第34話 死配人
宿屋の作製が可能になりました!
条件:傷ついた戦士との出会い。
必要ポイント:7
ウーパーとの出会いによって解放されたのは宿屋だった。
てっきり、門番とか守衛さんとかだと思っていたのだけど見当違いだったようだ。
宿屋はプチホテル → ホテル といった具合にグレードアップできるようだけど、ウーパーが支配人になってくれるのかなあ?
しきりに首をかしげている僕を、みんなが注目しだした。
「父上、どうしたのですか?」
「また、新しい建物を作れるようになったんだ。これも、ウーパーに出会ったおかげだね」
リンも興味を示している。
「今度は何が作れるの?」
「宿屋だよ。場所はこのすぐ横……、って、食堂と宿屋を合体させて、オーベルジュにすることもできるのか……」
オーベルジュとは宿泊施設つきのレストランのことだ。
こちらを作る場合は必要ポイントが7から12に増えてしまう。
ただ、設備としてはそちらの方が豪華なので、別々に作るよりはお得感があった。
「オーベルジュとは面白そうだね。その場合、食堂もグレードアップされるのかな?」
「うん、いろいろとできるみたい。地下にワインセラーも設置できるよ」
「それはいいね!」
盛り上がっている僕とリンを見て、ウーパーは困ったように頭をかいた。
「話は聞いていたんだが、さっぱり飲み込めない。俺のせいで建物が作れるっていうのはどういうことだい?」
「実は僕には特殊な能力があるんだ」
僕は自分の特性とガンダルシア島について説明した。
「それじゃあなにかい? いまからこの食堂がレストラン付きの宿屋になるっていうのかい? そんな魔法があるなんて聞いたこともねえが……」
ウーパーは信じられないといった顔で僕を見つめている。
「百聞は一見に如かず、だね。すぐに作ってしまうからみんな表へ出てよ」
勢い良く降っていた雨はほとんど上がりかけ、空は明るくなっていた。
オーベルジュの建設には一分もかからない。
これならみんなが濡れ鼠になることもないだろう。
けっして豪華ではないが、居心地のよさそうなオーベルジュが完成した。
建物は簡素な二階建て。
正面のドアを開けるとそこは小さなロビーになっている。
受付カウンターはすぐ左だ。
ロビーの右側にはレストランの入り口があり、奥はゲストルームと二階に続く階段があった。
ゲストルームは全部で五部屋あるようだ。
ペパーミントグリーンの壁紙が僕の記憶を揺さぶり、オールドアメリカンという単語を思い出させた。
「こいつはすげえ……、魔法による幻影じゃないんだよな」
ウーパーは目をこすりながら確認してくる。
「この島の施設はみんなこうやって作ったんだ。さっき入った温泉だってそうだよ。どれもちゃんと本物だから安心して」
「たいしたもんだ……」
ウーパーは一枚板のカウンターをそっとなでながら感心している。
「ねえ、ウーパー。こうして宿屋もできたことだし、治療のためにもしばらくこの島にいたらどう? お金ならいいからさ」
「いや、そういうわけにはいかないだろう。払うものはきちんと払わねえとな」
ウーパーは僕が思っていたより、ずっと生真面目な性格をしているようだ。
無料で湯治をするなんて、厚かましいことだと考えているのかも知れない。
「だったら、ここでアルバイトをしたらどうかな?」
「アルバイトだと。俺にできることなんかあるか?」
「ここで、宿屋の支配人をやってもらえると助かるんだけど」
カウンターの向こうには支配人室もあり、一人が居住するにはじゅうぶんなスペースが確保されている。
「この俺が宿屋の支配人だって……? くっ、くくく……」
あれ、ウーパーが笑い出してしまったぞ。
「いやだった? 無理にお願いしているわけじゃないけど……」
「すまん、そうじゃないんだ。ただ、俺はこれまでいろんなところで、いろんな願いごとをされてきたんだ。だが、宿屋の支配人をやってくれなんて言われたのは初めてだ。俺が宿屋の支配人ねえ……くくく……」
そう呟きながらも、ウーパーは愉快そうに笑っている。
「ダメかな?」
「言っておくが、俺は見てくれどおり戦うことしか知らない人間だ。そんな俺に支配人が務まるかい?」
どうなんだろう?
「とりあえず、お客さんを迎えてもらって、掃除とか洗濯、会計をしてもらえればそれでいいんだけど」
「ふーむ、それくらいなら何とかなるか……」
「だったらお願いね!」
「人生ってのはわからないものだな。戦場の死神と呼ばれたこの俺が、宿屋の支配人を任されるとはな!」
戦場の死神!
ウーパーにはそんなあだ名があるの?
支配人じゃなくて死配人になったりしないよね!?
「まだ宣伝もしてないから、とうぶんお客さんは来ないと思うから、温泉でのんびり治療をしてね。そうそう、忙しいときはリンの食堂を手伝ってあげてよ」
そうお願いするとウーパーは嬉しそうだった。
「おう、任せといてくれ。よろしくな、総料理長!」
「こちらこそ、よろしくね。支配人!」
こんな小さなオーベルジュなのに、二人は高級ホテルの役職みたいに呼び合っていた。
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