第10話 元プロゲーマー、配信を切り忘れて焦る

「水竜族?」


「ユリウス様……水竜族というのは、ドラゴンと人間の間に生まれた存在自体が希少な種族です」


 マキナは俺に耳打ちをしてこっそりと二人の種族のことについて教えてくれる。


「そうなのか」


「しかし本来は強い力を持っていて、人間くらいであれば簡単に倒すことができるのですが……しかも族長の娘となればもっと強いはず。どうにも様子がおかしいですね」


 マキナは疑問を口にする。すると水竜族のアクアは困ったように笑みを


「実は、お恥ずかしい話。呪いをかけられまして……全ての能力が人間の子供並みに下げられてしまいまして」


 この世界の人間の子供がどれくらいの力かは分からないが、少なくとも人間の大人相手にはキツくなる程度のデバフをかけられているということだろう。


「そうなのか……だとしたら、かなり厄介だよな。えっと俺はユリウスで冒険者をやっているけど……その、大丈夫? ケガとかない?」


 俺は二人を怖がらせないように目線を合わせながら尋ねる。こんなことがあった後だ。きっと内心ではまだ怖いと思っていてもおかしくはないだろう。


「わ、私は大丈夫です……! クリアは?」


 妹のクリアはコクコクと無言で頷いた。


「そうか……それなら良かった」


 二人は共通して綺麗な顔立ちと透き通った海のような青い髪をしている。昔、俺がプロプレイヤーとして世界大会のために訪れた沖縄の海を彷彿とさせる綺麗な水色だ。


 アクアはショートヘアーで160センチくらいの身長。対してクリアは小柄な体型、髪型は腰まで長いロングで全体的にすこしボサボサになっている。


 ただ一番気になる点はそこではない。


「俺からも聞いていいかな? どうしてアクアとクリアはそんなボロボロの状態で盗賊なんかに追われていたんだ?」


 とにかく服がボロボロだった。かと言って、奴隷……が存在しているかは分からないけれど、服の生地自体は最低限のものではなさそうだった。ということは何かから逃げてきたと考えるのが自然だと思った。少なくとも族長の娘には見えない。


「実は私達……低級悪魔に命を狙われているのです」


「低級悪魔……?」


「はい……突然私達の村に襲って……それで私達は変な呪いをかけられて……私達はもう終わりだと思ったところにユリウス様が私達を救ってくださったのです……」


「なるほど。つまりナーヤゴが言っていたあるお方というのが……低級悪魔だってことか」


 この世界での種族がどのようになっているのかは分からないが、ナーヤゴは崇拝をしている感じがした。つまり、それだけ危険な存在である事は間違いないのだろう。


「でも低級か……どうせなら四天王とかだったら楽しい戦いになりそうだな」


「悪魔は侮らないほうがいいです。いくら低級といえど、一体で街を滅ぼせますから。ランクだとS級っていったところです。なにせあの魔王の使い魔ですから」


「S級だと……?」


 それなら話が変わる。しかも魔王の使い魔となれば、もしかしたら俺が欲しい情報も手に入るかもしれない。


 とはいえ今の状況だと全く情報が分からないから手詰まりなのは変わらないけれど。


 だとしたら、当面はこの二人を保護しておくか……このまま見捨てる訳にもいかないし。


「あのさ……二人は行く当てはある?」


「……実はないんです」


「良かったら、しばらく落ち着くまでは俺の家に来るのはどう? 余っている部屋だから2人だと狭いと感じるかもしれないけれど」


「い、良いんですか……? 助けてもらった上に、こんなに親切にして頂いて……」


「まぁ、乗りかかった船だしな。気にしなくていいよ」


 俺はそう言いつつ、心に何かひっかかりを覚える。なんか忘れてるんだよな……。


「あ、配信切ったっけ?」


 俺はチャット欄を開く。


「やべっ」


 そこには、この一部始終をみていたリスナー達からコメントがめちゃくちゃ来ていた。


『は??? 盗賊を殺さないで制圧ってやばくね???』


『ナーヤゴってA級犯罪者だよな? 手配書この前見たことある……!』


『ユリウスさんつよすぎぃぃ!!!』


『悪魔って低級といえど都市伝説じゃなかったんか!?』


『やってることが伝説の勇者なんだよなぁ』


『というかF級ダンジョンに挑戦してから伝説残しすぎじゃない?www』


『かっこよすぎて震えるわ……!』


『あれ……? ユリウス様の周り美少女だらけじゃない?? 羨ましい……!!!』


『もはや期待以上の冒険者ですね。選別です。ご飯の足しにでもして下さい』


 このコメントには赤字で記載されてあった。リザベール第三王女様より150000Gと書いてあった。


 ひょ、ひょえ~~~!! 日本で言うところの15万円!?? そんな高額スパチャはそんなポンポン送るもんじゃないって!!


 嬉しい悲鳴だけど、今はコメントを読んで返している場合ではない。


「ごめんなさい! 頂いたコメントは絶対、あとで返します! とりあえずみんなありがとう! 次回の配信も是非ともよろしくお願いします! それでは!」


 そう言って、俺は配信を閉じる。


 本当はめちゃくちゃ嬉しいし全てのコメントに返信したい。転生前と比べたら温かいコメントばかりだから、俺は今とても幸せだ。


「じゃあ、三人とも行くか」


「そうですね」


「よ、よろしくお願いします!」


 そして、コクコクと無言で頷くクリア。


 今日の夕飯はとても賑やかになりそうだったのだが……、


 俺はこの時は気づくことができなかった。


 配信を切る直前に送られていた、


『みつけた』


 という文字の事を。

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