第13話 元プロゲーマー、悪魔を倒したその後……

「いやぁ! ユリウス殿! 君は水竜族の救世主だわ!!」


 ここは水竜族の村。大きな湖がシンボルになっているこの村で俺達は歓迎を受けていた。

 悪魔を倒したことにより、水竜族にかけられた弱体化の呪いを解く事ができた。


 そのお礼も相まってアクアとクリアの母である族長のリヴァイアサンが開いてくれた宴の席に相席しているところだった。


ちなみに低級悪魔シトリーは呪いが解けていることを確認した後、ギルドに引き渡した。


「本当に助かったわ……もしも、あの悪魔を倒すことが叶わなければ、私達海竜族はきっと悲惨な運命を辿っていたわ。特にピチピチのこの私!! きっとすぐに攫われてしまい、慰め者になってしまうわね! はっはっはっ!」


「お母さん。恩人の前ですよ。本当に攫わると思っているんですか? ピチピチなんて年齢でもないですよね?」


「我が娘ながら辛辣だわ……きっと慈悲深い私には似てないわね」


「残念ながらお母さんの血ですね。お父さんは極度の人見知りですし」


「そうね。そこが可愛いところでもあるのだけど!」


 なんというかリヴァイアサンは豪傑そうな人だった。


 アクアはそうは言うもの、見た目だけならアクアやクリアの姉と伝えられても違和感はない。

 二人と違うのは幼さの欠片はないところくらいだ。かといって老けている訳でもなく、純粋に見た目は若いのだ。


「あの、別に気にしなくていいですよ。悪魔を倒すのは楽しかったですし」


「気にしなくていいのよ。呪いを解いてなかったとしても、ウチの娘達の恩人だって事実は変わらない訳だし」


「いや、それもたまたま居合わせてだけで」


「ユリウス殿……君は謙虚ね。まったく子供なのに、偉すぎるわ……もう少し、ワガママになってもいいのよ?」


「そういわれても……」


「あら、本当にないのかしら? 例えば、君の『ママ』になってほしいとか。とても魅力的だと思わない? 大丈夫よ? 一回言ってもらっていいかしら? ほら『ママ』って」


「お母さん!! ユリウス様が困るでしょ!?」


 アクアが席を立ち、母であるリヴァイアサンを止める。


「あらあら~? アクアたん嫉妬ね~? いや~まったくもって分かりやすいわね~」


 なんというか、親子仲睦まじい光景で少し羨ましい。この親子の関係はいつもこれが日常なのだろう。


「ん」


「え? クリア……あなたも嫉妬しているの……? この子がこんな感情を……?」


 何故か母であるリヴァイアサンが驚いていた。どうやら、日常ではなかったみたいだ。


 まだ短い付き合いではあるが、クリアは意外と表情に出やすい。よく見ないと分からない変化ではあるけれど。


きっとクリアは父親似なんだろう。なんてどうでもいいことを考えてしまった。


「あ、そういえば、旦那から貴方にお礼って……私の夫は腕利きのクラフターなんだわ!」


 そう言って、布? の素材でできたアイテムを渡された。一見、衣類などの装備するようなアイテムにも見えないのだが……。


「ダメだよお母さん。この人、貴重な武具やスキルカードには全く興味を示さないんだから」


「これは超熟睡できる掛布団。疲れもキッチリ取れるって言ってたわ!」


「ありがとうございます! 大切に使わせて頂きます! 是非ともお父様にはお礼をお伝え下さい!」


「なんで!? 掛布団は受け取るの!? 意味が分からないんだけど!?」


アクアは俺が掛布団を受け取ったことを理解できないらしい。


 全く分かっていない。布団一つで寝心地が変わるのだ。疲れもすっきり取れて良いことづくめ。なによりダンジョン攻略にまったく関係ない。良いことしかないのだ。


「嬉しそうでなによりだわ。そうだ……せっかくだし、この布団でママと寝てみない? きっといい夢見れるわよ」


「あ、それは大丈夫です」


 いや、あんた夫いるんだから……自重しろって。


「仕方ないわね。代わりに私の娘達と一緒に寝なさい」


「お母さん!? 何を言っているの!?」


「……ん」


「え!? アクアはなんでやぶさかでもないって顔してんの!?」


 アクアは『ムフー』と鼻息を漏らしている。たしかにアクアは常に気だるげな感じだし布団の中が好きなのだろう。


「まぁ、どちらにしろユリウス殿は一族の恩人であることには変わりないのよ。どうかしら、ユリウス様さえよければ、私達の娘をあなたの家に置いてくれないかしら? 遅かれ早かれ外の世界を見てもらうつもりだったのよ」


「お母さん……」


「ママとしては信頼できそうな貴方の家で面倒みてくれると嬉しいのよ。あぁ、もちろん、しっかり生活に伴う対価は払うわ」


「いえ、大丈夫ですよ……自分でやることに意味があると思うんです」


 貰ってしまえば何を言われるか分かったもんじゃない。分からない以上は触れないのが正解だ。


「……驚いたわ。こんなにもできた子が人間でいたなんて……分かったわ! もしも困ったことがあったらなんでも言いなさい!!」


「あ、は、はい……」


 急に手を握られるものだから驚いてしまった。


「おっと、またアクアに怒られそうだから、後は若いお二人で。それでは失礼するわね~」


 そういってリヴァイアサンは席を立って、そそくさと消えていった。


 まるで嵐のような人だな……。


「まったくお母さんったら」


 アクアは口を膨らませてご機嫌斜めの様子だった。


「なんというか、すごい人だね。アクアのお母さん」


「ごめんなさい。ご迷惑でしたよね?」


「迷惑だと思わないけど……なんというか羨ましいなって」


 プロゲーマーYUTAとして活動してから、俺は両親と会うことはなかった。端的に言うと仲が悪かったのだ。当然、恋人なんていないから、本当に孤独な毎日だった。そのせいで余計にアクア達の日常が眩しく見えた。だから俺は羨ましいと思った。


「羨ましい……ですか?」


「いや、ごめん。今のは忘れて」


 だけど、そんなことをアクアに言ったって何の意味も為さないのだ。


「分かりました。忘れます」


 アクアはあっけらかんと言う。その優しさが俺には有難かった。


「正直、すごく嬉しかったです。こんな見ず知らずの私達姉妹を……危険を省みず、保護までして下さって……その上で命をかけて悪魔と戦ってくれるなんて……どうお礼をしていいでしょうか?」


「いや、気にしなくていいよ。結果として無事だったんだから」


「それだと私の気がすまないんです!」


 アクアはすごく真面目な人物なのだろう。


「そっか……それなら、もしも誰かが助けを求めていたら、俺のように誰かを助けてあげてよ。俺はそっちの方が嬉しいかな」


「ユリウス様……分かりました。それなら、まずは私もユリウス様のように強くならないといけないですね!」


「ん」


「そうだね。クリアも頑張ろうね! これから姉妹でお世話になります! よろしくお願いします! ユリウス様!」


 そしてアクアとクリア。二人の姉妹は俺達の仲間になった。


 余談だけど将来、アクアとクリアこの姉妹が歴史に名を刻むくらい伝説の冒険者になるのはまた別のお話。



~~~~~~~~~~~~~~


一方、その頃。


「そうか……シトリーがヘマを打ったか」


「そのようですね。どうやら、ユリウスという少年が倒したみたいですが……いかがいたしましょうか? バエル様。このままでは魔神様を復活させる計画に大きな乱れが生じます。先にあのユリウスという男を始末致しましょうか?」


 ここはとあるダンジョンのボス部屋。ここには本来ジャイアントスコーピオンというA級相当のモンスターの根城だったが、このバエルという男は一撃で倒してしまった。そしてそこで部下である女――セーラは人知れず会話をしていた。


「まぁ、落ち着け。そこまで大きな問題はないし、無駄に騒ぎが大きくなっても面倒だ。他の悪魔達の目もあるからな」


 この二人は明らかに人間のようであるが、悪魔の特徴である角と蝙蝠のような翼を生やしている。本来であれば、この世界の人間であれば畏怖の象徴であることは間違いない。


「ですが……」


「いいか。少し考えろ。必要なのはあの姉妹の『血』だ。別に命を奪う必要はない」


「と、いいますと?」


 セーラはバエルに尋ねる。


「例えばだ。蚊を召喚して、奴らの血を吸ってくればいい。好機はいくらでもあるだろう? それに今手を下さなくとも、この秘宝の宝を解いた後、魔神である『タルタロス様』を顕現させれば、人間族の命など等しく塵に同じになるからな」


「さすがです! バエル様!」


「だがあのユリウスという少年、どんな手を使ったかは知らないが生意気な人間風情に絶望を刻んでやるとするか……クククッ」


 そしてバエルとセーラの二人は人知れず人類に終焉を齎すための計画を立てるのであった。

 

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