悪い報せと売国奴―3
冷たい、まるで蛇のような叔母――ナタリー・スレイドと、私が幾らで売れるかが関心事な叔父の視線が突き刺さる。
魔法学院へ進学する以前、事ある事に折檻され、何度も独りで泣いた記憶が蘇り、私は制服の袖を掴み頭を深々と下げた。自分自身の情けなさに涙が零れ落ちそうになるのを必死で堪える。
「お、叔父様、お、叔母様……お久しぶり、です」
「確かに久しぶりだな。魔法学院から書簡は――……あ~、来ていたか? 覚えていないな」
「そんな些事はどうでもいいでしょう。早くしないと、レンベリ侯が主催されるパーティーに遅れてしまうわ。先に行かせたイレーナも、私達が遅れればきっと心細いでしょう。こんな子に使う時間が勿体ないのだし、さっさと本題を話してちょうだい、クリント」
頭上で、ナタリーが叔父を促した。
本来、魔法学院からの書簡は如何なる貴族も無視出来ない権威を持つ。王家ですら、扱いに気を遣っている程だ。
歴史にとても詳しい私の親友によれば、約二百年前の時代に生き、王国へ多大な貢献を成した大商人が関わっているらしいけれど……今の私には関係がない。
分かっていたことだけれど、目の前にいる人達の本質は、二年前と一切変わっていない。
なら、この後の言葉はもう決まってしまっている。
叔父がわざとらしく手を叩いた。
「確かにそうだ! レンベリ侯の御機嫌を損なうのはよろしくない!! 何しろ、あの御方は私と同じく芸術を大変に愛されている。懇意にしておけば、噂に名高いコレクションを譲っていだだけるかもしれないのだ」
「うふふ……侯爵夫人の宝石コレクションも、それはそれは素晴らしいのよ? 今度、幾つか譲っていただける、と約束もしていただけたし」
「ほぉ、それは良い話だな、我が美しき妻、ナタリー・スレイド伯爵夫人。芸術を理解しようとせず、やれ財政が、やれ税を取り過ぎれば領民達の不満が、と口煩かった老人達に暇を取らせた甲斐があったというものだ。」
「ええ――とても。スレイド伯爵閣下。あとは先立つ物があればいいのだけれど」
「同感だ」
二人の会話は遠い世界の話のよう。
やっぱり……古くから仕えてくれているみんなを、私には何も言わず辞めさせて。
スレイド伯爵家といえば、王国内でも善政を敷くことで他国にも知られていたのに。ごめんなさい、御父様。ごめんなさい、御母様。
私は……私は無力です
「エリナ、そろそろ顔を上げておくれ」
「…………はい」
クリントの気持ち悪い猫撫で声に寒気を覚えながら、私は顔をゆっくりと上げた。
目の前に簡素な書簡が差し出され、叔父と叔母の手が、私の両肩に置かれる。背筋に走る寒気を止められない。
「先だって伝えていた通り、お前に縁談の話だ。当初はイレーナ、をと言う話だったが、伯爵家の娘を平民に嫁がせるわけにはな」
「相手は『アニエス商会』会頭。名前は……何だったかしら?」
叔母が小首を傾げる。
この人は書簡すら読んでいない。
肩から手を外し、叔父が嘲りの笑みを浮かべた。
「アレックス――アレックス・ライト。金儲けだけは多少得意な
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