第6話 元プロゲーマー、隠しボスと戦う

「それじゃあ始めようぜ」


 昂ぶる気持ちを抑え、俺は盾を構えて歩みを進める。


 堕天使はゆっくりと剣を抜いて、一度宙に浮く。


そのまま直線的な動きで距離を詰めてきた。


 ただ距離を詰めるだけではない。滑空しながらの攻撃だ。俺は右に飛んで回避をする。


「からの?」


 俺は視線を堕天使に向けたまま、第二波、第三波の攻撃に備える。


 第二派は右上から左下に振り下ろす軌道。俺は短剣で剣の起動を受け流す。第三派の攻撃は速い速度での突き――俺は攻撃のタイミングに合わせて盾でパリィする。


 ジャストタイミングでパリィしたはずなのに、剣撃の重たさに腕が少しビリッと痺れた。


「直で受けてたらマズかったな!」


 でも基本的なパターンは掴んだ。だが、すぐさま同じような攻撃をしてくる。単調なのはこちらとしても戦いやすい。


「ユリウス様! 見えますか? あの青いネックレスは洗脳のネックレスです。あれを破壊したら、戦況が大きく変わるかもしれません!」


 マキナの大きな声で知らせてくれる。めちゃくちゃ重要な情報じゃないか。


「それはあんまり聞きたくなかったかな」


 やっぱりゲームは自分で攻略するのが楽しいから。


『――――』


 堕天使は先程と同じ行動のモーションをする。そこはモンスターだからなのか、知能がないのは助かる。


 俺は堕天使の三回目の攻撃に合わせて、回避後に洗脳のネックレスに向かって短剣の柄でハンマーのように殴りつける。


『――――ッ!』


「なんだ。思ったよりも簡単だな」


だけど俺の意識は堕天使に向いたまま。洗脳のネックレスを壊した先に第二形態、第三形態とかあるかもしれない。ゲームではよくあること。警戒をしたことに越したことはない。


『おめでとうございます! 隠しダンジョンボス、堕天使の洗脳解除をクリアしました! これはとてつもない偉業です! 貢献度100000ポイントを進呈します!』


「はぁ……」


 俺は盛大な溜息を吐いた。


 世の中には800時間攻撃し続けても倒せないレベルのモンスターが討伐対象になっているクソゲーだってある。それなのに一撃で解決してしまうのは拍子抜けしてしまう。


「すごいです! 隠しボスですよ!! こんなこと……信じられません!!!」


 マキナはすごく嬉しそうに話しかけるが、想像以上の難易度の低さに萎えているのだ。


「あ、ユリウス様! あそこに宝箱がありますよ!』


「本当だ」


 こういうボスが護っているタイプの宝箱はたいてい強いアイテムが眠っている。大抵はカッコいい名前のアイテムのくせに、使うのに癖があるネタ武器だったりする。そういうネタ武器は気分転換に仕えるからちょっとだけ楽しみだ。


俺はワクワクしながら宝箱を開けると、そこには白い杖が入っていた。


「こ、これは伝説の聖杖――ホーリーレジェンダリィじゃないですか!」


「杖か……最悪、左手でも持てそうだな」


「そうですね! しかもこの武器はかつて大昔に迫害された禁忌の魔法使い達と大司教が悪魔を倒すために作った最強の杖の一つですよ! 貢献度ガチャからも出てこないユニーク武器です!」


 つまりめちゃくちゃ強い武器ってことか。うん。


「じゃあ、いらない」


「ドロップ品なら使っても良いと思いますが!??」


「絶対に使わない」


 そんなものを使ってクリアしたって何一つ楽しくないだろ? まったくマキナは何も理解していない。


「あの……ここは?」


 堕天使はむくりと起き上がり、寝起きのようなあどけない表情を浮かべる。


「……あなたが私の洗脳を解いてくれたんですね」


 俺は振り返ると堕天使は嬉しそうな笑顔を俺に向けていた。


「あの、貴方の名前を聞いてもいいでしょうか……?」


「俺はユリウスだけど? 俺の名前なんてどうでもいいだろ?」


「どうでもよくはないです。ユリウス……私のことを殺さなくて大丈夫でしょうか?」

「なんで?」 


「なんでって……私は堕天使だからです。神々に嫌われた汚れた存在……私に戦える力はないし、ここで殺されても仕方ないから。それに私の首を持っていったら英雄ですよ?」


「なぁマキナ、俺はこいつの首を持っていったら英雄になるのか?」


 俺はあえてマキナに尋ねる。仮に英雄扱いされても、そんなことするつもりはないけれど。


「いいえ? もう影ながら堕天使が封印さえて3000年以上経ちますし、首なんて持っていったら、ユリウス様が捕まってしまいますね。あと、女神な私からしたら堕天した理由次第ですから……」


「じゃあいいか。別にお前はモンスターという訳ではないんだろ? 行く当てがないなら、一緒に行くか?」


「私……穢れた存在ですが、いいんでしょうか? 後悔するかもしれませんよ?」


「後悔する時があったら、後悔した時になったら考えるから構わないよ」

「ありがとう……本当は、1人は……辛かったんです」


 堕天使は涙を流している。そうだよな。何千年も独りぼっちなんて……俺には耐えられない。


 あと残念だけど、今の状態でダンジョンを攻略することは難しい。正直、俺の体力も限界だ。装備に耐久度があったら壊れてしまうかもしれない。


それにここが隠し部屋のボスなら、正規のボスが存在するのが考えとして普通だ。もしも戦闘中に装備が壊れたら……? なんて想像するだけでも恐ろしい。引き返すべきタイミングは今だ。


「一度、家に戻るか」


 家の場所は、ユリウスの記憶を辿れば問題ない。


 それに一度、自分の動きやモンスターの行動パターンを見返してもいいだろう。サンプルはゴブリンしかいないけれど、理解度を高めることは類似したモンスターと戦う時に必ず役に立つ。


「あ、あの! ユリウス様!」


「ん?」


「申し遅れました! 私、ルシファって言います! ふつつかものですが。こ、これからお世話になります!」


「あぁ、よろしくな」


 俺とマキナ、そして堕天使のルシファはダンジョンを抜ける。


 しかし、俺はこの時、気づいていなかった。


 見返すために使ったはずの配信が知らぬ間にバズっていたことに。


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