第8話 桟橋


 桟橋の作製が可能になりました!

 条件:心優しい漁師と知り合うこと。

 必要ポイント:4

 備考:ボートと漁師小屋をプレゼント。


 ルールーを助けたら桟橋が作れるようになったぞ。

 交友範囲が広がって、島の発展の条件が解放されたんだね。

 砂浜の一部が銀色に輝いている。

 あそこにポイントを振れば桟橋ができるのだろう。


「ルールー、漁師小屋ってなんだか知ってる?」

「漁師小屋は漁師の作業小屋ですぅ。忙しい時期にはそこで寝泊まりすることもありますねぇ」


 家を失ったルールーにはぴったりだな。

 ステータス画面には『心優しい漁師と知り合うこと』と書いてある。

 つまり、ルールーはいい人なのだろう。

 だったら漁師小屋を提供しても問題なさそうだ。


「よーし、ちょっと待っていてね。いま、僕の魔法を見せるから」

「え、魔法って……」


 困惑しているルールーをよそに、僕は波打ち際まで下りて行った。

 残っているポイントをすべて使うことになってしまうけど迷いはない。


「よーし、いくよ!」


 光の玉が四つ、僕の体から海へ向かって発射された。

 玉は波に砕け、目を開けていられないほどの閃光と耳をつんざく異音が響き渡った。


「きゃあっ!」

「怖がらないで、すぐに収まるから!」


 僕の叫びが響くと同時に怪現象は収束し、浜は静かになった。

 青い空に浮かぶ雲、寄せては帰す波の音、すべてが元通りだ。

 ただ違うのは、砂浜から海へと延びる木製の桟橋が現れたこと。

 その突端ではロープに繋がれた小さなボートが浮かんでいたこと、浜辺には小さな漁師小屋が建っていたことだった。


「う、うそ……」

「驚いた? えへへ、これがガンダルシアの領主である僕の力なんだ。しょっちゅう使えるわけじゃないんだけどね」


 力が抜けてしまったのかルールーは砂浜にぺたんとお尻をついている。

 声を出すこともできないくらい驚いているようで、コクコクとうなずくばかりだ。


「さあ、立って。漁師小屋の中を見て見ようよ」

「う、うん……」


 さてさて、漁師小屋の中とはどうなっているのかな? 

 前世の日本でも、この世界の人生でも、こういった建物の中に入った記憶はない。

 僕はワクワクしながら扉を開けた。


「へえー、こんな感じなんだ……」


 室内は一間で壁には漁師道具がたくさんかかっていた。

 網、釣竿、銛など、一通りのものは揃っているようだ。

 部屋の中央には作業台と椅子、隅の方には寝台もあった。


「これだけあれば暮らしていけそうだね。キッチンは外だから使いづらそうだけど」


 カマドや洗い場は外にあるのだ。

 いちおう屋根はついているけど、雨風の強い日は大変そうだった。


「立派ですよぉ。漁師の小屋はこんな感じですからぁ」


 スペックとしては普通みたいだ。

 新築物件な分だけ価値は高いのかもしれない。


「そっか。じゃあ、ここはルールーが使って」

「えぇ? どうして……」

「だって困っているんでしょう? それに、この小屋や桟橋を作ることができたのはルールーのおかげでもあるんだ」


 僕は簡単に自分の能力の特性をルールーに説明した。


「ありがたい話だけど、本当に私が使ってもいいんですかぁ?」

「もちろんさ。外にあるボートも使っていいからね。前のよりは使い勝手が悪そうだけど」


 借金のカタに持っていかれてしまったボートには小さなマストがついていたのだ。 

 ところが今度のボートはオールがあるだけの手漕ぎ式である。


「本当に助かりますぅ。あのボートがあれば明日から漁に出られますからぁ」

「そう? だったらボートを見に行こう!」


 僕らは連れ立って外に出た。

 先ほどまでの気落ちしていた様子は見られず、ルールーの足取りは軽くなっている。

 僕もすてきなご近所さんができてとてもうれしかった。


 桟橋は砂浜から十五メートルほど伸びていた。

 水深はあまり深くなさそうだから、大型の船は着岸できないだろう。

 ただ、こちらもグレードアップは可能で、ポイントさえ振り分けてやれば『桟橋』から『船着き場』にすることができる。


「使いやすそうなボートですねぇ。でも、本当に私が使っていいんですかぁ?」


 ルールーは不安そうに念を押してきた。


「心配しなくてもいいって。ルールーはいい人そうだもん」

「そんなぁ、エヘヘ……」


 褒められてルールーは照れている。


「そのかわり、僕にボートの扱い方を教えてよ。それと釣りのやり方も」

「もちろんよですよぉ」


 ポイントはすべて使ってしまったので、今日はもう島を開発することができない。

 それだったらこれからの生活のためにも、午後は有意義に過ごしたいと思った。


「じゃあ、さっそく釣りをしてみましょうかぁ。その前に、私は餌となるワームを集めてきますねぇ」

「僕もやってみる!」

「伯爵家のお坊ちゃまが虫に触れるのですか?」

「平気さ」


 アイランド・ツクールの中では虫を探して大地を掘ると、思わぬ宝物が見つかることが多かった。

 こっちの世界でもそれは変わらないかもしれないから、やってみるべきだろう。

 キラキラ光る石や錬金素材、場合によっては金塊ナゲットまで出ることがあったもんな。

 他にもハーブの種や花の球根など、有用なものがたくさん出てくるのだ。

 百合の球根は販売してよし、育てて花を咲かせるもよし、食材にしてもよしと活用範囲が広かったのを覚えている。

 見つけられたら茹でて食べてみるとしよう。


「それじゃあいってみよう!」


 僕らは笑顔で出発した。

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