第17話[涅槃]どす黒い欲望

【表紙】https://kakuyomu.jp/users/akatsukimeu/news/16817330668804704296


「もう遅いよ」


 突然割り込んできた声に私もカンナも驚いた。

 少し離れたところにたたずむのは、カンナとうり二つの外見を持つ、彼女の妹のメイ。

 メイの手には、黄金の剣が握られている。

(あれが、ヴァジュラ?)

 カンナがあの時、自分の心臓を貫いた剣だ。

 だがメイが見ていたのはその剣ではなく、もう片方の手にもっている、黒いウサギのマスコットだった。

 そういえば、メイの腰には、ずっとそのウサギのマスコットがぶら下がっていた。

 メイはずっとその黒いウサギのマスコットを見ていた。

(そういえば、あれって……)

 カンナの事ばかりで見落としていたが、私はあのマスコットが何なのか知っている。

「僕が望まない限り、この世界とあっちの世界は繋がらない」

 メイはカンナを見た。

 その目はまるでカンナを軽蔑しているような、そんな色合いに見えた。

「美雪ちゃんを外になんか出させない」

 その宣言に一番驚いていたのは、どうやらカンナのようだった。

「メイ? 何を言ってるの?」

「言葉通りの意味に決まってるでしょ? 姉さんだって知ってるよね? ヴァジュラの力の主導権を握っているのは僕だってこと。だから美雪ちゃんは永遠にここから逃がさない、逃げられない」

「メイ……いったいどうして」

「姉さんは本当に馬鹿だよね」

 メイは剣を逆手に取り、その切っ先を自分の心臓に向けた。

「どうして手に入れたのに、手放そうとするのかなあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁぁ!」

 剣で心臓を貫いた。

「ひっ…………!」

 世界が変わる。

 メイを中心に爆風のような衝撃が広がると、突然メイは消え去った。

 そうかと思いきや、メイは巨大な怪物と化して現れる。


 それはメイが最初に現した怪物の姿だ。

 しかしあの時は小柄な少女のままだったのが、今度現れたメイは、ケタ違いに巨大な身体を持つ、正真正銘の化け物だった。

「メイ!?」

「なんなのよコレ!」

 今や天にも届きそうな程に巨大化したメイは、空に手を伸ばす。

 空間が裂けると、そこから巨大な目玉が現れた。

 理屈ではなく直感で分かる。

 その目玉こそが、この世界を作っている根源の力であると。

 あの時と同じように、空間から大量の絵の具のような液体がこぼれ始め、カンナの作り上げたお菓子の国をまるごと侵食していく。

「この力を手に入れた時から、私の望みは決まっていたんだよ、私はすべて欲しい。お姉ちゃんも美雪ちゃんもこの世界も……」

 絵の具は滝のように流れ落ちてくる。

「私は出来損ない。だからすべてが欲しかった。自由に動ける身体も、姉さんの作る世界も、美雪ちゃんの心も!全部全部全部欲しい!」

 それがメイの真の望みだった。

 ヴァジュラと呼ばれた"それ"は、今まさにその願いをかなえようとしているのだ。

 世界はメイのどすぐろい欲望に満たされた。

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