2 帰り道のひそひそ話

『……というわけで、今週中に動きがあるみたいだよ』

 パンチラ統制委員会の委員会室に、あのおかしな声が響いていた。

「そうですか。ありがとうございました、でにっしゅさん」

『いーえ』

 そう言いながら机の上にいた黒猫は、ぽんっ! と煙を上げ、大きなくろぶち丸めがねに変化した。

「それから、わたくしたちの能力が、干渉できなかった原因はわかったのかしら?」

 美麗はかわいらしく腕組みしながら聞いた。

『う~ん、それはよくわからなかったよ』

 ふわふわと宙に浮かんだでにっしゅは、そのまま舞奈の顔に落ち着いた。

「……少し気になりますが、いいでしょう」

 美麗の瞳に、鋭い光が宿っていた。

「では、当日は星川さんに対応をお願いいたします。わたくしたちは、彼らの能力を見極めます」

「はい、わかりました」

「ん」


 この日の委員会の活動は、それで終了となった。




 すっかり暗くなった帰り道。

 舞奈とでにっしゅは、ひそひそと話しながら足早に歩いていた。いないはずの委員会の二人を気にしているのか、時折あたりの気配を探るような仕草が見て取れた。


(本当は全部わかってたんでしょう? どうして言わなかったの? 会長さんも怪しんでたみたいだし……)

(う~ん、舞奈ちゃんが、あの人達のやりかたに疑問を持っているうちはちょっと、ね。それに、青っちくんも関係してるみたいだしね~、このこのっ!)

(そこでちゃかさないのっ!)

(まあ、ボクはいつだって舞奈ちゃんの味方だよ。それだけは変わらない)


 いつになく真剣なおかしな声に、舞奈は鼻の奥がツーンとなるのを感じずにはいられなかった。


(前から思ってたんだけど、女の子でボクはないんじゃない?)

 照れ隠しで口を開く。

(なにいってんの? 結構需要あるんだよ? これだから世間知らずはなあ。あ、もしかしたら、青っちくんもボクっ娘好きかもよ?)

(え? え? ほんとに?)

(試しに練習してみたら?)


 数瞬、思案顔を浮かべた舞奈だったが、恋する乙女はなんにだってチャレンジするのであった。


(おお、おはよう、青っち。きょきょ、今日のぼぼぼぼ、ぼきゅ……あ)


 星明りが、やわらかく降り注いでいた。


(……ぷーっ! やっぱり舞奈ちゃんをからかうのは楽しいなあ♪)

「ここ、こらーっ!」


 突如上がったおしかりの声に、少なからずいた通行人は肝を冷やしたのだった。

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