第7話
「私さ、貝になりたいんだよね」
「……なんの話?」
放課後。
日直の仕事を共に行う同級生のクロちゃんが意味の分からんことを言ってきた。
窓の外はもう黒く、真っ白な照明が照らす教室の中で彼女がプロジェクターを消し、私は日誌を書いている。
他のみんなはもう帰っちゃって、私たち2人だけ。
「貝ってさ、人間関係とかなさそうじゃん」
「人間じゃないし……」
「黒板は消さなくていいし、勉強はしなくていい。そして、何より硬い」
私は彼女の手を見た。いや、見なくても知っていた。
右の人差し指に巻かれた包帯。
クロちゃんは生まれつき皮膚が弱いらしい。
高校が始まって半年。ずっとどこかに包帯を巻いている。
「
「……なんだろ」
悩む。
私は、実は現状にそこまでの不満は無い。
ちょっと心臓は弱いけど、歳を重ねるにつれて少しづつだけど安定してきてる。
パパもママも先生も優しいし、クロちゃんみたいな友達だっている。
口では合わせてみるものの、言うほど勉強は嫌いじゃないし。
だけど、貝か。
「……やっぱ、海かな」
「分かる。母性やばいもんね。母なる海、似合ってる!!」
「……ちーがーいーまーす!! 私、海に行きたいな。海で暮らしたい」
私の名前の元にもなってる海。両親の出会いがサーフィンだったこともあってか、幼少からよく連れていかれた。陽キャがよぉ。
だけど、私は海に入れない。温度変化が厳しいらしい。
水族館に通った時期もあったけど、足りない。
あのでっかい海を自由に泳ぎたい。
「その言葉を待っておったよ」
「え??」
同時に、クロちゃんが雑誌を押し付けてくる。
いつも彼女が見ているファッション雑誌ではなく、2次元のキャラクターが書かれたそれは……
「ゲーム雑誌……?」
「そ!! イノセンスファンタジアってゲームが来月出るんだよね。実は私βテストに参加してて……」
「泳げるの!?」
驚いた。
でも、どこかで現実を見ている自分もいた。
私も海をテーマにしたVRは体験したことがある。でも、違った。
手を浸けた感覚も、目の前を踊る魚たちも。
「
だけど、目の前の瞳は信じれる。
その夜、私は両親に久々のオネダリをした。小6以来のプレゼントに、ふたりは快く頷いてくれた。
「勉強だけは欠かすなよ」
「……うん!」
1ヶ月、とても長かった。
高まった期待は裏切られることなく海を知る。
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