第20話 元プロゲーマー、邪神を討伐する

「やっぱりヒリヒリする戦いは堪らないよな」 


 邪神と一体化したミスリナは俺に向かって禍々しい色のビームを放ってくる。


 俺は禍々しい色のビームを呪いの短剣でパリィしながら、徐々に距離を詰めていく。


 当たらなければ実質0ダメージ。しかし強大な攻撃であることには変わらない。当たれば即死は免れない。


 やっぱり呪いの短剣に耐久力がないことはものすごく助かる。


 だが……何かがおかしい。


「自傷するタイプの敵ってめちゃくちゃ強いって相場が決まっているんだが、そこまで手ごたえを感じない? どういうことだ?」


「気づいてしまいましたか」


「マキナ?」


 マキナは意味深な感じで言う。まさか俺が抱いている違和感の正体に気づいているのだろうか?


 しかしマキナの口から飛び出た言葉は俺の予想外のものだった。


「残念ながら……ユリウス様は気づかれてないようですので言いますと――実はレベルアップしているんですよ」


「は?」


「この世界に来る時に言いましたよね? ユリウス様にギフトはあると」


「そうだな」


「この世界に転生した人はもれなく全員レベルアップの特典があったんですよ」


「え? どうして今更そんなことを……?」


「いやー、バレたら怒られそうですし。それに気づいていないようでしたのでいいかなと」


「いや、よくねぇーよ!! もっと早く言えよ!」


「いやいや、気づくかなって。本来、S級に指定されている悪魔とか普通の人間が簡単に倒せる訳ないじゃないですか。地球のゲームで例えたら終盤あたりに出てくる敵ですよ? 簡単すぎると思いませんでした?」


「いや、まぁ少しは思っていたけれど。そんな敵を転生してすぐの俺のところの寄越す方にも問題はあるだろう……」


 とはいえ、俺が縛りプレイを課してやっていた高難度のゲームは、いきなり中ボスクラスとの敵と遭遇したりするから、その時点でプレイヤーの選別も入ってくるゲームだった。そう考えたら妥協なのかもしれない。


『ずいぶんと余裕じゃないかしら。まったく舐められたものね!』


「ずいぶんとお怒りじゃないか」


 邪神と一体化したミスリナから怒りの感情を感じる。


「なので安心して倒してきてください。今のユリウス様のゲームの適応力。そして強大なステータスがあれば簡単に倒すことができます。これでも私、ユリウス様のことの信頼しているんですよ」


「それなら信頼に応えないとな!」


 文句は後からでもいくらでも言える。


 俺は全力で地面を踏みこんで加速する。


『な、なんだその速度は!』


 邪神と一体化したミスリナは俺の攻撃速度に驚いていた。驚きたいのはこっちの方だよ。通り過ぎて奥の壁まで到達してしまったじゃないか。


 だけど、ハイスピードが売りのゲームもやってきたおかげでこの後にすべき行動も脳が、頭が理解している。


 俺は到達した奥の壁を蹴り上げて、再度邪神と一体化したミスリナに攻撃を繰り出す。ただその連続。


「さすがユリウス様ですね」


「ユリウス様!! 頑張って下さい!」


「……!(ふんす!)」


 みんなのためにも俺は勝たないといけない。


 ――そうか。俺は今まで自分のために勝利も縛りプレイもしていた。だけど守らないといけないものに気づいてから、戦うべき理由が変わっていたのか。


「だったら勝たないといけないよな」


『ふざけるな!! 私は!! 私は!!』


 俺は再び大きく踏み込んで奥の壁に到達した後、


「いいや、これで終わりだ」


全力で壁を蹴り上げて邪神と一体化したミスリナの元に落ちていく。


 壁を蹴り上げたことによる加速と重力による加速。


 二つの加速から編み出される重撃にして不可避の一撃。


「轟け――ライトニング・ランス」


 俺は邪神と一体化したミスリナに呪いの短剣をねじ込んだ。


『ぐ、ぐああああああ! も、申し訳ございません……アザゼル様。私は……』


 そう言って、異形の神は消し去った。


『おめでとうございます。ユリウス様はこの世界で初めての偉業――邪神討伐を達成しました!』


 それは世界を混沌に陥れようとした邪神を倒したことでもあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る