2 あおいの秘策。

 あおいは腕組みをして、思い返すように口を開いた。


「ましろちゃんがお休みする前に色々聞いたんだけど、今この敷地内には、統制委員会がバリアーみたいなものを張ってるんだよね?」

「うん、そうだよ」

「確か……スカートがめくれないように、重力で押さえつけてるんだよな?」

「はい。あとはそれでもめくれちゃったりした時用に、中が見えないような光学迷彩? みたいなものを展開しているとか」


 三人の説明に、あおいは、ふんふん、と頷いている。そして。


「と言うことは……あ、ほんとだ。たしかに重い……でも……え、えいっ!」


 美麗が言っていた事は事実だった……わけだが、あおいは何を思ったのか、突然その手に力を込めて自分のスカートを豪快にめくりあげた。


「「「なっ!」」」


 どっきぃっ! と野郎どもは跳ね上がった。


「なるほどね~。ほらほら、見て見て~」

 弾けるような笑顔でくるくると回り、スカートの中身を見せびらかす。

「……い、いや、あおいさん?」

「や、やめてください、お願いしますう」

「は、はい……」

 男どもは赤面で懇願した。

「えー、全然見えてないのに…………意気地なし……!」

 若干頬を染め、あおいは煽った。たしかにあおいの下腹部周りは、神々しく輝いていた。パンツは見えない、が。


「あ、あおいさんや、その……かか、身体のラインが……」

「ばっちりなんです……」

「はい……」


「……」


 恐る恐る自分の下腹部を見たあおいの笑顔が、ぴしりっ、と固まった。


 形の良いおしりのラインが、でさらされている。


「……え?」


 いたたまれなくなった三人は、狂人からそっと目を逸らした。

 すう、とあおい。中庭に響いた悲鳴は、今世紀最大だったという……。



「……で、なんでぼぐだげが、殴られでるの?」

 納得いかない、と三太の目が言っていた。

「い、いいの! 三太くんが悪いのっ!!」

 照れ隠しなのか、ぷんすかと怒ってみせていた。孝明と康司は、とばっちりを食わぬようにと小さくなっている。


(すまん三太、骨は拾ってやるからな……)

(はい……ご愁傷様です……)


 そして、あおいに聞こえないようにつぶやくのだった。



 こほん、と羞恥心を振り払うように咳払いをしたあおいは、三人を立たせると入れ替わりでベンチにどっかりと座った。


「と、言うわけで、尊い犠牲のもとに委員会のバリアーの正体がわかったわけですが……光学迷彩、と言うよりは……光るぱんつ、みたいでしたね……」

 自分で言って恥ずかしさがぶり返したのか、ぷるぷるとあおいは震えていた。


「えいっ!」

 そして、おもむろに正面に立っていた三太の脇腹をくすぐる。

「ちょちょ、くすぐったいよ、やめやめ……ぎゃははっ!?」

 理不尽なあおいの暴挙に、えー、とドン引きな孝明と康司。


「ふー、満足満足」

 真っ白になった三太を置き去りにして、あおいは自分の鞄からタブレットPCを取りだし、軍師感満載な口調で言う。

「下腹部周りに光を纏わせている、と言うことは……」

 三人も真剣な表情を取り戻した。

「スカートの中から波動が出ている、と言うことね」

 孝明と康司は頷き、三太は、へ? といった顔をしていた。


「あのね、三太くん。光って言うのはね、ちょっと特殊な性質を持ってるんだけど、ざっくりいうと、波なのね……あと一つの性質はちょっと割愛するけど……」

 はあ、と恐らく理解していない三太。

「その波、波動をね、見ることができれば……」

「あおいちゃん、詳しく頼む」

「はい」

 二人は食いついた。


「えっとね、まず、もう一度確認なんだけど、委員会の人たち曰く、一日に二、三パンチラがあるって事でいい?」

「そう言っていた」

「はい」

「ってことは、授業中はまずパンチラは起きないよね?」

「恐らく、そうだろうな」

「休み時間等の生徒が自由に動ける時間と推測できますね」


 ん? ん? と三太は三人を見まわす。


「パンチラが発生するということは、光の波動が消えるときがある。おそらくそれにあわせて重力も消えている、はずよね?」

「つまり、そのタイミングでその人物がわかれば……」

「佐野さんがいなくても、やれそうですね」

 あおいは鞄からさらに小さな何かを取りだした。

「あおいちゃん、それは?」

「ドローンだよ! あ、もちろん飛行許可は学校からもらってるからね!」(※)

 うきうきとドローンを飛行形態にしていくあおい。

「波動をね、検知できるプログラムを組んでみたの」

 言いながら三太の手のひらにドローンを載せると、本格的なプロポを鞄から取り出した。あせあせと、緊張した様子の三太。その手から、しゅいいいいいん! と軽快なプロペラ音を残してドローンは離陸した。


「おおっ!」「すごいですっ!」「ほえ~っ!?」

 三人はぐんぐん上昇するそれを見て、感嘆を漏らした。



「で、タブレットPCで、目視できるようにしたから」

 四人で覗き込む。

「あ、学校中が金色に包まれてるね!」

「そうね」

「波動が消えれば、その人物周辺からこの色が消えるんだな」

「そこへ行って自分たちだけで……やるしかないですね」


 えっへん、とあおいは胸を張った。


「あ、ところで一つ疑問があるんだけど……」

 三太はあおいに真剣な眼差しを向けた。

「な、なに?」

 その瞳に、どきりとするあおい。

「うん、あおいちゃん、さっき初めて光学迷彩? を見たみたいだけど、トイレとかでは見なかったの?」

「……」


 こちょこちょ、と再び脇腹を責める。


「ご、ごめんなさいいっ……わははっ!?」

「と、トイレとかでは、見なかったわね。たぶん、男性がほぼ立ち入れないところには、干渉していないんでしょう」

 手を緩めずに、あおいは続ける。

「だからって、そんな場所には立ち入り禁止だよ?」

 そして、激しさを増すあおいの揉みしだきであった。


 じゃれあう? 二人に冷たい視線を送る孝明と康司は、やれやれと肩をすくめた。


 と、ぴっ、ぴっ、とタブレットからアラーム音が響いた。あおいは三太を開放するとその画面を確認した。

「体育館裏で波動が消えているわ」


 四人は精悍な表情を貼り付けて、中庭を後にした。








※ドローン使用時の煩雑な法令に関してはフィクションと言うことで割愛しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る