第61話 メドックとピノ
マッショリーニ氏が推薦してくれたグレープ兄妹がやってきた。
お兄さんの名前はメドック。
線が細く優しい顔立ちをしている。
でも性格は陽気でたいへんおしゃべりだった。
妹のピノは兄とはまったく似ていない。
顔立ちはかわいらしいのだけど、身長は百八十センチを超えているだう。
体はマッチョ。
ドウシルやカウシルよりもたくましい。
でも控えめで無口なんだって。
極度の恥ずかしがりで、面接のときも顔を真っ赤にしていたくらいだ。
二人の面接をしていたらすぐにステータス画面のアラートが点灯した。
セディー・ダンテス:レベル5
保有ポイント:48
幸福度:95%
島レベル:3
おお、久しぶりに僕のレベルが上がったぞ。
それだけじゃない、島レベルも3になっているではないか!
しかも、レベルアップにともない新しい施設が作れるようになっているぞ。
小さなワイナリーの作製:解放条件がすべて解除されました!
達成条件:発酵タンク、圧搾機の設置。二人の従業員を確保。
必要ポイント:8
メドックとピノが来てくれたおかげで小さなワイナリーが建てられるようになったのだ。
「採用します!」
「え、え? あの面接は……?」
「これで終了です。お二人ともよさそうな方ですので」
ステータスボードが反応したということは、二人ともガンダルシア島にふさわしい人物なのだろう。
ぶどう畑を挟んで、コテージの向かい側にワイナリーを建てた。
「な、な、なにごとですか!」
メドックは大きなリアクションで驚いている。
「…………」
ピノは無言で震えている。
震えながらもメドックのシャツの裾をぎゅっと掴んだままだ。
やっぱりお兄さんを頼りにしているのだろう。
「ここは不思議の島ガンダルシア。今のはこの島限定の僕の魔法だよ。他にもいろいろなことが起こるけど、怖がらなくて大丈夫だから」
「わ、わかりました……」
ワイナリーには従業員部屋もついていたので、二人にはそこを使ってもらうことにした。
部屋はワンルームアパートみたいな感じで、けっして広くない。
それでも共用のキッチンやトイレはあるので不便はないだろう。
「荷物を置いたら島の住人を紹介するよ。それから温泉の場所とかもね」
「温泉?」
「…………」
「島には温泉が湧いていて、島民は自由に入れるんだ」
二人はきょとんとしている。
「どうしたの、ふたりとも?」
「待遇がよすぎてびっくりしているんです! マッショリーニさんのところより給料もいいですし、個室を与えられるとは思ってもみませんでした」
この世界の奉公人って、みんな大部屋だもんね。
相当な地位に上り詰めないと個室はもらえないのだ。
ダンテスの屋敷でも、家令のセバスチャンとかメイド長くらいしか個室はなかったな。
そう考えればここは恵まれているのかもしれない。
まあ、売り上げが伸びれば昇給だってするつもりだよ。
僕は兄妹を島のみんなに引き合わせた。
引っ越しではシャルが大活躍だった。
納屋にある醸造道具をワイナリーに運ばなければならなかったのだけど、そのほとんどをシャルが運んでくれたのだ。
百三十リットルのワインが入った樽も、シャルは片手で持ち上げてひょいひょい運んでいた。
それを見てまたもやメドックとピノが驚いている。
「あのお嬢さんはいったい……」
「シャルは小さな女の子に見えるけど、本当は黄龍なんだ」
「最強種であります!」
「はぁ……」
だからいちいちびっくりしないでね。
「ワイナリーの仕事は明日からね。とりあえずはぶどうの収穫から始めよう。今夜はオーベルジュで歓迎会をするから、時間になったら呼びに行くよ」
部屋でくつろいでくれるように言って、僕はリンのところへ歓迎会の相談に向かった。
半月が経過した。
メドックとピノも島の生活に慣れ、仕事ぶりも板についてきた。
二人とも働き者だったのだ。
メドックは機転が利き、計算などもそつなくこなす。
妹のピノは力持ちで、ドウシルだって腕力ではかなわないようだ。
ワインのストックは確実に増えている。
それはそうか、一回に仕込む量は少ないとはいえ、三日に一度、百三十~百五十リットルほどのワインができあがるのだ。
ワイナリーは手狭なので、樽は以前見つけた大穴に貯蔵してある。
運搬にはシャルとロバのルシオが活躍してくれているぞ。
ルシオはこの島に来てから見違えるほど若返った。
十代のロバと言っても通るくらい元気である。
キラキラの牧草は規格外だね。
また生えたら牧場の馬に食べさせて、ポール兄さんをびっくりさせてやるとしよう。
オーベルジュに行くとリンとウーパーが大騒ぎをしていた。
喧嘩でもしているのかと思ったけどどうやらそうではないらしい。
いったいどうしたというのだ?
「二人ともなんなの? そろそろランチのお客さんがくるんじゃない」
「セディー! それどころじゃないわよ。これはいったいなんなのよ!」
リンが指をさしているのは大穴で寝かせておいたワインだ。
レストランで提供するために、十五日経過したものを運んだのだが、なにか問題でもあったのかな?
「まさか、カビでも生えていた?」
「違うわ。とんでもなく美味しいのよ!」
「ああ、最高峰と言われているシャトー・ゴートにも匹敵するワインかもしれないぞ」
酒好きのウーパーがさらにグラスを傾ける。
「へー、そんなに美味しいんだ……」
半月の熟成期間と、大穴に貯蔵したことに関係あるのかもしれないな。
さっそくポール兄さんとシンプソン伯爵に送ってあげよう。
あと、ワインを買ってくれるマッショリーニ氏にもサンプルとして二本ほど届けるか。
「ちょっと出かけてくるよ」
「どこへ行くんだ。一人で遠くへ行くのはダメだぞ」
またもやウーパーが心配している。
「ポール兄さんのところだよ。シャルも連れて行くから平気さ。遅くなるようなら向こうに泊めてもらうよ」
シャルはお出かけが好きだから大喜びだ。
僕たちはルシオに荷車をつなぎ、それに乗って出発した。
***
屋敷の書斎でアレクセイは書類に目を通していた。
そばには家令のセバスチャンが控えている。
「ワインの出荷は順調か?」
「上々でございます。在庫も順調にはけておりますので今月の売り上げは200万クラウンを超えるでしょう」
「よしよし、少々無理をしたが、ワイナリーを買収して正解だったな」
アレクセイは満足そうにうなずいた。
これで新しい馬がまた買える、と考えたのだ。
彼の夢は都の競馬場で自分の馬が優勝することである。
そのためにはいくらでも金をつぎ込んでいいと考えている。
「引き続き販路を拡大するのだ。わかったな」
セバスチャンは深々と頭を下げた。
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