第62話 みんなにプレゼント
シャルを連れてポール兄さんの牧場までやってきた。
兄さんは若さを取り戻したロバのルシオを見て驚いている。
「こいつはうちの牧場で買ったロバだよな?」
「そうだよ。よく働いてくれているんだ」
「それはよかったが……、本当にあのルシオか?」
「間違いなくルシオだよ。なんかね、島の気候が合っているみたいなんだ。元気になっちゃった」
「ヒーン!」
ルシオは元気にいなないて、ニカッと笑った。
ここにいたころは疲れ果てた老人みたいだったけど、最近のルシオは表情も豊かなのだ。
キラキラの牧草については、まだポール兄さんの耳には入れないでおこう。
次に収穫したら、牧場の馬に食べさせて、びっくりさせたいからね。
きっと喜んでくれるだろう。
「ところで今日はどうした?」
「ワインの熟成が終わったから飲んでもらおうと思って持ってきたんだ」
「もう熟成が? まったく、セディーの領地は不思議なところだな。さあ、中に上がってやすんでいけ。シャルロットには搾りたてのミルクを飲ませてやろう」
「ありがとうございます、伯父上!」
その晩は兄さんの家に泊めてもらうことにした。
夕飯には大きなステーキをご馳走してもらったよ。
シャルは大喜びで、分厚いステーキを二枚も食べていた。
「それにしても美味いワインだ。ダンテスの屋敷でもこれほどのワインがテーブルに上がることはめったになかったぞ」
「そうかな?」
「セディーは子どもだから知らないだろうが、こんなのが飲めるのはお祝いの時くらいだ」
やっぱりこれは美味しいワインのようだ。
「ところで、これは一本いくらなんだ?」
「五千クラウンだよ」
僕としてはけっこう強気の値段設定である。
最初は三千クラウンと考えたのだけど、それでは安すぎるとリンとウーパーが口をそろえてこの価格になった。
「五千クラウンだと⁉」
「高かった?」
「いや、赤と白を十本ずつ注文したいのだが、いいだろうか?」
「うん、在庫はあるから大丈夫だよ。明日か明後日には配達できるようにするよ」
ミオさんとルシオに頼めばいいだろう。
相手は兄さんだから配達料はおまけしてあげるとするか。
やっぱりワインは売れるなあ。
兄さんの所だけで十万クラウンの売り上げになってしまった。
でも、いいのかな?
「ポール兄さん相手に十万クラウンじゃ高かったかな?」
「これが十万クラウンなら安いものだ。俺の友だちなら一本につき一万クラウンだって支払うと思うぞ」
「あ、転売はだめだからね」
「転売なんてするものか、もったいない。ぜんぶ自分のところで消費するさ」
兄さんはよほどワインが気に入ったようで、分厚いステーキを食べながらお代わりをグラスに注いでいた。
翌日、牧場を出発する僕らにポール兄さんは大きな生ハムの塊をプレゼントしてくれた。
「ワインのこと、頼んだからな」
「帰ったらすぐに手配するから安心して」
普段はクールなポール兄さんなのに、今日はやけに念押ししてくるな。
それほどワインが気に入ったということなのだろう。
ポール兄さんに別れを告げてガンダルシア島に戻った。
島に着くと、約束どおりすぐに配達の手配をした。
ミオさんと荷馬車にワインの木箱を積んでいく。
「ポール兄さんのところには赤と白を十本ずつ届けてね。代金はもうもらってあるから。それから、シンプソン伯爵のところにも二本ずつプレゼントを届けておいて」
「わかりました。ポリマーの食料品店はどうします?」
瓶詰を卸している会社のことだ。
「そっちはルールーがボートで行ってくれることになっているんだ。僕はルボンのサンババーノところにおすそ分けにいってくるよ」
ぶどうを分けてくれたサンババーノの魔女たちにもワインをプレゼントしておこう。
こうやって配っておけば、新しい販路が見つかるかもしれないからね。
メドックとピノが頑張ってくれているから、ワインのストックはたくさんあるのだ。
じゃんじゃん売って、新しい施設を作るとしよう。
目標は帆のついた小型船の購入だ。
購入のめどがついたら桟橋を船着き場にグレードアップしなければ。
さて、今日も畑の手入れをしていくとしようか。
そのあとは道の整備だ。
果樹の生えているところまで舗装道路を作っていくぞ。
そして、暗くなる前にサンババーノへいかなくては。
やらなければならないことはいっぱいあった。
少し疲れていたのだろう、翌朝は少しだけ寝過ごしてしまった。
「セディー様! セディー様、たいへんです!」
あれ、外でメドックが僕を呼んでいるぞ。
何かあったのだろうか?
兄妹には少々のことでは驚かないで、って言ったんだけどなあ。
僕はしょぼしょぼするまぶたをこすりながら外へでた。
「おはようございます、セディー様」
「おはようございます……」
そうそう、人見知りのピノの少しは慣れて、僕にも挨拶をしてくれるようになった。
ピノは怪力の持ち主なのでワイナリーでは大活躍なのだ。
重い収穫かごだって平気な顔で持ち上げているからね。
それに舌が敏感で、味の違いがよく分かる。
メドックは計算も得意だし、本当に得難い人材を得たと思う。
「おはよう、こんな朝早くからどうしたの?」
「ぶどう畑がたいへんなんです!」
「大岩でも現れたかな? それならシャルが――」
「違うんです。とにかく来てください」
メドックに引っ張られて僕はぶどう畑に向かった。
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