5 ましろ無双!!
ましろの登場に、その場にいた女子全員は驚きを隠せなかった。いつもとはまるっきり違うその表情と言葉遣いに、別人かと二度見したくらいだ。
「さ、佐野さん、出てきちゃっていいの?」
三太は心配そうにましろに近づいた。
「あ~、まあ、いいんじゃねえ。大体おめえの能力じゃ、あの二人に敵わねえだろ?」
「そうだけど」
「ならいいじゃねえか」
「佐野さん……ぼくのことを心配して──」
「それはねえ」
涙も出ないほどに、バッサリである。
「話聞いてたらよお、直接焼き入れたくなったんだよなあ」
全身が総毛立つようなお顔だった。
「佐野ましろさんでしたか? どうしてあなたがここに?」
合点のいかない美麗が口を開く。
「ああ、てめえらをぶちのめしにきたんだけどよお」
委員会の二人が、咄嗟に身構えた。
「はじめっか」
右拳に果てしない闇が蠢いている。ましろのきれいなくちびるが、歪に笑んでいた。
「おらよっ!」
その拳を鋭く振り抜くと、一塊の闇が音もなく美麗に忍び寄った。が、彼女は冷静に右手に光を集め、それを叩きつける。ましろの初弾は、光を吸収しきれずにあっさりと消滅した。
「なるほど……あなたがブラックホール使いでしたか。とすると、そこのまぬけ面の能力は、一体どんなものだったのかしら? ……まあいいですわ。どうせあなたほどの能力は、持っていないでしょうから」
会長はうれしそうにましろを睨めつけた。
「お褒めいただき光栄だねえ」
その視線に応えるように彼女も睨み返す。
「礼だ! とっとけやっ!!」
「やばい。みどり、星川さん、孝明たちと物陰にでも隠れてて!」
三太の指示に二人はうなずき、転がっている野郎二人の回収に向かった。
そこからは互いに激しい撃ち合いとなった。銃弾のように飛び交う光と闇に、中庭はさながら戦場と化す。
「へへっ、どうした? 会長さんよお?」
「くっ、まだまだですわ」
はじめは互角に見えた撃ち合いだったが、徐々にましろの闇たちが美麗の光を飲み込んでいった。天然物と養殖物の違い、といったところだろうか。そして、ましろの前に展開された闇が、圧倒的に増大した闇が、ブラックホールの本性を剥きだしにし始める。
「ち、力が抜ける?」
美麗の身体から、光が吸い取られはじめていた。
「この程度で世界制覇とかぬかすなや、この惰弱……があっ!?」
ましろが叫ぶと同時に、その口から苦悶の声が漏れた。
「邪魔は、させない」
佳奈だ。彼女がましろをその能力で押さえつけにかかっていたのだ。
「くっ、能面女か? だが……この程度の重力、ぬるいなあ」
右手を振り上げただけで、押さえつけていた力が相殺された。
「え?」
佳奈の無表情の端に、動揺の色が走る。
「てめえの闇とオレの闇じゃあ……深さが違うんだよっ!」
まさに無敵。
無双状態となったましろが、振り上げていた手を振り下ろすと、漆黒の力が佳奈を吹っ飛ばした。ゆうに10メートルはすっ飛んだところで佳奈は地面に激突し、派手に土煙を舞い上げた。
「相馬さんっ!?」
「大丈夫、問題ない」
土煙が、一瞬で押さえつけられるように消え失せた。
「私、怒ってる」
何事もなっかったように彼女は立っていた。
「スカートめくり、許さない」
ましろを鋭く睨みつける。
「へえ、そんな顔もできんのかよ」
「それに、どうしてあなただったの? 私は……」
言いながら、なぜかその視線は三太を捉えていた。
「何わけわかんねえ事いってんだよ」
ましろはお構いなしで闇の塊を叩きつけた。
「私の闇の深さは、誰にもわからない」
佳奈は、すがるような視線を三太から外す。
「そう、誰にも」
彼女に肉薄していた闇が、音もなく消滅した。
いや、正確には飲み込まれた。
「相馬さん、それは……」
「……」
佳奈の前に出現したそれを見て、美麗は思わず声を漏らしていた。
当の佳奈はといえば、無言でそれを見つめている。
ブラックホール。
そう、突如出現したそれを、ただ、見つめていた。
「へえ、能力が進化したか? でもなあ、それくらいで勝てるとは、思うなよ?」
年季が違うんだよっ! そう叫ぶと、ましろの闇はさらに肥大していった。
「それはどうかしら? さあ相馬さん、いきますわよ」
「了解」
肥大を続けるましろのそれに、佳奈は躊躇なく自分の闇をぶつけた。すべてを飲み込むように二つのブラックホールが、激しく、そして音もなく力を競い合う。反発しあっているのか、融合しようとしているのか、一見まったく見当がつかない。ただそれは、明らかに強大な何かへと姿を変えているのは、明白だった。
「今ですわ」
美麗がかまわず閃光を放つ。
無防備になったましろは、為す術もなくそれを喰らった。
「
だが、顔をしかめる程度のダメージしか受けてはいないようだった。
「おい青! こっちへ来い! そしててめえは、オレの盾になれ!」
「そそ、そんな、無茶苦茶だよ」
「いいからなるんだよっ!!」
生物すべてが死滅するような眼力に、三太は渋々ましろのそばに近寄るしかなかった。
「あらあら。そんな役立たずで何をしようって言うのかしら?」
言いながら、光の弾幕をましろに浴びせかける。
「そうでもないんだぜ?」
「わわわっ!?」
三太の体が、何かにひっぱられるように宙を舞う。
「ぎゃあああっ!」
そして、光弾をことごとくその身で受け止めた。
いや、受け止めさせられた。
「こういう使い方が……ある!」
「「……」」
ドヤ顔のましろに、委員会の二人は鬼を見るような恐れに満ちた瞳を向けていた。
「ここ、殺す気かあ!」
たまらず叫ぶ三太。
「大丈夫だ。能力者は、これくらいじゃあ死なん」
「でもとっても痛いよ!?」
「よかったじゃねえか。いいご褒美だろう?」
「ぼくはそんな変態じゃないよっ!」
そうかそうか、と受け流しつつ、ましろは豪快に笑った。
「で、もう終わりか? 委員会の皆様よお?」
「……相馬さん、フルパワーでいきますわよ!」
ましろの煽りに美麗が吠える。佳奈もそれに無言でうなずいた。
「いい、いいねえ。そうこなくっちゃなあ」
楽しそうにましろは目を細めた。
そして、飛び交う光弾を
「ん?」
異変が起きたのは、その時だった。
「おかしいな」
「……ど、どうした……のさ?」
息も絶え絶えな三太が、ましろの異変に気づき声をかけた。
「お、おう。なんかさあ……」
「な、なんか?」
「ブラックホールがね、言うこと聞かなくなっちゃったあ♡」
清純な女子高生っぽくそう言うと、ましろはかわいらしく舌を出した。
「なっ、えええっ!?」
極限まで膨れ上がった二つのそれは、もはや一つの巨大な生物のように蠢いていた。
「おかしい、言う事きかない」
見れば佳奈もしきりに首を捻っていた。
「や、やばいんじゃないでしょうか?」
三太はましろに問うた。
「……たぶん、な」
「かっこつけてる場合かっ!」
ニヒルぶるましろを一喝する。
「う、うるせえよ」
すると軽く頬を染めた彼女は、三太を宙づりにしていた力を解いた。
「え? ええっ!?」
自由落下した三太を、地面がそっけなく受け止めた。当然中庭に奇妙な声が響いたのは、言うまでもない。
「ちょっとちょっと……な、何やっちゃってんのよ!?」
そこへ慌てふためいた声と同時に女神さまが顔面蒼白で現れた。
「あっちゃ~。これ、始末書レベルじゃすまないやつじゃないのよ~」
そして、焦ったように三太に近づくと、高々と言い放った。
「キミの出番だよ。さあ、あの二人のスカートを、キミの能力でめくって!」
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