第6話 秘密の協同


(あれ? あれが、ゆるふわ主人公ちゃん? 見た目はアレだけど、中身が……何というか……)


 きっと同じことを感じたのだろう。図書室でいつものように本を読んでいると、普段は視線すら合わないシアンが急に話しかけてきた。


 同じクラスに転入してきた彼女について、だったから余計に驚いた。



(アリサさんっていうんだ……)


 主人公ヒロインの名前は名称変更可能だったから、彼女はもしかしたら転生者なのかも。


 こちらの素性を証すのは彼女の動向を見てからにしようと思った。出来るだけ隠しておきたい。


「シアン様。お昼は、どちらで?」

「……」


 早速、攻略対象の一人である『悪役令息シアン・プレアデス』に話しかけている。


 まぁ……見事に無視されているが。


 シアンは攻略するのがかなり難しい。悪役令息というだけあって、なかなか好感度が上がらないのである。私からすれば、ヴェガ兄さま以外なら誰でもいいからよいのだけれど。


(あっ! 諦めたみたい。他の攻略対象に会いに行くのかな? お昼だから……中庭かな? それにしても、うーん。本当に思い出せないなぁ。私って、結局、どうなっちゃうんだろう?)


 モヤモヤした気持ちを抱えながら、ぼんやりしていると目の前に気配を感じた。


「ステラ。ちょっと来い」

「ひっ! え? ……はぁ?」


 普段、滅多に人前で話しかけない彼がクラスの中で話しかけるなど、注目の的だ。なかば強制的に、そして、何よりもクラス中の視線から逃れるために黙って彼についていく。



「それで? 何ですの? また彼女について?」

「話が早くて助かる。一体、何が目的なのか?」

「……さぁ? 私にわかるわけないでしょう?」


 人気のない池の畔のガゼボでランチを摂る。二人だけの静かな時間が過ぎていく。


「……貴方に興味があるのではなくて?」

「どういう意味だ?」

「異性として、御近づきになりたいと思っているのでは? そういうことは今までにもあったでしょう?」

「そういう感じとは少し違う」

「……どういうことですの?」


 シアンは少し考えるように顎に手をあてる。


「自分に好意を持ってもらえるのは当然だと思い込んでいるように感じる。そして、それが絶対的に変わらないという自信を持っている」


(うっわぁ……シアン、スゴイね。物語ストーリーをお見通しだ)


「気になるなら、探ってみたらいかが?」


 そう提案するとギロリと睨まれる。ビクッと肩を揺らすと視線を外された。


「調査は、する」

「そう」

「但し……ステラ、お前も一緒だ」

「へ? 今、なんて?」

「お前も、一緒だ」

「なっ……何でよ!?」

「気になっているのだろう?」


 シアンの一言に驚いて目を見張る。確かに、気になってはいる。私のエンディングがどうなるのか、まだわかっていないから。私の今後の人生がかかっている。そりゃあ、気にもなる。……むしろ、気にするなっていう方が難しい。


「……わかったわ。協力する」

「ああ。助かる」


 そうして、二人の秘密の協同関係が結ばれた。

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