第16話 海竜族の娘、スパチャの嵐に困惑する


「それは話が違うだろ……!」


 ワクワクした気持ちで家に帰り、高難度ダンジョンに挑戦できることをウキウキしていた。ふと、ギルバートから家で開けろと言われたものを開けるとマキナ、ルシファ、アクア、クリア4人のA級冒険者のライセンスが入っていた。


 しかもご丁寧に手紙まで付けて『必ずパーティで行くこと。追伸、配信も楽しみにしているぞ』と記載されている始末。俺の楽しみを奪って……一体何が目的なんだ!


「楽しみですね!! 私、ユリウス様のダンジョン攻略にお供できて幸せですっ!」


「そうか。だけど、どうしたものか……」


「どうしたんですか? やっぱり、私……お邪魔でしょうか?」


「あ、ごめん。そういう意味じゃないんだ。言いづらいけど、アクアはともかく、クリアは大丈夫かなって」


 正直、見た目といい気の抜けた感じじゃモンスターと戦えるとは思えない。本音を言えば、わざわざ危険な場所に飛び込む必要なんてないと思っている。


 行先がダンジョンでなくても相手が心配ならそう思うのが普通だろう?


「あー、そういえば言っていませんでしたね」


「え? 何が」


 アクアは目をあっけらかんと言う。


「魔法に関しては私よりクリアの方がすごいですよ」


「え?」


 いや、まったくそうは思えないだけど……。


 俺は隣のソファでスヤスヤと眠るクリア見て思う。


 本当かなぁ……。でも保険に保険を重ねていた方がいいよな?


~~~~~~~


「えっと今日は企画を変えて、今回はコラボでダンジョン攻略を行いたいと思います」


 ここは洞窟型のダンジョン。ゴツゴツとした岩肌にジメジメとした湿気が鬱陶しいこの場所にはどうやら悪魔が存在しているらしい。


 前に戦ったシトリーと違い、ちゃんとモブの敵もいる。今回はなおのこと体力管理をしないといけないのだが、それ以上に気を付けないといけないことがある。


「あ、あの……海竜族のアクアとクリアです……! 今日はよろしくお願いします!」


 俺は説得を試みたが、アクアもクリアもどうしてもと聞かなかった。なにせ二人は悪魔に受けた借りを返したいと燃えていたからだ。


 ならいっそ、一緒に攻略をしようという話になった。


 とはいえ、このダンジョンは初回である。そんな中でソロの縛りプレイを邪魔されたくなんてない。


 それならとルシファが『サポートという形で見学したらどうでしょうか?』ということでそこが折衷案になった。


「といっても、二人はダンジョンに潜るのは初めてなので、今日は俺のサポートしてもらうことにします」


 クリアは『ふんっ』と鼻息を荒くして立っている。どうやらやる気は十分のようだ。


 ちなみにコメント欄を見てみると……、


『かわいい!!』


『かわいすぎぃ!!』


『今後ユリウスさんよりこの姉妹を見ていたい……・』


『素敵な美少女が見れると聞いて来ました』


『だけどユリウスさんがダンジョン初めての人に何を教えるのか気になる!』


『密かにユリウスさんの動画を見てダンジョン攻略気になってるんだよな。俺もやろうかな』


 というコメントが寄せられていた。正直、俺なんかより美少女二人が冒険していた方が絵になるのは間違いない。だけど、最後の俺の動画を見てダンジョン攻略に興味を持った人の声を聞くのは、いち配信者としてとても嬉しい。


『つまり、ユリウス様のお弟子さんってこと?? 頑張ってください』


 リザベール第三王女から100000Gのスパチャです。


「ひょ、ひょえぇぇ……! いつもありがとうございます!」


「どうしたんですか?」


「いや、リスナーさんがアクアとクリアに100000Gのスパチャをだな……」


「えっ!? 100000G!? ダメですよ! お金は大事に使って下さい!? いや、でも嬉しいですよ!? 嬉しいですけど!! ダメです!」


『じゃあ俺も大事に使うか~(20000G)』


『そうだね~ダメだね~(5000G)』


『そうだお前ら! もっと大事に使え!!(8000G)』


『いきつけの酒場の日替わりメニュー、シチューだったわ(15000G)』


『クリアちゃん!! 俺だ!! 結婚してくれ!(50000G)』


「ひぃぃ……! この人たち貴族か何かなんですか~!? ありがとうございます~!」


 アクアはスパチャに混乱していた。気持ちは分かるけどね。


 あとどさくさに紛れてクリアに求婚したやつ。それはさすがに犯罪だから後で覚えておこう。


「というかアクアはともかく、クリアもついてきて大丈夫なのか」


「ん」


 クリアは誇らしげに胸を張る。本当に大丈夫だろうか……俺は少し心配ではある。


 しかし仕方ない……まずは手本を見せるしかないか。ダンジョンは後からRTAを目指すついでにクリアをすればいい。


「ユリウス様! 見て下さい! モンスターです! モンスターですよ!」


 アクアは少しだけはしゃいだ様子だった。目の前には1匹のゴブリンが歩いている。


やる気があることは良いことだけど、ダンジョン攻略に置いて一番大切なのは冷静さだ。


「まぁ、落ち着け。いいか。大きな声を出すとモンスターに気づかれるかもしれない。そして無駄にモンスターを相手にしていると、後半無駄に体力を使ってしまい、息切れしてしまう。ポイントはなるべくサッと素早く倒すこと」


「なるほど……! 勉強になります!」


「よし、見てろ」


 俺はゆっくり背後に忍び寄り、短剣をゴブリンの首に突き立てる。


『GYA―――』


 そうして速やかに命を刈り取る。


「な? 簡単だろ?」


「さ、さすがです! 勉強になります!!」


「いや、勉強になったかどうかはアクア次第だな」


「頑張ります!!」


「まぁ、そんなに難しくはないから」


 すごくやる気に満ち溢れていた。


 しかしコメント欄では、


『え……? 簡単ではなくない……?』


『サッとできないんだよなぁ!』


『うーん! 鮮やか!!』


『アサシン系のスキルは……発動していないようなのだが???』


『頑張れアクアちゃん!!』


 と、あんまり簡単ではなさそうな声が多かった。おかしい。


「じゃあとりあえず、やってみようか」


「分かりました!『アクアブレード!』」


 と言いながら、右手に水の剣を纏わせる。


「そいっ!」


 と言いながら、アクアは水の刃を飛ばし、ゴブリンの首を背後から一撃で跳ねる。


「すごいな」


「ありがとうございます!!」


「だけど、背後から攻撃する時に声を出してしまうと気づかれるかもしれないから気をつけた方がいいかもしれないな」


「わ、分かりました……」


 俺がそう言うと、アクアはしょんぼりと肩を落とす。


「まぁ、でも一撃で倒せば問題はないか……すごいぞアクア」


「!! ありがとうございます!!」


 アクアは一転して笑顔になった。やっぱり褒められるって嫌な気はしないもんな。


 全然関係ないが、自分の名前を技名に付けるのは良いな……余力がある時にちょっとやってみよう。


「じゃあ、今度はクリア――」


 と言い終える前に、クリアはゴブリンに巨大な氷塊を落としていた。


「(ふんすっ!)」


 と鼻息を荒くしてドヤ顔を決めるクリア。


「おぉ……すごいな」


 そういえば、アクア曰くクリアは自分よりもすごいと言っていたっけ。


俺達はゆっくりとダンジョンを進むのであった。



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