第17話 ゴッドファーザー

 朝方降っていた雨は時間とともに小やみになってきた。

 空はどんどん明るくなっているから、もう少し経てば完全にあがるだろう。

 小雨はまだパラついていたけど僕とシャルはルボンへ買い物に出かけることにした。


「岩礁の道は沈んでいないな。滑るから気を付けて渡るんだよ」

「はーい!」


 おや、岩のつけねがキラキラと光っているぞ。


 作製可能なもの:架け橋

 説明:島と岸をつなぐ架け橋です。

 必要ポイント:5


 島レベルが上がったおかげか、橋を架けられるようになったぞ! 

 これさえあれば潮の干満を気にする必要はなくなる。

 買い物だって楽になるはずだ。

 保有ポイントは11あるからさっそく橋を作成してみよう。

 いつもの要領で橋を作った。


「ふおぉお! 父上、スゴイであります!」


 架け橋は予想以上に幅があり、馬車一台くらいなら通れそうだった。

 作りもしっかりしているから、崩れるなんてこともないだろう。


「これで行き来が楽になったね。さあ、渡ってしまおう」


 新しくできた橋をシャルとスキップしながら渡った。


 ルボンの街へ着くと、僕らは真っ直ぐにサンババーノを目指した。

 水はけの悪い路地裏はぬかるんで歩きにくかったけどシャルは嬉しそうに水たまりを踏んでいる。


「着いたよ、ここがサンババーノだ」

「ふぉおお、怪しさ大爆発の店であります!」


 シャルはクンクンと鼻を動かして店の様子を探っている。


「父上、毒物がたくさんありますよ。気を付けてください」


 魔法薬も扱っているから、そういったアイテムも多いのだろう。


「店の中ではいい子にしていてね」


 斜めに傾いた扉を開けると、先日と同じようにスモマが陰気な声で迎えてくれた。


「いらっしゃい」

「ガキがまた来たね。今日は何の用だい?」


 ミドマの口調も相変わらず。


「こらこら、坊やが怯えちまうだろう。アンタたちは黙っておいで! セディー、よく来たね。また買い取りかい……」


 猫なで声を出していたビグマの視線がシャルの顔に釘付けになった。


「ま、まさか……」

「どうしたっていうんだい、ビグマ。いよいよお迎えが来たのかい? チビの顔を見て驚くなんて……」


ビグマに憎まれ口をたたいていたミドマもシャルの顔を見ながら固まっている。


「黄龍様……」


 絞り出すような声でスモマが呻いた。


「さすがは魔女だ。よくシャルがドラゴンだって見破ったね」


 僕が褒めても三魔女は身じろぎ一つしなかった。

 やがて、呼吸を整えたビグマが僕に訊いてきた。


「ぼ、坊や、どうして黄龍様と一緒なんだい?」


 僕が答える前にシャルが元気よく手を上げた。


「シャルは父上とずっと一緒にいると決めたのであります!」

「シャル? それが黄龍様のお名前ですか?」

「父上がシャルロットという名前をつけてくださったのであります」


 それを聞いて三人の魔女は飛び上がって驚いていた。


「つまり、坊やは黄龍様の名付け親!」

「うん、そういうこと。今は僕と一緒に住んでいるからシャルのこともよろしくね」

「も、も、もちろんだよ。私たちは龍神様を崇める一族の端くれさ。黄龍様に失礼な態度なんて見せるものかい」


 この世界では信仰の対象は多種多様だ。

 それは神様だったり、邪神だったり、ドラゴンや、水の精霊なんかを崇める人もいるそうだ。


「シャ、シャルロット様、もしよろしければ、シャルロット様の鱗などを売っていただければありがたいのですが……」


 ビグマたちは上目遣いでシャルにお伺いを立てているぞ。

 ドラゴンの鱗といえばかなり貴重な素材である。

 のどから手が出るくらいほしいのだろう。


「え~、でも、シャルは脱皮がまだだよ。子どもだもん」

「それは重々承知しております。すぐとは言いません。ときが来たらでかまいませんので、はい……」


 ドラゴンの脱皮がいつ起こるのかはわからないが、まだまだ先の話だろう。

 まずはこちらの用件を済ませたい。


「悪いんだけど、今日はイチゴ石の買い取りをお願いしたいんだ」

「うむうむ、高値で買い取るから、坊やからも黄龍様にとりなしておくれ」


 ビグマは比較的僕に親切だから無下に断ることもできないなあ。


「確約はできないけど考えとくよ」

「ありがたい! さあ、坊やのイチゴ石を見せておくれ。いい値をつけてあげるからね」


 イチゴ石は一つ1000クラウンで引き取ってもらえた。



 僕らはウキウキした気分で島への橋を渡った。


「シャルのおかげでいろいろオマケしてもらえたよ。魔力が上るキャンディーでしょう、それから傷薬も」

「あのおばあちゃんたちは親切でありますか?」

「まあ、今のところはね」

「だったら、シャルもおばあちゃんたちに親切にするであります!」

「シャルはいい子だね」

「えへへ、また父上に褒められたであります」


 橋のおかげで、僕らは早く、安全に島へ帰ることができた。



 コテージの方へ歩いているとシャルが空中に鼻を向けてクンクンと匂いを嗅ぎだした。


「父上、おならをしましたか?」

「してないよ」

「むむむ……」


 シャルはクンクンと匂いを嗅ぎながら三百六十度回転した。


「失礼したであります、発生源は父上ではありませんでした。臭いはあっちからしてきます。なにがあるのでしょう?」


 僕には嗅ぎ取れないけど、ドラゴンの鼻が異臭をキャッチしたようだ。

 シャルは右側のやぶを指さして興奮している。


「あっちにはまだ行ったことがなかったな……」


 右の藪の向こうへも小道はうっすらと続いている。

 まだ調査していない道だ。


「少し調べてみようか」

「探検でありますね!」

「油断したらダメだよ。魔物や障害物に気をつけて行こう」

「了解であります!」


 腰の剣を抜き、背の高い草を払いながら僕らは進んだ。

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