第4話
「はぁ、その組み合わせは珍しいわね。街でも見た事ないわ」
「そう、ですか? サカナちゃんに戦闘の余波行くの、嫌じゃないじゃないですか」
「そう? それなら歌で支援とかでも……」
「サカナちゃんが戦ってるのに私が手を汚さないなんて!!」
可愛い可愛い(予定)のサカナちゃん。
そんな子が頑張ってるのに、私は後ろで見てるだけ? 有り得ませんぜ、キドナの姐さん!
「わかったわ。最後に、謎のスキル3つの説明して、実戦行くわよ」
「はい!!」
そうなのだ。埋めれるスペースは埋めた。Choiceの謎は解けた。
【水泳】と【エラ呼吸】は生活必需品だろう。
だけどまだ分からないことがある。
……いや薄々勘づいているけど。
「【デスアビリティ】、【いい匂い】、【歯茎耐性】って……」
「えぇ。称号スキルね。一定の条件を達成すると手に入る【称号】。簡単なものから、あなたの『初めて世界でデスしたプレイヤー』みたいなオンリーワンなものまで様々。それらは獲得すると同時にひとつのスキルを与えてくれるの」
称号スキル、ね。今回は棚ぼただけど、次いつ手に入るか分からない。それに元が不名誉だからか、効果も弱そう。
「……見た感じあんまありがたい物じゃないんですかね?」
「とんでもない! 有用なものもいっぱいあるわ。【いい匂い】は…… 分からないけど、【デスアビリティ】なんて相当強そうじゃない。死ぬ度にスキルが増えるなんて」
「……たとえ強くなれたとしても、死ぬなんてもう懲り懲りです」
せっかく自由に生きられるのだ。1秒だって死んでられない。
それにこれからは、守るべき仲間サカナが増えるのだから尚更だ。
「そう。それもそうね。だけど、この海の中。そう言ってられないことも多いわ。……そのスキルで、乗り越えて見せなさい」
「え?」
唐突に目の前の美女が消える。
指が鳴る音がする。
いつの間にかランプの光も消えており、一瞬の暗闇。
次の瞬間。
「!? 眩しっ!!」
急に目の前が明るくなる。
目に映るのは、先程までの見えないの闇とは異なり燦々と輝く太陽の光が透過する浅瀬。
生命の匂いがする海。
水温は暖かく、明らかに場所が変わっているのを感じる。
転移だ。キドナさんのスキルで飛ばされたのだろう。
何故?
辺りを見回す。
相変わらず、ゲームだとは思えない光景が広がっている。
水の温かさも、太陽の光も、辺りを満たす大小様々な生命も。
血を流して、何かから逃げてくる小魚も。
そして、向こうから高速で接近してくる大きな敵も。
元となった地球の生き物は、どこか安らかな印象を持っている。優しそうな目も、その身を覆う甲羅も。
だけどコイツは違う。棘がある。牙がある。目は血走り、人と同じくらいの大きさがある。魚を追う姿は、捕食目的と言うより愉悦を感じる。
……亀だ。
だけど同様にして魔物だ。
生き物をこの手で倒す? 逡巡。思考が脳を巡る。
だけど、亀は減速することなく突撃してくる。
このままの速度でぶつかれば。
間違いなく死ぬ。そして逃げている小魚は食べられてしまうだろう。
2回目以降のデスペナルティは、初回とは違って1時間のログイン制限が起こる。
……ならば私は。
「ぶっ飛ばす!」
まだ、泳ぎ足りない。
何も見ていない。
そして、この逃げる生命を見逃せない。
私と同じ、弱いこの子を。
「逃げて、サカナちゃん!!
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