第12話 トカゲを助けてみた


 サンババーノを出てから、市場で大きなパン、卵、バターや小麦粉、玉ネギなどを買った。

 アイテムを売ったばかりだし、ポール兄さんにもらったお金もあったので財布には余裕があったのだ。

 それから雑貨店に行って必要な物も揃えていく。

 カブの酢漬けを作る陶器の瓶、背中に背負う大きな籠、小さなスコップも手に入れた。

 背負い籠は収穫物を入れるためのもの、スコップは星形の窪みを掘るための道具だ。

 やっぱり石や木で掘るのは効率が悪いからね。

 タイパって大切でしょう?

 道具類は値段が高かったけど、これは大切な先行投資である。

 出し惜しみはしない方がいいだろう。

 でも、お金に余裕があるとあれもこれも欲しくなるから困ってしまうな。

 例えばスパイスのセットとか、貴重なお砂糖とかね。

 他にもお洒落なマグカップやお皿なんかも欲しくなってしまう。

 カップやお皿はキッチンについてきたけど、やっぱり自分が気に入ったデザインを使いたいのだ。

 借金をしてまで手に入れるのはどうかと思うけど、無駄遣いだって人生の大事な調味料だと思う。

 ささやかな喜びって大事だよ。

 それに、僕にとって幸福度は重要な問題だ。

 幸福度が低ければポイントが回復しない。

 ポイントが回復しなければ島を発展させられない。

 島が発展しないと、生きていくのが難しくなってしまう。

 というわけで、お砂糖と紅茶とスパイスを買ってしまった。

 仕方がないよね、これもガンダルシアを理想郷に近づけるためなんだから!




翌日もスッキリと目覚めることができた。


 セディー・ダンテス:レベル2

 保有ポイント:11

 幸福度:91%

 島レベル:2



 本日の幸福度は91%でポイントは8回復して11になっている。

 夕飯にアワビのバターソテー、大海老と玉ネギのスープ、美味しいパンをお腹いっぱい食べて満足したからだろう。

 久しぶりに甘い紅茶も飲んで満足度はマシマシだ。

 これでお風呂があれば幸福度は100%になったかもしれないなあ。

 アイランド・ツクールにもお風呂とか温泉があったような気がするんだけど、どうすれば出現したっけ? 

 まだまだ思い出せないことはたくさんある。

 紅茶を淹れて、魔導コンロでパンを温め直した。

 朝食のパンにバターがついているだけですごく贅沢な気分になってしまうな! 

 屋敷では当たり前だったことが、ここではこんなに幸福に感じるんだね。

 次はジャムを買っておこう。

 果物の種が手に入ったら自分でジャムまで手作りするのもおもしろそうだ。

 さあ、今日も一日頑張るぞ!


 身支度を整えて表に出た。

 最初にやるのは畑仕事だ。

 昨日種をまいたカブはどうなっているだろう?


「やっぱり、カブの葉が地面から生えている!」


 わかってはいたけど、この目で見るまでは確信を持てなかったのだ。

 種をまいて一日で葉が出るなんて、やっぱりここはアイランド・ツクールの世界なんだなあ。

 それにしても、家庭菜園にはどういうわけか岩や枝が出現する。

 すっかり取り払ったとしても、数時間後には新しいものが現れるのだ。

 そのまま放置しておくと、収穫に影響がでるのできれいに取りのぞくのだけど、これがけっこう厄介だ。

 三日で収穫という超促成栽培だから、きっと魔法的な何かが原因なのだろう。

 文句を言っても仕方がないので、僕は岩と枝を集め出した。

 岩は畑の隅の方、枝はひとまとめにしてルールーに届けるつもりだ。

 漁師小屋には魔導コンロがついていないので、煮炊きにはもっぱら枝が使われる。

 それに、獲物を求めてルールーは海の深いところまで潜ることがある。

 とうぜん体が冷えるので、焚き火は欠かせないアイテムになっているのだ。


 菜園の掃除はあらかた終わり、最後に少し大きな岩が残った。

 僕の頭よりも大きくて、子どもである僕には持ち上げられないほど重い。

 だけど、テコを使って転がせば、畑から出すくらいはできるだろう。


「よーし、岩の縁にスコップをひっかけて……、おや?」


 大岩の隅に小さな生き物がいた。

 これは……黄色いトカゲ? 

 一〇センチくらいの爬虫類が岩の陰で丸くなっていた。


「おーい、今から岩をどかすんだ。危ないからどいてよ」


 声をかけたのだがトカゲは動こうとせず、濡れた黒い瞳で悲し気に僕の顔を見つめている。


「もしかして、動けないの?」


 驚いたことに、黄色いトカゲはコクコクと小さくうなずいた。

 さらに驚いたことに、黄色いトカゲの体がキラキラと光っているではないか。

 これはポイントの割り振りが可能な合図だ。


 育成可能

 説明:。かわいそうな生物を助けますか?

 必要ポイント:3

 備考:島の動植物にポイントを割り振ることができます。

    ポイントを与えられた動植物はすくすくと育ちます


 トカゲは衰弱していて、このまま放置したら死んでしまいそうだった。

 さいわい保有ポイントは11あるから育成は可能だ。

 トカゲはじっと僕の顔を見つめ続けている。

 そんなふうに見られたら知らないふりなんてできないよ。


「いま助けてあげるからね」


 ポイントでコテージの家具を揃えたかったんだけど仕方がない。

 この子を育成するとしよう。


 僕から飛び出た光の玉がぶつかると、トカゲはすぐに元気を取り戻した。

 悲し気に濡れていたつぶらな瞳はもう生気で溢れている。

 嬉しそうにこちらに寄ってきたので頭を撫でると、気持ちよさそうにしていた。

 こうしてみるとかわいいなあ。

 おや、脚から肩の上に登ってきたぞ。

 懐かれてしまったようだ。


「この岩をどかしたら森へ探検に行くけど、僕と一緒に来る?」


 訊いてみると、トカゲはコクコクとうなずいた。

 やっぱり言葉がわかっているようだ。

 なんて賢いトカゲなんだろう。

 この子ならペットにするのも悪くない。

 僕のレベルは2なので、育成はもう一段階可能だ。

 必要ポイントは8で、保有ポイントとちょうどいっしょである。

 おもしろそうだからこのトカゲをもう一段階成長させてみようかな?

 幸福には楽しい相棒が欠かせないだろう。

 そう考えて残りのポイントも使ってしまった。


 畑仕事をした後は枯れ枝の束をルールーのところへ持っていった。


「あら、かわいい子を連れていますねぇ。こんにちはミニトカゲちゃん」

「ミニトカゲちゃんじゃないよ。この子はシャルロットっていうんだ。さっき名前を付けたんだよ」

「ずいぶんとかわいらしい名前をつけましたね。シャルロット、魚を食べる?」


 ルールーがアジの切り身を差し出したけど、シャルロットはプイッと横を向いてしまった。

 お腹は空いていないようだ。

 ……あれ?


「シャルロット、お前、ちょっと大きくなっていないか?」

「どうしたの、セディー?」

「最初に見つけたときはこれくらいだったんだけど、一回り以上大きくなっているんだ」

「え~、そんなに急に成長するなんてことあるのかなぁ?」


 僕にもわからない。

 だけど、最初は一〇センチくらいだったのだ。

 それなのに今は一五センチ以上あると思う。

 ポイントを割り振った影響かな?


「お前、どこまで大きくなるんだ?」


 訊いてみたけど、シャルロットは不思議そうに首を傾げるばかりだった。

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