7 再戦! SKMD VS パンチラ統制委員会!!

 中庭に嵐の前触れのような胸騒ぎのする風が、少し強く吹いていた。


 三太と康司は、委員会の二人と相対していた。


「さあ、佐野ましろさんへのリベンジマッチの前に、軽く肩慣らしといきましょう」

 美麗は不敵に微笑み、その正面にいる康司を睨む。

「……キミは、私が止める。スカートめくりなんか、ダメ」

 どこか切なそうに佳奈は三太を見つめた。

「山瀬くん、SKMDとしての初戦だよ。がんばろう」

「はい。どこまで出来るかわかりませんが、やってみます」

 二人の表情は硬かったが、それでも戦う男の眼差しを、美麗、佳奈にぶつけた。


 と。


「ん? SKMD……?」

 美麗が小首を傾げる。

「初耳」

 佳奈も思案顔だった。

「お手合わせの前に、少しお伺いしてもよろしいかしら?」

 美麗が恭しく問うた。

「な、何かな?」

 三太は戦闘態勢を崩さずに答える。

「そのSKMDというのは、何ですの?」

「ぼ、ぼくたちのグ──」

「あー、お待ちになって! わたくし、ぴんときました!」

 三太と康司は、あ、またか……と嫌な予感に表情を曇らせる。


すんごいSキュートなK美麗様M大好きD! ですわね?」

「会長、違う。素敵なS佳奈さんKまんじゅうMどうぞD


「「いや、スカートめくり同盟ですけど……」」


 スカートをめくらんばかりの突風が、四人の間を吹き抜けていった。


 委員会の二人は真顔から一瞬で赤面である。


「会長、自分で自分の事、キュートとか言うのは、ちょっと……それに、スペル、間違ってる……Kじゃなくて、Cが正解」

 若干動揺したように、佳奈。

「そそ、相馬さんだって、自分で素敵とか言っちゃって……それに、おまんじゅうの事ばっかりで、食いしん坊さんなんだから……」

 あたふたとミツバチのような一刺しで、美麗はそれに対抗。


 むー、と睨み合い、結局その怒りの矛先は、野郎どもに向かう。


「だ、大体そんな事、聞いてませんし」

「そーだそーだ」

 ええ? 逆ギレ? と三太たちは生暖かい目で迎撃した。

「とと、とにかく勝負ですわっ!」

 言うと、康司にめがけてあいさつ代わりの閃光一閃。

「わわ、あ、あぶなっ!」

 咄嗟に地面に転がり、何とかかわした。そして、美麗をキッと睨む。

「ふふふ……さあ、いらっしゃいな」

 ちょいちょい、と美麗は右手で手招きして煽った。



「キミは、いつも不躾」

 ゆら、と佳奈の身体が揺らめくと、漆黒が溢れ出す。

「……私が躾けてあげる」

 するすると音もなく、黒い塊が三太を掴みにかかった。

「ひ、ひいいっ!」

 距離を取ろうと後方へ猛ダッシュする三太。同時に、虚空へ質問を飛ばす。

「ね、ねえ恋ちゃん! 念のための確認なんだけど、一回めくった相手だと、あの力、二人めくりの力は発動しないんだよね?」


 うひー! と逃げ続ける三太に、女神さまからの返答はない


「こ、恋ちゃん、お願──わわっ!?」

 すう、と忍び寄った闇が、三太の足にまとわりつき、その場に縫いつけた。

「覚悟」

 佳奈が静々と迫る、と。

『あー、ごめんごめん。ちょ~っとランジェリーショップのHP見てたのよ! ねね、この黒のTばっくと、こっちのピンクのふりふりなヤツ、どっちがいいと思う?』


 頭上から女神さまの声と共に、ホログラムのようなぱんつの映像が、ひらひらと降ってきた。


 え? と三太と佳奈は固まった。


『ねえねえ、どっち~?』

 佳奈の能面が加速する。

「女神さま、こういうの、ダメ」

『えー? かなかなだって本当は気になるんでしょう?』

 赤らむ佳奈を、ほれほれ、といじる。迷惑そうに顔をしかめたが、しつこい恋ちゃんに根負けした彼女が、ぽつりと呟いた。


「じ、じゃあ……ぴんくで……」

『ふんふん、かなかなは、かわいいのが好き、と』

 くわっ、と目をむいた佳奈が、虚空に闇を放った。

『あ~ん、残念! ここまでは届かないよ~ん。で、キミはどっちがいい?』


 さっきまで怒っていた佳奈も、なぜか興味津々、と言った瞳を三太に向けた。


「え、え~……ぼくの癖を女性に言うのは、ちょっと抵抗が……」

 少し残念そうな佳奈。だが、そんなことではひるまない女神さまであった。

『教えてくれたらさっきの質問に答えるよ?』

「う、き、汚い」

『さあさあ、どっちどっちー?』

 佳奈にられそうなピンチと、佳奈に癖を知られるピンチ。二つを天秤にかける!


「ぼ、ぼくもピンクで……」


 三太は苦渋に満ちた決断を下した。

『ふんふん、キミもピンクね。わかった、ありがと! あ、二人めくりの効果は、既にめくった相手でも発動するからね。がんばって! じゃ!!』

「え? ちょ、ちょっと待って! この前は一度見たのはダメって……」

『そうだっけ?』


 すっとぼけた声に、三太は理解した。


「ぼくを、騙したね……?」

『え、えー? 何のこと? とにかく出来るから頑張ってねぇん。あと、貴重なおぱんつ情報ありがとさん!』


 そして、慌てたようにしゃべり散らかすと、ぱんつの映像と共に唐突に消え去った。


「……は、ははは」

「……」


 三太の戸惑う瞳と、佳奈の気恥ずかしそうな瞳が絡まる。

「っ!」

「いだあっ!?」

 そして、なぜだか三太は殴られた。ぐーで。



 そんな茶番が繰り広げられている横で、康司は必死に応戦していた。すでに召喚されているあの黄色い毛玉が、美麗に襲い掛かる。


「ふふっ、ぬるいですわ」


 いつものように右手人差し指に収束させた光を、二メートルほど伸ばしたところで固定して、鞭のように振るった。


「さあ、わたくしに跪きなさい! 光の鞭シャイニング・ウィップ!!」

 ぴしりっ! と毛玉が打たれる。

『ぴぎぃい♡』

 うわー、とドン引きな康司を置き去りにして、毛玉は恍惚な表情を浮かべ、全身をざわつかせた。

「えい、えいっ!」

『ぴ、ぴぎ、ぴぎいいいっ♡♡』

 打たれながら美麗のおみ足に体をすりつける毛玉。

「ふふふ、気色悪いっ!」

 そして、学校指定の少し濃いブラウンのローファーで踏みつけた。

『ぴっぎいいいいっ!』

 どぎついパステルイエローの残光を残して、毛玉は消え去った……。


「え、えーと、なんかすいません……」

 躾けのなっていないペットが粗相をした、ような気がして、康司は目を泳がせながら謝った。

「いいえ、お気になさらずに」

 言って、康司にもぴしりっ! と一撃を加える。

「ああ、ごめん瑠璃……お兄ちゃんは、お兄ちゃんはまた一歩……本物に……」

 若干頬を染めながら、康司は崩れ落ちた。


「や、山瀬くん!? くそがあっ!」

 右目で会長、左目で副会長……と視界に入れようとして。

「え? な、何も見えない!?」

 見れば三太の頭をすっぽりと闇が覆っていた。

「同じ手には、かからない」

 佳奈が冷たく言い放つと、その闇が密度を増していく。

「あ、があ!?」

 その重さに耐えきれず、三太は転がって動かなくなった。

「キミは……私が……っ、違う」

 小さく首を横に振り、最後の言葉は何とか胸にとどめた佳奈だった。




「あ、青っ、山っ!?」

「三太くんっ!」


 遅れてやってきたましろとあおいは、愕然とした。


「あらあら、ごゆっくりなご登場ですこと」

「もう、終わった」


 余裕の表情の美麗。佳奈はいつも通りの能面で出迎える。


「あおい、二人を頼む」

「わかった」

 ましろの指示にあおいは素早く駆け出した。

「てめえら、いい度胸だ」


 ましろは静かに怒っていた。今までに感じたことのないようなその怒りに戸惑いつつも、委員会の二人を鋭く睨めつけるのだった。

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