ss ホットドッグ


 牧場を経営しているポール兄さんからソーセージが届いた。

 これはお礼の品である。先日、ポール兄さんのところへ遊びに行った折、ちょっとしたことがあったのだ。

 兄さんの土地では開墾が進んでいたけど、大きな切り株が人々を悩ませていた。

 通常の切り株の三倍は大きく、掘り返そうにも根はかなり深くまで張っていたのだ。


「シャルが引っこ抜くであります!」


 話を聞いたシャルが切り株退治を買って出た。

 小さな手で切り株をむんずと掴み、あれよあれよという間にやっつけてしまったのだ。

 六人で数日かけてやる予定の作業を一瞬で終わらせたのだから、みんなびっくりしたにちがいない。

 そのときのお礼としてポール兄さんがソーセージを送ってきたのである。

 シャルは遊びに行っているので昼までは戻らない。せっかくだから美味しく料理して食べさせてやろうと考えて、リンがいるオーベルジュへと持っていった。


 リンは注意深くソーセージを調べてから冷蔵庫にしまった。

 食材には細心の注意を払うのがリンの流儀だ。


「ポールさんとこのソーセージは美味しいから腕が鳴るよ。それで、どんな料理にしたいの?」


 たずねられて、不意に前世の記憶がよみがえった。

 あれはどこかの大きな家具屋さんだったような……。

 そこの休憩所で食べた軽食を思い出したのだ。


「久しぶりにホットドッグが食べたいなあ」

「なんだい、それは?」

「ふわふわのコッペパンにグリルしたソーセージを挟んだ食べ物だよ」

「またシンプルな料理だね」

「ソーセージだけじゃなくて、バターソテーしたキャベツの千切りも一緒に挟むんだ。それからマスタードとトマトケチャップをかける」

「トマトケチャップ? これまた聞いたことのない名前だけどそれはなに?」


 リンはペンとメモ帳を取り出した。

 料理に対するリンの情熱は計り知れない。

 自分の知らない食べ物の名前が出てきて興奮しているようだ。

 この世界にもマスタードはあるけど、ケチャップに相当するものはないもんね。


「トマトソースの一種なんだ」

「ソーセージにトマトソースをかけるのはよくあるけど、普通のトマトソースと何が違うの?」


 なんだったかな……? 

 たしかケチャップの作り方を動画で見たことがあるぞ。

 愉快な三人の男の子たちがケチャップを自作してホットドッグを食べる内容だったはずだ。

 僕もあの動画をみてケチャップを自作したんだよなあ……。


「そうそう、ケチャップは材料に酢が入っているんだ」

「酢って、あの酸っぱい酢?」

「そうだよ。酸味と甘みが活かされたソースなんだよ。材料はね……トマト、玉ネギ、ニンニク、酢、香辛料、塩、砂糖だったと思う」

「トマト以外の材料はぜんぶ厨房にそろっているね」

「完熟トマトが僕の畑で収穫を待っているよ」


 つまり、材料は完璧なのだ。


「これはもう作ってみるしかないね!」


 僕とリンは頷き合って準備を開始した。

 詳しい分量は思い出せないけどリンがいれば何とかなるだろう。


 僕とリンはエプロンを着けて厨房に立った。


「まずはトマトをざく切りにしよう……いや、ちょっと待って」


 フードプロセッサーがあれば便利だよね。

 いい機会だから1ポイントで交換してしまおう。


「なにこれ、こんな魔道具は初めて!」


 魔力でパワフルに動くフードプロセッサーにリンの興奮は最高潮だ。


「便利でしょう? フードプロセッサーは応用範囲が広いから、これからも役立ててね」


 ピューレ状になったトマトを鍋に移して煮詰めていく。

 それとは別に玉ネギや調味料を入れた調味液、香醋も作る。

 最終的にすべてを合わせてゆっくりと煮詰め、塩で味を調えればトマトケチャップの完成だ。


「どれ、味見をしてみよう」


 うん、市販のものよりフレッシュ感があるけど、前世で食べた味にかなり近い。


「ふーん、こんなトマトソースもあるんだね」

「フライドポテトにつけても美味しいんだよ」

「おもしろそうね、さっそく作ってみましょう」


 リンはすぐにジャガイモを洗い始めた。



 その日のお昼ご飯はこんなメニューだった。


 ホットドッグ(自家製ケチャップ添え)

 フライドポテト

 サラダ

 レモネード


 口の周りにケチャップをつけたシャルが小さな拳を振り回して喜んでいる。


「美味しいであります! シャルはケチャップが気に入ったであります!」

「それはよかった。今度はオムライスやスパゲッティナポリタンも作ってあげるからね」

「それはなに⁉」


 シャルよりも先にリンが反応している。

 リンの料理にかける情熱と探究心には本当に頭が下がる思いだよ。


「オムライスというのはね――」


 リンがペンとメモ帳を取り出すのを待って、僕は料理の説明をした。

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