第13話[過去]なんで怒ってくれないの?

【表紙】https://kakuyomu.jp/users/akatsukimeu/news/16817330668804704296


 知らないうちに朝を迎えた。

 目を覚ますと日光が差し込んでいて、私は一人ベッドの上で寝ていた。

 カンナの姿はない。私が脱がせたパジャマも、丁寧に折りたたまれて部屋の隅に置いてあった。

「……カンナ?」

 部屋を出ると、キッチンの方から人の気配を感じる。

「カンナ」

「あ、おはよう、美雪ちゃん」

 カンナは朝食の用意をしているようだった。

「もうちょっとで出来上がるから、食器お願いしていい?」

「……うん」

 テレビを適当に流しながら、二人で朝食を食べる。

「美雪ちゃん、おいしい?」

「……うん、おいしい」

「よかった、お魚さんの焼き加減、いい感じだ」

「カンナ、昨日……」

「最初美雪ちゃんとご飯作った時さ、私料理が下手だから焦がしちゃって、二人で失敗しちゃったよね。あれから私なりにお料理上手になろうと思ったの」

 カンナはまくしたてるように言う。

「私、お菓子が好きだから将来はパティシエでも目指そうかな。美雪ちゃんケーキは何が一番好き? 私はショートケーキ好きなんだよね。あ、テレビ、スイーツ特集やってるよ、あの果物がのってるのおいそうだね」

 いつもあまり口数が多くないカンナが、今朝はよくしゃべった。まるで私に話をさせたくないかのように、明るく楽しそうに世間話を続けた。

 私はそんなカンナの様子に戸惑った。私と昨日、あんなことがあったはずなのに。


 それからも、カンナと私のこの関係はしばらく続いた。

 私もカンナも学校には普通に通って、クラスのお友達とも普通に交流して、二人でたまに私の家で遊んで、そしてお泊りするときは、カンナに体の関係を求めた。

 カンナは私の欲望を黙って受け入れていた。拒絶するようなことを口にすることはなくなった。

(私が望んだカンナとの関係って、こんなんだったっけ?)

 私が愛を伝えたら、彼女も私を愛してくれると思った。

 いや、もしかしたらその反対に嫌われて恨まれるかもと思った。

 でもカンナの様子は全く変わらない。カンナは以前のまま、友達の一人として私に接してきた。

 そんなカンナの態度が不可解で、そしてだんだん不愉快になってきた。


(あの時はあんなに怒ったのに)

 思い出すのは、私がカンナの絵をコッソリ盗み見た時の彼女の顔。

 私はあの時よく分かった。

 カンナは一見おとなしいけれど、だからって何も思ってないとか、感情が他の人に比べて薄いなんてことはない。

 むしろ人一倍感受性豊かで、他の子よりも何かを感じ取る力に優れている。

 だからこそ、私がカンナにこれだけ強烈な愛欲をぶつけているのに、それに対して無関心を貫くのが、不可解で、不気味で、それ以上に不愉快だった。

 たとえそれで向けられる感情が怒りや憎しみであってもいい。

 それは彼女が、私のことだけを想ってくれている何よりの証拠なのだから。

(私のこの気持ちは、カンナにとって怒る価値すらないとでもいうワケ?)

 そう考えるだけで許せなくなった。


 その日も私はカンナを家に招き入れた。

 いつものように映画を見たりしてくつろぐ。

 日が暮れ、就寝するタイミングで私はカンナの手に触れる。

「カンナ、今日もするわよ」

「……………………」

 それまで親友として接してたカンナの顔から、急に感情が抜け落ちる。

 その顔が私を無性にイラつかせた。

 カンナは嫌がることはなかったけど、反対に私の事を受け入れることもしなかった。

 反応らしい反応といえば、肌を重ねる間、こらえるように涙ぐむくらいの反応だ。

 そんな彼女が次第に憎たらしくなって、私はさらに彼女を束縛した。


「カンナ、あなたは私のもの。ずっと私だけを見てればいい」


「じゃあなんでカンナを忘れようとしているの?」

「――――っ!?」

「こんな風に身体を求めるくらい、好きだったのに?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る