4 ダブルデート、開幕!?

 次の土曜日。

 授業は半日で終わり、すぐに放課後がやってきた。


「じゃあ、いこうか」

 三太は隣の席の舞奈にごくごく自然に言った。

「ひゃ、ひゃい……」

 それに引き換え言いだしっぺはがちがちである。

『舞奈ちゃん、大丈夫?』

 いつもは毒舌なお供も心配そうだ。

「ひゃい」

 だめだこりゃ、とめがねが呆れたように震えるが、三太は頭上に『?』を浮かべた。


「でにっしゅさん、どうかしましたか?」

『どうもこうも……舞奈ちゃんは、この話が決まってからずーっとこうだし、キミはキミで朴念仁だし……」

「ぼ、ぼくねんじん……?」

『ああ、いいのいいの。気にしないで』

 豪快に首を捻る三太に、でにっしゅはあきれ気味に半笑いを提示していた。


 一方、教室前に目を向ければ、孝明が桃に何か言っている。二人とも若干頬を染め、よそよそしい雰囲気が滲みだしていた。


「あ、孝明たちも移動するみたいだね。ぼくたちも行こっか」

「ひゃい」


 するすると教室後ろのドアに向かう三太の後を、舞奈がふらふらとついて行く。


「ん? どうしたの? 三人とも元気がないけど……」


「「「……」」」


 廊下で合流したものの、三太以外は頬を染めたお通夜状態であった。

 んん? とさらに怪訝そうな三太。

『ぷーっ、げらげら!』

 でにっしゅはたまらず噴き出した。


 突如上がったおかしな笑い声に、少なからずいた他の生徒たちが肝を冷やす。


「三太、おまえこんなところでバカみたいに笑うな!」

「え?」

「そそ、そうだよ青っち、バカみたいだよ」

「ええ?」

「三ちゃんの……ばゕ」

「え、桃ちゃんまで!?」

『バカみたいって、失礼じゃない?』


 えええ!? となっている三太に加え、猛烈に抗議するめがね。三人は、いいからいいから、と彼を囲み、その場を退散した。


 残された生徒たちは一瞬訝しんだが、三太たちだと認識すると、すぐにスルーして日常へと戻っていった。




「お姉ちゃん、早く早く!」

「ま、待ってよ、あおい」


 しかし、ここにスニーキングスキルを存分に発揮しているツワモノたちがいた!


「もう、わたし、部活があるんだけど……」

「お姉ちゃん……部活とデートとどっちが大切なの?」

「わたしたちのデートじゃないじゃない」

 困ったようにみどり。そんな姉に、あおいは厳しく言う。

「そうね。でも……のデートだよ?」

 改めてそう言われ、みどりは何とも言えない複雑な表情をした。


「……わ、わかったわよ。行けばいいんでしょう、行けば」

 うむ、とあおいは頷くと、ターゲットたちに気づかれないよう移動を開始した。




「「「「……」」」」

 校門まで来たところで四人は絶句していた。


 見れば、校門前に黒塗りの長ーいリムジンが停車している。

 男二人は眉をひそめて怪しんでいた。女子二人はその見覚えのある車体に、隠れるつもりゼロなんかい! と心の中でツッコミをいれていた。


「……中の様子は見えないけど、誰が乗ってるんだろう?」

「この学校でこんなのに乗れるのは、一人しかいないだろう」

 察した三太はため息をつく。

「ま、まあ、今日は僕たちには関係ないし……行こうか?」

 そしてすぱっと切り替えた。

「そうだな。面倒ごとに巻き込まれる前に移動しよう」

 こくこく、と女子二人も同意した。



「ね、ねえ孝明……気のせいかな? なんかリムジンが、ついてきてるような気が……」

「気のせいだろう。でかすぎて距離感がバグってるんじゃないか?」

「あはは……そうだよねえ、でかすぎだもんね~」

 乾いた笑いを浮かべると、二人は目配せをした。


「「走れっ!」」


 三太は舞奈の手を取り、孝明は桃の手を取る。

「ひゃっ!?」「ええっ!?」

 慌てふためく女子たちを気遣いながら引っ張り、一目散に駆け出した。



「ああっ、まずいですわ!? 見失ってしまいます……六車むぐるま早く追いかけなさい!」

 叫ぶ美麗をあざ笑うかのように、四人が小道に逃げ込んでいく。

「お嬢様、申しわけございません。この車では……」

「し、仕方ありませんわね。六車、操神あやがみに連絡を」

「かしこまりました」

 そう言ってドライバーの六車は、SPの操神に無線を飛ばした。


「これでよし、と……それでは、駅前で待たせて頂きましょう」

 落ち着きを取り戻した美麗の言葉に、リムジンが静かに滑り出した。




「はあ、はあ……つ、ついてこないね?」

「ふう、何とかまけたか……」

 男二人が安堵の息を漏らす。


「「あああ、あの……」」


 だが、女子二人は動揺しまくりであった。

「ん?」「なんだ?」

 と振り返ると、赤面が二人、頭から大量の湯気を放出していた。


「ててて、手を……」

「……放して」


 消え入りそうな声で女子たちがつぶやく。


「わ、わりい……」

「……う、うん」


 はっとして手を離した孝明が、みるみる赤くなっていく。桃も、もじもじと俯いた。


「あー、ごめんね、星川さん。急に走っちゃって」

 で、三太はと言えば、このありさまである。

「『……』」

 えへへ、と手を離した朴念仁を、二人分のドン引きな視線が貫いた。

「ん? んん?」

 なんだかとっても痛い。そんな気がしているようだが、なんで痛いのかはまったくわかっていないような三太。



 そんな幼なじみを見て、中谷姉妹は舞奈に同情の視線を送るのだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る