2 変身! ミルキー☆イェイ!!

 美麗が壁に埋め込まれているスイッチを押すと、部屋の一部が舞台のようにせり上がった。


「ささ、星川さん、登壇なさって!」


 その言葉に連動するように、部屋中のカーテンが閉められていく。


「は、はい」


 薄暗くなった部屋に戸惑いながらもゆっくりと舞台? に上がった舞奈は、正面を向きぺこりとお辞儀した。


「きゃ~っ! マイナー・星川ーっ!!」

 沸き上がった黄色い歓声に、舞奈の顔が曇る。

「……会長さん、それは、ちょっと……」

 小刻みに震える肩を見て、はっとする美麗。

「しし、失礼いたしましたわ……つい……えーと、たしか……い、イェイ、ミルキー☆イェイでしたわね?」

 こくりと頷くと、舞奈は右手をその胸に当てた。


「ふぁんぷっ!」


 紡ぎだされた言葉に反応して、目の前にステッキが、ぽむっ☆ と顕現する。


「えいっ!」


 満面の笑みが、その金色の柄をむんずと握った。と、先端の淡いピンクのハートが激しく明滅を繰り返した。


「ふん、ふん、ふ~んっ!」


 踊るようにステッキを振り、優雅に回転を続ける舞奈。


「ねびゅらす・こーるっ!」


 すたん! と足を揃えて止まり、ステッキを高々と掲げる。そして。


「せっとあっぷ! えむえすえすっ!!」


 刹那、頭上から眩い光の柱が降り注ぎ、舞奈を飲み込んだ。彼女がその光の中で浮遊すると、程なく変身シークエンスが開始された。


 まずは黒髪が淡いミントグリーンへと染め上げられる。制服が粒子となって消えていく。もちろん、身体全体も輝いているので何の心配もいらない。


 再び回転をはじめる舞奈。上半身から下半身へ向け、しゅぴーんっ、しゅぱーんっ! と魔法少女の衣装が展開し、閃光を放ちながら具現化していった。


 そして、光の柱が弾けると、きらめく残光を纏った魔法少女がゆっくりと着地した。


 目を引く淡いミントグリーンのツインテール。それをまとめている真っ赤なリボン。パステルピンク基調の一見お姫様風ブラウスのような上着には、白いフリルと黄色い星たちが満載だった。髪と同系色の短いフレアスカートから伸びる健康的なおみ足には、白いニーソックスが装備され、深紅のハーフブーツを際立たせていた。


 魔法少女が静かに顔を上げる。煌めく瞳が遥か前方を見据える。と彼女の周辺が、ほわわ~ん、とパステル調に変化した。アイドルのライブのようなライティングが瞬き、降り注ぐ黄色いコメットたちがさらに花を添えた。


 薄暗い部屋に神々しく浮かび上がった彼女は、笑顔を炸裂させながらくるくると回りだす。所々で決めポーズを取り、再び回転を繰り返していた。


 ……そして、その華麗な舞もついに終焉を迎える。た、たん☆ と足を肩幅に開き正面を見据えると、満面の笑みからの決めゼリフである!


「魔法少女ミルキー……」


 両手がピースを形作り……両頬に……ここで魔法少女の表情に、戸惑いの色が走った。だが、速度を上げてその頬に近づいていくピースサイン×2。このままでは、またしても笑いものになってしまう! そう思ったのか、ぐにゃりと不自然に軌道を変えるピースたち……。


「……☆イェイ!」


 ああ……そして、ミルキーさん渾身のダブルピースが、あろうことか額に添えられてしまった! まるで、あの光線を発射するかのように……。


 え!? と美麗が固まった。佳奈の口からまんじゅうが、ぽとり、と落ちた。桃にいたっては、最初から置き去りにされている。


 沈黙。


『舞奈ちゃん、光線出すの?』


「ちち、ちがーうっ!」

 ぷしゅーっ、と盛大に湯気を噴き出した魔法少女が、赤面で叫びながらだんだんと地団駄を繰り返した。


「わたくし、どこまで譲歩すればよろしいのかしら……?」


 そんな舞奈を見て、真顔でつぶやく美麗であった。





「……と言うわけで、あたしは魔法少女です」

 げっそりとした表情でミルキーさんが言った。

「は、はい……」

 桃はいまだに目を白黒させている。


「しかも、恋のお手伝いをする魔法少女なのです」

「ま、舞奈ちゃんが……恋のお手伝い……?」

「まま、舞奈じゃなくてえ、ミルキー☆イェイ、ね? って、あれえ? なんか魔法少女よりも、恋のお手伝いにびっくりしてるような……」


 腕組みで首を捻る。


『ま、うぶうぶの舞奈ちゃんには期待できないもんねえ~ぅつ!?』

 咄嗟にでにっしゅの頬がつねりあげられた。

「今晩の反省会は長くなりそうだね?」

『ご、ごめんなしゃい……』

 あまりの鬼瓦にめずらしく謝罪するでにっしゅであった。


「こほん……さ、桃ちゃん、何でも言って。あたし、がんばっちゃうんだからっ!」


 今までのぐだぐだがウソのようなまぶしい笑顔が胸を張っていた。

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