第三部
第75話 招待状
春が過ぎ、ガンダルシア島も初夏の風情だ。
葉は青々と生い茂り、島の人々も元気に過ごしている。
ワイナリーや魔導鉄道などを作ったおかげだろう、島のレベルもまたひとつ上がった。
いまのステータスはこんな感じになっている。
セディー・ダンテス:レベル6
保有ポイント:52
幸福度:84%
島レベル:4
魔導鉄道はルボンの街まで延長工事中だ。
ただし、線路は僕が作っているわけじゃないよ。
島を出てしまっているので僕の力はもう及ばない。
街道から先の線路や駅はシンプソン伯爵が自前で建ててくれることになっている。
経済効果などを考えれば、微々たる先行投資との話だ。
ルボンまではたいした距離じゃないので、遠からず開通するだろう。
そうなればお客さんはさらに増えるだろうな。
ちなみに、ポイントで交換したものは島を出ると消えてしまう。
たとえば交換グッズには『王様の服』なんていう豪華な服もある。
金糸や銀糸をあしらった、ものすごーく派手な服だ。
宝石をあしらった王冠だってついてくる。
これを着れば、誰だって僕が王様だと思うだろう。
でも、王様の服を着た状態で一歩でも島を出たら大変なことになってしまう。
そう、服は消えてすっぽんぽんになってしまうからだ。
本当に裸の王様になってしまうというわけである。
列車もそうならないかと心配したけど、これは杞憂だった。
線路が島に続いていれば問題はないようだ。
じっさいに出来立ての線路の上で列車を走らせてみたけど、消えてなくなることはなかったよ。
これで安心してお客さんを乗せられるというものだ。
本日の僕はシャルと島を見回りながら新たな発展に向けて考えを巡らせている。
「父上、今日はとても暑いであります。シャルは海で泳ぎたいです」
ふむ、海水浴か……。
それはいいかもしれないな。
ここのところ日差しは日ごとに強くなり、気温もぐんぐん上がっている。
前世ではまったアイランド・ツクールでも、海岸にビーチを作った記憶があるな。
サーフボードで飾りつけをしたり、ライトアップを楽しんだりしたものだ。
ここでもすてきなビーチが作れるだろう。
ポイントと交換でビーチパラソルやバナナボートなども手に入るようだから、みんなが遊べる場所にしてみよう。
作製可能なもの:小さなビーチ
説明:人々が安全に楽しめる、白い砂浜の海岸です。
必要ポイント:10
作製可能なもの:海の家
解放条件:ビーチ、一人以上の従業員
説明:休憩所がついた海の家。
必要ポイント:3
海の家は解放条件が整っていないのでグレーになっている。
でも、ビーチの方はすぐにでも作れそうだ。
ポイントに余裕ができたら整備するとしよう。
アレクセイ兄さんとの和解(というか手打ち?)が成立したので、再びエマさんと商売ができるようになった。
さっそくあいさつに来たエマさんに僕は新商品を紹介した。
「これは……金属?」
「そのとおりです。王太子殿下の婚礼パーティーでトゴノフ男爵という方と知り合いまして、その人に錫の加工品を卸してもらったんですよ」
新商品というのは缶詰である。
缶詰機はポイントで交換できたので、缶と蓋をトゴノフ男爵に発注したのだ。
いまや食品加工場の主力商品は瓶詰から缶詰に切り替わった。
「缶詰の方が軽くて丈夫なんです。だから輸送にも適しているのですよ」
「これはすごいわ! 外洋船はものすごく揺れるから、船長たちもきっと大喜びね」
瓶詰は割れやすいのが難点なのだ。
その点缶詰なら、床に落ちたくらいじゃ割れはしない。
少々へこみはするだろうけど、品質に問題は生じないのである。
「いまならこの缶切りをプレゼントしますよ」
缶詰は船乗りたちが持っているナイフでも開けられるけど、缶切りがある方が便利だからね。
持ち手が赤い缶切りにはハシバミの樹にとまる二羽のツグミの紋章が金色に刻印されている。
こちらはダンテス男爵家の紋章だ。
プレミア感があって僕は気に入っている。
缶詰百個のお買い上げにつき、この缶切りを一つつプレゼントするのである。
さっそくエマさんに缶切りの使い方を伝授しておいた。
「簡単に開けられるのですね! これなら私でもできますわ」
「刃こぼれの心配もないですよ。さあ、中身の品質を確かめてください」
新商品である焼き鳥の缶詰を食べてもらった。
前世で僕が大好きだった缶詰だ。
さすがにあの味に近づけるのは難しかったけど、リンがいろいろと工夫してくれていた。
「美味しいです! チキンソテーが保存食になるなんて本当に驚きですわ」
エマさんも気に入ってくれたようで、今回もたくさん仕入れてくれた。
これで、ドウシルとカウシルには臨時ボーナスが渡せそうだ。
商談が終わると紅茶を飲みながら雑談になった。
僕が男爵になったということもあって、エマさんは前よりも丁寧な話し方になっている。
少し寂しい気もするけど、人の目もあるので仕方がないか。
「そう言えばお聞きですか? 近く、クレアさまの誕生日パーティーが開かれるそうですね」
「クレアの?」
クレアというのはアレクセイ兄さんの長女であり、僕の姪である。
姪と言っても年齢は同じなんだけどね。
去年から都の女学院に入学して、いまはあちらで暮らしているはずだ。
今年の誕生パーティーはてっきり都でやるものだと思っていたけど、わざわざ領地に戻ってきてやるようだ。
「どうされましたか?」
浮かない僕の顔をみてエマさんが心配そうに聞いてきた。
「いやね、苦手なんですよ」
「苦手というと、クレアさまが?」
「まあ……」
僕はつい苦笑してしまった。
というのも、昔からクレアは僕に意地悪ばかりするからだ。
「ひどいんだよ。いつ会っても嫌味たらたらだし、そのくせやたらと付きまとってくるんだ」
「まあ!」
「僕のシャツを大量に隠したことだってあるんだ」
「シャツをですか? なんのために?」
「いやがらせじゃないかな? 脱いだものをこっそり持っていったんだよ。おかげで着るものがなくなってすごく困ったんだ。使用人たちが屋敷中をさがしたら、クレアのベッドの下から大量のシャツが見つかったんだ」
「それは、それは……」
エマさんも言葉を失うほど引いている。
そりゃあそうだよね。
「さすがに父上がお叱りになって、それ以来ものがなくなることはなくなったけどね」
クレアの誕生会だなんて憂鬱だな。
でも、それほど心配することもないか。
ダンテス領での商売については手打ちになった。
でも、僕とアレクセイ兄さんとの関係がよくなったわけではない。
おそらく僕は招待されないだろう。
と、考えていたのだけど僕の期待は見事に裏切られた。
翌日、誕生日パーティーへの招待状が僕のところにも届いたのだ。
しかも、親族は必ず参加するようにと書いてある。
やれやれ、無視をしてもいいのだけど、また関係がこじれると厄介だ。
せっかくエマさんと商売も復活できたのだからね。
だけど、あのクレアの高笑いを思い出すと、僕はため息をとめられなかった。
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