untitled_20231224

⚡🥚

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 狐狗狸さんを喚び出してから、もう幾何いくばくになるだろう。

 異変は逐次深刻化した。10円玉が独りでに動いたり。3人の内の1人が、金毛9尾として振る舞い始めたり。気付けば彼方あっちへ行こうとしても何方どっちに向かおうとしても昇るような降るような階段の迷路で、私達は散り散りになっていた。Maurits Cornelis Escher作のRelativityに肖似する、矛盾許りの空間に依然として狐狗狸さんが潜在していることを、私は信じて疑わない。どうぞお戻りくださいと請うた私達へ、狐狗狸さんはいいえと返事をしたからだ。

 此の迷宮入りから誰もが帰る何時いつかを迎えるよう、私なりに幾つかの案を実行した。先ず試みたのは、狐狗狸さんを喚ぶ際に施用する諸記号の書体変更だ。其れ等を書いた元々の紙は逸失状態の為、常備していたペンで直接踏板へ書き込む。ゴシックから明朝へ、タイポスをアンチックに、翻ってFette Gotischで。両部や3柱と言った鳥居形も試してみた。色についても真朱、聴色、柳緑と変えて画筆による縁取り等様々、実験したかったがここまで来ると幾ら何でも、ペン1本では8進どころか2進も3進も行かない。

 思い返してみれば、問い掛ける内容に過誤があったようにも思える。装飾品の飴杖を際限なく分割する方法。贈主の艝が徐々に狭間隔で加速し乍ら飛行するとして、誰が1番にプレゼントを受け取るか。狐狗狸さんはの答えも知っている。知り過ぎている。私達も亦問い過ぎたのかもしれなかった。其の癖、問わなければならないことに触れられていない体感があった。1枚の紙上における1語ずつの出力は、可能な回答量と比して余りにも遅くて。質問者へ伝え切れない余剰の文字数で、狐狗狸さんの脳内言語が混乱を蓄積していったとしたら。

  狐狗狸さん、狐狗狸さん。どうか答えて欲しい。私が、貴方と巡り逢う為には。何丈どれだけ問うても、私よりずっと高所から造化を知悉する、貴方に。然うして私は、賽のように硬貨を賭す。

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