3 真・パンチラバトル!?
体育館裏でうろうろしている女子生徒が一人いた。デジタル一眼レフカメラを構え、時折ファインダーを覗き込んだりしている。
2-C所属の
と、前方から三人の男子が近づいてきた。引き締まった彼らの表情に事件の匂いを感じ取った様子の聡美は、素早くカメラを向けシャッターボタンに指をかけた。
「あの人かな?」
「たぶんな」
「あおいさん、どうですか?」
「ビンゴだよ」
少し遅れて続いていたあおいが、タブレットを見ながら言った。
なに? と聡美はファインダーから顔を上げ、四人を目視で捉えた。
男三人の情報は持ち合わせていなかったが、あおいの事は知っていた。とんでもない成績で転入してきた超有名人だ。
聡美の好奇心がむくむくと大きくなった。
「あなた、中谷あおいさんね。ちょっと取材させてもらえない?」
「ん? えーと、あなたは……」
「あ、ごめんなさい。私は2-Cの河原崎聡美。報道研究部に所属しています。それで、あなたの事、記事にしたいなって思って」
不審そうなあおいの視線に、聡美は慌てて自己紹介した。
「あ~、そういうことですか」
「悪いようにはしないか──」
「ごめんなさい。わたし、穏やかに過ごしたいのでお断りします」
すっぱりと拒否するかのように頭を下げた。
「……そっか。ちょっと残念」
有無を言わせないようなその頑なな姿勢に、聡美は後ろ髪をひかれつつも諦めることにした。が。
「そのかわり、お友達になるのはいいですよ」
女子から見てもまぶしいあおいの笑顔だった。
「……え?」
「あ、でも、記事にはしないでくださいね?」
いたずらっぽくウインクして見せるあおいに、聡美はすっかりやられてしまった。
「……あ、ああ……はい」
頬を染め、ぼーっ、とそのご尊顔を見つめていた。
「あー、あおいちゃん、またやっちゃったね……」
「人たらしだからな、あおいちゃんは……」
「そうなんですか……」
言って三人は、あおいの顔をまじまじと見た。ん? と小首を傾げ、何かな? と見返す彼女。
その時、ゆっくりと聡美の背後に委員会の二人が姿を見せた。
「あら皆さん、こんなところで何をなさっているのかしら?」
「まだ、やるの?」
余裕に満ちた表情の美麗。佳奈は少しだけあきれているように見えた。
「えっ!?」
パンチラ統制委員会、いや、『花村』の登場に、聡美は舌をかみそうだった。
「ん? あなたは……」
美麗が聡美の存在に気づく。
「そのカメラ、ご使用されることのないよう、お願いいたします」
言葉とは裏腹に厳しい瞳で見据える美麗。
「はは、はいっ!」
睨まれた彼女の口から、がちがちと音が漏れていた。
「他言も、無用」
佳奈の言葉にこくこく、と頷く聡美の瞳は、既に潤みまくっていた。
「ど、どうする? また中庭に──」
「ダメだよ、三太くん」
「だがあの女子を巻き込むのはまずいだろう?」
孝明はもっともなことを言った。
「前回はそれでやられたの。ちょっと卑怯だけど、巻き込んでいきましょう」
「え? でもそれじゃあ……」
「そそ、そうですよ。もしあの能力に巻き込まれたら、彼女は死んでしまいますよ?」
「だからなのよ。恐らくだけど、あの二人だって一般生徒を巻き込みたくはないはず。そこを逆手にとって行動を制限させるの。もともとあっちの能力はけた違いに強力なんだよ。ましろちゃんだって……負けたんだよ」
あおいの表情が曇る。三太たちはましろの敗北という事実を思うと言葉が出なかった。
「だから、使えるものは何でも使わなきゃ、パンチラ統制委員会には勝てないんだよ」
はっとした三人が、それぞれの顔を見る。
そして、力強く頷いた。
「わかったよ、あおいちゃん」
「ああ、何だってやってやるさ」
「自分たちの力でパイパンを阻止しましょう」
その決意に満ちた表情を見て、あおいも頷く。
「さあ、ここからはパンチラを巡る攻防戦、本当の『パンチラバトル』が始まるんだよ! みんな、がんばって!!」
そのかけ声に、三人は戦闘態勢を取った。迎え撃つように微笑む美麗。冷たい視線を送る佳奈。突如として当事者になってしまった聡美は、戸惑うばかりであった。
「まずは自分に行かせてください」
見たことのない康司の凛々しい表情だった。その顔を見て、仲間たちは頷く。
「毛玉さん、お願いしますっ!」
一瞬の間を置き、聡美の足もとに光が走り、サークルを描き出した。そして、その中を小気味よく光が走って五芒星が浮かび上がる。
「ひっ!?」
聡美は慌ててあとずさり、佳奈の後ろに隠れた。若干困惑を見せる佳奈は、無機質に、離れて、と言ったが聡美はがくぶるで離れなかった。
よし、とりあえず作戦成功! と三太たちは佳奈を封じたことに声を上げた。そして……。
魔法陣から気味の悪い煙が溢れ出す。ヤツだ、ヤツがやってきたのだ。どぎついパステルイエローの長い毛を振り乱して……。
『むきゅーっ!』
牧歌的な雄たけびが響きわたる。
「ふふっ、無駄なことを……」
美麗は右手人差し指に光を収束させ、
ぴしりっ、と地面をたたき、毛玉を威嚇する。彼? はその毛をざわつかせて対抗した。
「おーっほっほっほっ!」
と、教育上よろしくない笑い声をあげ、美麗はその毛玉を打った。
『むっ』
だが、黄色い猛者は、余裕の表情でその甘美な打撃に耐えてみせた。
「あら? 少々弱かったのかしら? ならばこれでどうかしらっ!?」
ぴしりぴしり、と連打の嵐である。
「……え?」
三十秒は打っただろうか? 美麗はその毛玉の姿にドン引きしていた。
『むっふっふー』
元々バスケットボール大のそれが、玉ころがしの紅白の玉くらいに膨れ上がっていた。
「見ましたか! 自分と毛玉さんの秘密特訓で得た能力をっ!」
康司がめずらしくドヤった。
が、そこにいた全員が、えー、と康司をさげすんだ瞳で見ていた。
「な、なんですか、その目は?」
うろたえる康司に三太は聞いた。
「ね、ねえ山瀬くん。これはどういう能力?」
「はい、ぶたれると大きくなる能力です!」
あー、とその場にいる全員が目を伏せた。
「どど、どうしたんですか?」
「う、うん……ぶたれて大きくなるとか……ちょっとエロい……かなあ、と」
「っ! ちち、違います! そんな卑猥なものじゃあないんです! ああっ、そんな目で見ないでくださいっ!?」
康司の動揺が毛玉に伝わったのか、しょんぼりと小さくなった。
その様に、またしても全員が視線を逸らすのだった。が、一人だけミッションを遂行している人物がいた。
「ふふ、聡美ちゃんごめんね! えいっ!!」
皆が視線をそらしている間にするすると聡美に近づいていたあおいが、そのスカートを思い切り跳ね上げた。
「っ!?」
呆然とする聡美のそれは、報道に命をかけて燃えているような、そんな鮮やかなオレンジだった。
「……」
叫びもせずにとろけた様にあおいを見つめる聡美。見れば耳まで赤くなっている。
「あ、やば……」
あおいは一目散に逃げだした。その後をふらふらと聡美が追う。
色々と呆気にとられた美麗が口を開いた。
「こ、今回は負けを認めましょう……でも、どうやってパンチラチャンスを見破ったのかしら?」
「完全ランダムで、十分限定なのに……もう、やめる?」
「い、いいえ相馬さん。それではわたくしがパンチラの熱量を感じられ──」
四人のジト目が、職権乱用? と訴えていた。
「ちち、違いますの! これは皆さんのためにですね……パンチラのおすそ分けを……」
「「「「じーっ」」」」
「きぃーっ!」
どーん、と逆ギレの閃光が空へ駆け上り、三人はもとより、佳奈までもが吹っ飛ばされたのだった。
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