち目のようだがね。胴元が心配するのもなんだけど、だいぶ負けが込んでいるようだ。危ないところから金を借りていなければいいが……」
やっぱりギャンブルは怖いなあ。
カジノの奥の方に景品交換所があった。
貴重なものが置いてあるらしく、屈強そうなガードマンたちが棚を守っている。
「ここではチップを景品に交換することもできるのだよ。普通では手に入らないレアアイテムもたくさんそろえているのが自慢でね」
マッショリーニさんが胸を張るだけあって、棚にはめずらしいアイテムがたくさん並んでいた。
って、僕はこれらのアイテムの効能を知っているぞ!
ここにあるのはアイランド・ツクールに出てきた便利アイテムばかりじゃないか。
僕にとっても役に立ちそうなものがたくさんあるな。
たとえば魔力を回復してくれる『賢者の水』、驚異的に集中力を高めてくれる『奇跡の木の実』なんかはいくらあっても困らない。
装備系では『おしゃれなタキシード』、『官能的なドレス』それに……、あ、あれは『幸福のベスト』じゃないか!
幸福のベストは身に着けた者の幸福度を4%高めてくれる装備だ。
前世のゲームでは微妙な扱いのアイテムだったけど、いまの僕にとってはのどから手が出るほど欲しいアイテムである。
だってさ、これがあればシャトー・ガンダルシア・エクストラを仕込めるチャンスが増えるもんね。
幸福のベストは400万クラウンぶんのチップと交換可能か……。
僕は棚の前に立ち尽くして、考え込んでしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます