第6話
「……え?」
インフォメーションが頭の中に響く。
それは、戦闘の終了を伝える音。私の勝利を伝える音だった。
頭がぼんやりしている。まだ、身近に迫った死の感覚が忘れられない。
なんかまた手に入れてたっぽいけど、今は全然気にならない。
終わった。
助かった。
そこまで思考が至った途端、目の端に映る白と赤が見えた。
見覚えがある。
見覚えしかない。私が戦った理由のひとつ。
「……サカナちゃん!!!」
酷い有様だ。
元々壊れかけだった身体は、さらにボロボロになっている。
トゲが刺さった傷はグチャグチャになり、噛まれたであろう跡は傷が開いて止めどなく血が溢れだしている。
そして。
頭が1番酷い。
追われていたとき、片目が潰れているのは見た。
だけど、今はその比じゃない。
突進によってだろう。
ボロボロなんて言葉じゃ表せない。
ゲームだとは思えない。生命が流れ出していく光景。
なんで戻ってきちゃったの?
私なんかが死んでも、1時間のログイン制限で済む。
だけど、この子は違う。
たとえAIだとしても、この子が生きたデータは消えてしまう。
「……なんで?」
答えてくれる筈もなく。
ただ、生命が尽きるのを待つしかないのだろうか。
「アイテム、回復アイテムとか!」
やばい、頭が回らない。回復アイテムなんて持ってなかった。
なんだっけ、どうすればいいんだっけ。
【いい匂い】じゃない。
回復魔法は使えない。
スキルは歌を選ぶべきだったのかな。
何歌だっけ。違う、そうじゃない。
そうじゃないなら……
忘れていた。テンパっていた。
普段なら絶対にしないミス。
私は、私の夢をまた忘れかけていた。
「サカナちゃん、私と一緒に来て!!」
酷い姿だ。あと1分持つかどうか。
でも、まだ間に合う!!
「【フィッシュテイム】!!」
手から光が発射される。
その光は、サカナちゃんを正確に貫いた。
……1拍
……2拍
……3拍
永遠にも思える時間の中。ゆっくりと海流に血が流れていく。
……4拍
……5拍
『スクリューフィッシュのテイムに成功しました。名前を付けてください』
間に、あった。
インフォメーションがスキルの成功を教えてくれる。
だけどおかしい。
まだ止まらない。
流れ溶ける血が、まだ止まらない。
手のひら程の大きさのどこにそんなにも血が通っているのだろうか。とてつもない程の量が周囲に溶けだしている。
「え!? なんで!? え!?」
止まらない。正解じゃなかった?
どうして? どうして?
【岩突】も違う。【鑑定】が教えてくれるのは瀕死の2文字だけ。
どうしようもなくって、ここでも私は無力で。
「……遅くなってごめんなさい」
人に頼ることしかできない。
紫の尾鰭が視界の隅っこに入る。
歌が聞こえる。
みるみるうちに、体の疲れが取れていくのを感じる。
それと同時に、目の前のサカナちゃんの身体に生命が満ち始めるのを。
「最後のチュートリアルを始めましょう」
「キドナ、さん……」
悲しげに、申し訳なさそうに目を伏せる彼女。
私をここに飛ばした張本人にして、色々教えてくれたチュートリアルキャラクターのお姉さん。
助かった、と考えると同時に違和感に気付く。
手で隠した口角が、上がっている。
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