第10話 畑を作ろう


 一夜明けて僕のレベルと幸福度の二つが上っていた。


 セディー・ダンテス:レベル2

 保有ポイント:6

 幸福度:86%

 島レベル:2


 きっとルールーというよき隣人を得て、お腹いっぱいご飯を食べて、井戸の水で体を洗い、鍵のかかるしっかりとしたコテージで寝られたのがよかったのだろう。

 幸福度は76%→86%に、保有ポイントは6まで回復していた。

 島レベルも2に上がったぞ。

 これで各種施設や動植物を第二段階までレベルアップさせることができるようになった。

 今ならこのコテージも次の段階へグレードアップできるだろう。

 もっとも、それ相応のポイントは必要になってくるから、おいそれとは使えないけどね。

 昨日の夕飯は新鮮な魚を使ったから、とっても美味しかったよ。

 アジは塩焼き、スズキはカルパッチョと、ユリ根入りのスープにしたのだ。

 本当はもっといろいろと作りたかったのだけど、食材と調味料が圧倒的に足りなかった。

 キッチンにあったのは塩とオリーブオイル、酢くらいだったんだもん。

 これでは料理の幅は広がらない。

 今日にでもルボンの街まで行って食材を買い足しておこう。


 ルールーは僕が料理をしたのでとても驚いていた。


「私が作るよりも美味しいですぅ。今どきの坊ちゃまは料理をするのが当たり前なんですかぁ?」


 普通はしないと思う。

 そんなのは前世で料理チャンネルを見るのが好きだった伯爵家の三男坊だけだ。

 そうはいっても、僕だって簡単な物しか作れないけどね。

 前世の記憶はまだまだはっきりしていないのだ。


 朝食に前日のスープの残りを平らげて、僕は表へ出た。

 今日は朝のうちにやっておきたいことがある。

 ポイントは6あるので家の前に家庭菜園を作ることにしたのだ。


 作製可能なもの:家庭菜園

 説明:農作物を作ってみましょう。

 必要ポイント:3

 備考:畑をつくると、農具置き場とカブの種をプレゼント


 さっそくポイントを使用すると家庭菜園が現れた。

 広さは……そう、十六畳くらいだ!

 この島に来てから日本人としての記憶もだいぶよみがえってきているなあ。

 ものの単位なんかも思い出してきたぞ。

 自分自身についてもそのうち思い出すかもしれない。


 畑はできていたけど、石や枯れ木などがたくさん落ちていた。

 こういうのをきちんとどかさないと作物が育たないんだよね。

 そういうところはアイランド・ツクールと同じなのだろう。

 石や木を脇に除け、雑草を抜き、畑を耕してからカブの種をまいた。

 じょうろで水をやるのも忘れない。


 それにしても、スローライフ系のゲームの畑ってカブの種が多くない? 

 どうしてなんだろうね?

 このガンダルシは超促成栽培。

 種をまいて水をやれば、三日くらいで収穫できるはずだ。

 きっと、すぐに美味しいカブが食べられるだろう。

 酢漬けにしてもいいし、魚のスープに入れても美味しいぞ。

 酢漬けにするには瓶が必要になるな。

 よし、今日こそルボンの街へ行って買い物をしてこよう。


 せっかくルボンの街へ行くのだからルールーも誘うことにした。

 魚を売りたいと言っていたからちょうどいいはずだ。

 コテージの裏の道を海岸へ向かって下りていくとルールーの漁師小屋が見えた。

 上から見下ろすと赤い屋根であることがわかる。

 周囲に姿は見えないけど、ボートは桟橋につないであるな。

 きっとルールーは家にいるのだろう。


「おはよう、ルールー。一緒に村へ行かない?」


 ドアをノックしたけど返事はなかった。

 ひょっとして一人で村へ行ってしまったのだろうか? 

 それならいいけど、昨日の借金取りがまたやってきて、連れ去ったりしたなんてことはないよね? 

 ヤキモキしていると海の中から人影が現れた。


「エルレーンの亡霊⁉」

「いやですねぇ、私です、ルールーですよぉ」


 顔に張り付いた髪をかき分けると、にっこり笑ったルールーの白い歯が見えた。


「あ~びっくりした。海の中から出てくるから、てっきりエルレーンの亡霊かと思ったよ」

「うふふ、セディーを海の中に引きずり込んじゃうと思いましたかぁ?」


 ルールーはご機嫌だった。

 エルレーンの亡霊は美人という噂だから、それで喜んでいるのかもしれない。


「海で何をしていたの?」

「素潜りをしていました。ガンダルシア島は凄いですよぉ。貴重なアワピや大海老がうじゃうじゃいますぅ」


 ルールーは少し疲れた顔をしていたけど、満足そうでもあった。


「これを見てください」


 自慢げにさし出された桶の中には、大きなアワピや大きな海老がゴロゴロしていた。


「うわあ、大漁だね!」

「もちろんセディーにも分けてあげますよぉ。今日だけじゃない。毎日、魚を届けますぅ。それだけじゃ恩返しにならないかもしれないけど……」


 ルールーの瞳は真剣だった。


「そんなに気を使わなくていいんだよ。説明したとおり、僕の力はいろんな人と交流して発動するんだ。この桟橋や漁師小屋を作れたのはルールーのおかげでもあるんだから」

「それでも、私はセディーのために何かがしたいのです」

「ありがとう。どちらもありがたく食べさせてもらうね」


 ルールーのおかげで今日のご飯の心配はほとんどなくなったぞ。


「ところで私に何か用でしたかぁ? 今から獲れたものを売りに行こうと思うのですがぁ」

「僕もルボンの街へ行くから誘いに来たんだ。一緒に行こう」


 保存のために、もらったアワピと大海老は網に入れて海の中に沈めておいた。

 本当はキッチンに冷蔵庫を置きたいけど、それには2ポイントが必要になる。

 いつ、どんな必要があるかはわからないので、まだまだ贅沢はしない方がよさそうだ。

 累積するポイントが15くらいになったら購入してみようかな。

 冷蔵庫は氷冷魔法を駆使した貴重な魔道具だ。

 買えば100万クラウンくらいはすると思う。

 それがポイントでもらえるんだからすごい話だよね。

 もし、手に入れた冷蔵庫を島の外へ輸出できるのなら、とんでもない儲けになるけど、それは不可能である。

 島の外へだしたとたんに消えてしまうからだ。

 ポイントで手に入れたものは島の外へはもちだせないというのがアイランド・ツクールのルールである。

 そうじゃなかったら大金持ちになれたのにね。

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