5 SKMD、誕生す!

 どきどきのお弁当タイムも終わり、二人と一匹は中庭でくつろいでいた。しばらくは四月のドタバタな日々について話していたが、不意に三太が真顔になって舞奈を見つめた。


「ここ、今度はなにかな?」

 再びどぎまぎと身体を固める。

「うん、ちょっと星川さんにお願いがあるんだけど……」

「おお、お願い!?」


 どきぃっ、となぜか跳ね上がらんばかりの舞奈。


『舞奈ちゃんが期待しているようなことじゃあないと思うけど?』

 でにっしゅはあきれ気味に言った。

「な!? 期待なんてしてませんっ!」

『それはそれで青っちくんに失礼かと……』

「あああっ! ごご、ごめんね? きき、期待しているようです?」

「……ははは」

 優しく微笑む三太であった。


「じつはね、桃ちゃん……委員長の事なんだけど」

「委員長のこと?」

「うん。知ってるかもだけど、桃ちゃんもね、ぼくたちの幼なじみなんだ」

「へー、そうなんだ……」

 どこか寂しそうに舞奈は相槌を打った。

「それでね、ぼくが勝手にこんなこと言うのは、星川さんにも桃ちゃんにも失礼かと思うんだけど……」


 一瞬、戸惑うように俯く三太。舞奈は、静かに次の言葉を待っていた。


「星川さん。もしよかったら、桃ちゃんの友達になってくれないかな?」

 まっすぐに舞奈の瞳を見る。

「え?」

「い、嫌なら別にいいんだ。桃ちゃんの意志もあるだろうし……」

『そうだね。友達って、誰かに言われてなるもんじゃないしね』


 でにっしゅの正論に、三太は小さくなった。


『でも……舞奈ちゃんは魔法少女。恋愛だけじゃなくて、困っている人がいたら……』

 でにっしゅは、ちらりと舞奈を見た。

「助けずにはいられませんっ! なぜならあたしは! 魔法少女ミルキー☆イェイ!!」

 決め顔の横に、ダブルピースが添えられる。


「あ、ありがとう、星川さん……ぷぷっ!」

「そこーっ! 笑わないっ!」

 ぷんすかと頬を膨らませる舞奈。

『今のは舞奈ちゃんが悪い』

「な、なんでーっ!?」

『決めポーズ、考えよっか』


 でにっしゅの言葉に、なんでー!? と頭を抱える舞奈であった。





 放課後。

 中庭には、いつもの五人が集まっていた。ベンチにはましろとあおいが座り、野郎どもはその前に立っていた。


「な、なあ……たまには俺たちも、座りたい──」

「オレは能力を使ってこの空間を外界から遮断している。あー、疲れる疲れる」

「わたしは、一応、病弱なんで」

 女子二人は当然と言わんばかりの顔をしていた。

「それにだなあ、か弱い女子が座るのは全世界共通の決まりだぞ?」


(だ、誰がか弱いって?)

(しー、孝明。佐野さんもだけど、あおいちゃんには逆らっちゃだめだろう?)

(わ、わかってる)


「聞こえてんぞ」

「失礼しちゃうわ」

 あ~ん? と睨まれ、二人はびくびくと康司の背中に隠れた。


「ん? 張飛はどうした?」

 ましろが眉根を寄せる。

「あ、お姉ちゃんは部活だよ」

「ったく、走ってばっかでつまんねー奴だな」

「なになに? ましろちゃん、お姉ちゃんに遊んでほしいの?」

「なっ、そんなことあるかっ! オレには下僕がたんまりとだなあ──」

「で、心を許せるのがここの男三人と、お姉ちゃんだけって事かあ」

「ち、ちがっ……」


 あおいの指摘が少なからず当たっていたのだろう。ましろはぱくぱくと金魚のような口をして黙り込んだ。


「ふふっ、かわい」

 頭をなでなでするあおい。その手を乱暴にはねのけて、ましろは立ち上がった。

「う、うるせーんだよ! そんなことより今月の作戦だ! おい青っ! 仕切れ!!」

「青? ……ましろちゃん、ちょっとそこに座りなさい」


 瞬間鬼瓦が、地べたを指さす。


「あ、青、助けろ」

 ましろはたまらず三太に助けを乞うた。

「だから……青はないでしょう?」

 ずずー、と般若がスライド移動して迫る。

「まま、まあまあ、あおいちゃん。ぼくはいいんだよ。佐野さんにはお世話になってるからね? 青呼びくらい気にしてないよ」

 ましろの顔が、ぱあっ、と輝いた。

「そ、そうだぞ。オレは、青の世話を焼いてるんだからな?」


 語弊しかない物言いだった……。


「……」

 当然、無言で振りかぶるあおい。その手はぐーだった。

「あ、あおいちゃん。体に障るから、座ろうか?」

 すっ、と肩に手をやる三太。

「えっ!?」

 途端にあおいはもじもじしだす。そして、素直にベンチに腰を下ろした。


 ふいー、とましろは息を吐く。

(とんでもねえのが、転入してきやがったなあ……)

 めずらしく憔悴しているましろであった。



「じゃあ、今月の作戦会議を行います」

 気を取り直して三太が言った。

「あ、その前に、このグループってどんな名称なの?」

 あおいが率直な疑問を投げかけた。

「敵さんが、『パンチラ統制委員会』なんでしょう?」

 その白い頬が、恥ずかしさからか若干赤く染まっていた。


 四人は、ぱちぱち、と目をしばたたかせる。


「……もしかして、決まってないの?」

「きき、決まっているぞ!『ましろと役立たずな下僕たち』通称『役立たず』だ!」

「だ、だめじゃん……」


 えっ!? とましろ。


「ん~、そうね~……スカートめくりを推進する集まりだから……」

 あおいは腕を組み、うーむ、と考え込む。


「『パイパンズ』、とかどうかしら?」


 突如響いた声に、ぎくりとしてあおいが隣を見ると、恋ちゃんが座っていた。


「はあ~いっ! 女神さまだよん!」

「ったく、また突然現れやがって……」

 言いながらましろは、女神さまの隣に座った。

「ふふふ、ミステリアスな女って呼んで!」

「そんなことより……」

 えーっ、そんなこと!? と恋ちゃんは驚愕。

「ぱ、パイパンになるのはこいつらだから、ちょっと違うぜ?」

「そ、そうね。ぱ、パイパンなんて言葉、わたし、普段使いしたくないし……」


 色々と残念な女神さま案は、女子二人がほんのりと頬を染め却下した。野郎三人は、ほっと胸をなでおろすのであった。


「えー、いいと思うけどなあ、パイパンズ……」

 女神さまは、本当に残念そうにつぶやいた。


「SKMD、なんてどうかしら?」

「SKMD?」

 あおいの提案に、ましろは腕組みで思案する。

「そう。スカートめくり同盟。そのまんまだとちょっとアレだから、アルファベットでSKMD」

「えーっ、パイパンズのほうが強そうだよ?」

「るせえっ!」

 ましろに怒鳴られ、女神さまはしゅんとした。


「SKMD……SKMDか……つまり、『スーパーかっこいいましろ団』ってことだなっ! うん、いいじゃねえかっ!!」

「ちょっとちが……」

 あおいは訂正しようと口を開きかけたが、どこかうれしそうなましろを見て、そのまま微笑んだ。



 こうして、本当の当事者である野郎三人の意見も聞かず、SKMDが誕生したのであった。

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