4 怒れる幼なじみたち。

 パンチラ統制委員会が特訓を開始したころ、三太と孝明は自分の教室にいた。あおいに言われた通り、桃にスカートめくり恐怖症を克服? したことを伝えるためだ。が、孝明はどう切り出すかでかれこれ十分は悩んでいた。ましろがいるのはいいのだが、クラスの男子二人が、まだ残っていたのだ。


「ねえ孝明。桃ちゃん、帰っちゃうよ?」

「わかってる……もう少し考えさせてくれ」


 廊下側、一番前のましろのすぐ後ろの席で、クラス日誌を書いている桃。孝明は、その背中をじーっと見つめて渋い顔をしていた。


 山尻桃。

 2-B所属。

 三太たちの幼なじみである。


 百六十くらいの身長だが、胸が結構大きい(Fカップ)。おしりも発達していて、かなりグラマーである。太っているわけではないが、そのせいで身長より大きく見えた。顔立ちは整っているが、いつも悩んでいるような暗い影が見え隠れしていて、保護欲がかきたてられる。その雰囲気と長い髪も相まって、とても女の子らしい女の子と言えた。


 そんな桃を、残っている二人の男子たちが中央辺りの席からニヤニヤと見ている。そして、あろうことか桃に聞こえるような大きさでその容姿をからかいだした。


「いや~、今日も桃尻山は絶景だな~」

「ほんと、揉んでみて~」


 中学に入ると、桃の胸は急成長をとげた。当然、男子たちから好奇な視線を向けれていた。それが怖くて、恥ずかしくて、桃はますます自分の殻に閉じこもることとなった。


 それは、今でも続いていて……。


 三太の席からは見えないが、桃の顔が赤面し、震えているのが二人の幼なじみにはわかった。


 がたっ、と立ち上ったのは三太だった。


「ちょっと、ぶん殴ってくる」

「まて、三太」

 孝明がすぐに止めた。

「なんでだよ? 桃ちゃんのこと、そういう目で見て、侮辱して……孝明は悔しくないの?」

 がっしりと、三太の肩が掴まれる。

「おまえが殴ったところで、桃は悲しむだけだ」

 その肩を掴む手に、ぎりぎりと力が込められていた。

「痛っ……ひっ!?」

 修羅が、そこにいた。

「……俺に、いい考えがある。小学生のときは失敗したが、今なら、今なら大丈夫だ」


 舞奈の机の上に置いていた自分の鞄から、おもむろに何かを取りだした。

「そ、それは?」

「使い捨てカイロだ」

 未開封のブツが十個、三太の机の上にばらまかれた。

「おい、全部開封して、温度を上げろ! 揉みしだけえっ!」

 孝明の意図を理解し、はっとした三太はすぐさまその声に反応した。


 ばりりっ! もみもみもみもみもみもみもみもみもみ……!


 孝明も、一心不乱に揉んでいた。


 そして。


「貼れ、俺の体に全部貼れえいっ!」

 ぺたぺたと制服の上から貼られるカイロたち。

「準備、OK!」

「感謝する」


 そして孝明は、いまだに桃の事をいやらしい目で見ている男子たちを、対象としてとらえた。


「後悔しろ! 灼熱地獄ブーストフレイム!!」


 男子生徒たち周辺の空間が、熱で歪みだす。陽炎が、立ち上り始めていた。


「おい、なんか暑くね?」

「そ、そういえば、なんか暑いな……今、ホントに5月か?」

 二人は桃から視線を外し、手でパタパタと顔などをあおぎだした。

「爆散!」

 孝明の声と同時に、ぶわっ、と熱気が爆発した。

「「ぎ、ぎぃやあああっ!?」」

 断末魔を上げる、エロクラスメイトたち。

「三太、窓を開けろ!」

「う、うん!」

 ガララ~っ、と開け放たれる窓。孝明は一点に集中させたその熱を、すぐに外へ放り出した。窓の外ではつむじ風が巻き起こり、運動部たちの逃げ惑う声が響いてくる。


「安心しろ、低温やけどだ……」

「いや、それも危ないよ?」


 だが、倒れた二人に、その声は届かなかった。


「とりあえず、山瀬くんと二人で保健室に運ぶから、孝明は桃ちゃんに、ね?」

 そう言って、三太は2-Aに向かった。



(へ~、ちったあ考えてるんだな)

 ましろがするすると孝明に近づき、小声で囁いた。

(さ、佐野に言われたからな)

(カイロでブーストした熱を、急激に対象に送り込んで爆ぜさせた。で、その後はどうした?)

(最初に狙った対象の熱量を、他の対象へと繋げられることがわかったんだ)

(で、熱をそっちに移したと)

(そうだ。どうやら対象は、物質等のない空間だけでもいいらしい)

(一気に使えるようになったな、てめえ)

(連休中の練習に付き合ってくれた佐野のおかげだ)


「そうだろう! まあ、てめえもよくやったが、オレだ、オレをもっと褒めろっ!!」


 むふー、とご満悦なましろが、声を上げた。


「っ!?」

 非常識な状況におびえていた桃が、その声にさらにびくつく。


「た、孝ちゃんが……やったの?」

 そして、桃が恐る恐る近づいてくる。

「また……私のために……」

「い、いや、それはいい。おまえが困っていたら、三太だってそうする。気にすんな」

「でも……」

「それより桃、俺はすす、スカートめくり恐怖しょ──」

「ごめんなさい。また孝ちゃんを、巻き込んじゃったね……」


 自分の席に走り戻ると、鞄と日誌をつかんでそのまま教室を出ていった。



「……桃……あの時の事は、気にすんなって……」


 呆然とつぶやく孝明を、ましろは見つめていた。その瞳は、どこか切なそうに見えた……そんな気がした。

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