第51話 大きな穴


 本日はシャルとミオさんと一緒に、島の東側をさらに調査した。

 森の奥で、バナナ、キウイが並んで生えている場所を発見したよ!

 キウイはすずなり、バナナも大きな房が段々になって生えている。

 これは食べ応えがありそうだ。


「すごいであります! 美味しそうなものがいっぱいであります」

「新しい食材だからリンが喜んでくれそうだね」


 この辺だとバナナは非常にめずらしい。

 キウイに至ってはダンテスの屋敷でもお目にかかったことがないくらいだ。

 僕もこの世界に来てからははじめて見る。

 キウイを一つもいでナイフで半分にしてみた。


「お、これはゴールドキウイだな」


 前世の記憶ではエメラルドグリーンとゴールデンの二種類を食べたことがあるような……。

 そういえばピンク色のキウイも売られていた気がするぞ。

 色はなじみがあるのだが、ガンダルシアのキウイは僕が知っているのより一回りくらい大きい。

 また違う種類なのかもしれないな。

 きっと独特の進化を遂げたのだろう。


「シャルと同じ黄色であります!」

「そうだね、黄龍と同じだね。味見をしてみる?」

「食べたいであります!」


 ナイフで皮をむいて渡すとシャルは大喜びしていた。

 ミオさんもキウイは初めて食べたそうだ。

 完熟したキウイは酸味が少なく、爽やかな甘みが口いっぱいに広がる。

 これなら何個でも食べられてしまいそうだ。


「外側は茶色なのに中身が金色なんて驚きよね。バナナというのも不思議だわ」

「これはこうやって簡単にむけるんです」


 木の上で完熟させたバナナも美味しかった。

 そうだ、前世でイチゴ、バナナ、キウイを入れたロールケーキを食べたことがあるぞ。

 たしか名前は……トライフル!

 たっぷりのクリームに包まれて、三種類のフルーツが混然一体のハーモニーを奏でるんだよね。

 イチゴは畑で作れるからさっそく種をまいてみよう。

 リンにお願いすればきっと同じものを作ってくれるだろう。


「よし、新作デザートのためにもバナナとキウイをたくさん収穫していこう」


 シャルとミオさんに手伝ってもらい果物を採った。

 シャルが誰よりも張り切ったのは言うまでもない。

 持ってきたかごはすぐにいっぱいになった。


「これくらいでじゅうぶんかな。海沿いを通って帰ろうよ」


 僕らは新たに見つけた小径を通って島の南へ向かった。

 道は細く、頼りないけど、通れないこともない。

 しばらく進むとシャルがクンクンと鼻を動かした。


「むむ……、風が冷たいであります……」


 海から吹く風が僕らの顔を撫でている。季節は冬の終わりから春の始まりといったところ。

 まだまだ風が冷たいのは当然である。


「海風は冷たいものさ」

「そうではありません。この風は潮ではなく土の臭いがするであります。こっちであります!」


 シャルはバナナの大きな房を担いだまま駆け出した。


「シャル、待って!」


 僕とミオさんは慌ててシャルの小さな背中を追いかけた。


「父上、あそこに穴が開いているであります!」


 藪を抜けた先は小さな広場になっていて、目の前に大きな穴が開いていた。

 穴の直径は十メートルほど。

 内部はなだらかに傾斜していて奥へと続いている。

 シャルの言っていたとおり、穴の奥から冷たい風が吹いていた。

 どうして穴の中から風が吹いているのだろう?

 この穴はどこかへ通じている?

 それとも風龍の住処になっているとか?

 目の前に黄龍がいるんだから、風龍が住んでいたっておかしくないよね。


「まさか、ここもダンジョン?」

「魔物や獣の気配はしないでありますね……」


 暗闇を見つめ、耳を澄ましていたシャルが請け負ってくれた。

 ドラゴンイアーとドラゴンノーズの性能は警察犬より優れている。

 シャルがそう言うのなら心配はない。


「ちょっと中を見てみようか」


 都合のいいことに魔導ランタンを持ってきている。

 予備の魔結晶もあるから、最大光量で使用しても二時間以上もつはずだ。

 ランタンを高く掲げて、僕らは穴へと踏み込んだ。


 緩やかな斜面を百メートルほど下ると、道は平らになった。

 中はかなり広いのだけど、周囲には岩がゴロゴロしている。


「天井が崩れてきたりしないかしら。調べるからちょっと待っていてね」


 ミオさんが入念に岩壁を調べている。

 元は冒険者だから、こういうことも手馴れているのだろう。


「しっかりした岩盤ね。ここなら崩れてくることはないと思うわ」


 平らな道をさらに五十メートルほど進むと道は行き止まりになってしまった。

 大小の岩が通路を塞ぎこれ以上進めそうにない。


「ここまでかな? 特に何もなかったね」


 気をつけて見ていたけど、ダンジョンと違って鉱物や有用な植物は生えていなかった。


「つまらないであります!」


 シャルが頬を膨らませている。


「仕方がないさ。でも、ここは涼しいから貯蔵庫にするのがいいかもしれないな」


 出来上がった瓶詰などを保管しておくのだ。

 おがくずや氷を一緒に詰めてやれば天然の冷蔵庫としても使えそうだ。


「ここが役に立つのなら、私たちの冒険もまったくの無駄というわけじゃなかったということね」

「そうですよ、ミオさん。それに楽しかったですし」

「私も久々に冒険者気分にひたれたわ。あの頃に戻りたいとは思わないけどね」


 探検を終えた僕たちは今度こそオーベルジュに引き返した。

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