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 箱の中から見遣れば、雨景も他人事だった。雨脚は物音を1つ亦1つ踏み付けて繰り返し落下する。未だ燎原が曜変する迄には猶予がある。白翼の1対へ体感温度の加減を尋ねてみると頭部や胴体を持たないなりに、僅かに発条の線上になる手振か翼振かをした。片方の初列雨翼の辺りからもう片翼へ、円体を引用する近似でぼくのマフラーを掛ける。空中の同位置に停止し続けている照合は畢竟、防寒具の重量は浮遊機能に影響しないらしい。

 道路灯の連立する車道は間隔が充溢へ献身して頼りない。人通りのない歩道に1つきりの電話ボックス内へ望む現実味は雨宿りだけで、尖翼中腕に似通う翼と相対する予想は瞭然たる皆無だった。両翼に塵埃が見え隠れする、解語の翼だ。彼女の行方について心当を訊ねてみたが、非言語に依る意思疎通には限度があった。

 非対称な会話を遣り過ごす内に帳幕は定命し、雨は全線を透く。帰路への後戻りを逡巡していると翼の背後、硝子越しの夜空で光跡が整除された。1瞬間、視覚の布置を考慮する以前に手を引く心算で翼端へ触れる。顳顬へ風切が掠り、微音が星群を読唇させる。貝殻へ耳朶を寄せて、潮騒が跡形の斜面に呼応するように。此の頭顱ごと引き寄せるように耳を遮って翼は、流星の音を教えてくれた。

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