社畜、面接する

ルームツアーの後そのまま引っ越してから数日後、晴翔の言った通りダンジョンソロランキングトップ10でのランキング戦が正式にダンジョン協会から発表された。


新たに引っ越したうちにあるここまで大きくなくてよくね?

って思うほどのテレビでもそのニュースが連日放送していたし、さらに郵便でダンジョン協会から参加するかしないかの紙が渡された。


もちろん参加するよ?

ソロランキングトップ10でのランキング戦なんてこれ以上ワクワクするものがあるだろうか!

いや、ない!

ということでやります。

普通に他のトップ10のスキルも知りたいしね。


斉藤に頼んで他の奴らのスキルを知ることもできるだろうけどそれはやらない。

ランキング戦だからフェアにやりたい。

それに初見攻略の方が面白そうだし。

あっ、でもテレビのニュースで他の2つ名は知ってしまった。

というか2つ名があること自体初耳だったんだけど……


あれ?

前から思ってたけど俺情報知らなすぎじゃね?

いや、たとえそうだとしてもこれから知ればいいんだ。

これはマジで、絶対に。

知識不足で恥ずかしい目には会いたくないからな。


とりあえず、俺の2つ名、〝神速〟について斉藤に聞いて見た。


「へっへっへ、アイツ俺の許可なく勝手に俺の動画切り抜きやがったからな、酷使させて困らせてやるか」


おっと、俺の心の黒い部分が……

まぁ、別に切り抜きを作っちゃダメとは言わないんだがな。


俺の切り抜きで金になることを喜ぶべきか、それともアイツを許さないか。

でも、やっぱり斎藤がいい気になるのは気に食わん。

酷使する方向でいこう。


と、話がずれてしまった。


他のトップ10にもそれぞれついていて、〝炎帝〟〝水神〟〝光速〟〝武王〟などといろんな2つ名がある。

ちなみにレリックは〝武器王〟らしい。

いろんな武器を使いこなすからぴったりな2つ名だといえる。


改めて俺の2つ名は〝神速〟らしい。

理由は、


『突如として現れた超絶大型新人! 1週間でチャンネル登録者100万人突破、さらにダンジョンソロランキングトップ10に8位としてランクイン。どの方面においてもその圧倒的なスピードで大きくなったことを加味した結果、〝神速〟の2つ名が相応しいだろう』


とのことだった。


いやぁ、堂々と言われるとめっちゃ恥ずかしいな。

まぁ、嬉しいんだけどね?

まだ、実感ないっていうか。

チャンネル登録者100万人行ったことも未だに信じられないし。

いや、事実なんだけどさ。


ともかく、俺にはこのような2つ名がついていることだし、それに恥じない戦い方をしなきゃな。




俺がそう決意した数日後、ランキング戦開催日が、10月9日。

ダンジョン協会が発足する2日前に開催するらしい。

このランキング戦は抽選で1日目に4人、2日目に4人、そして3日目に残り2人の試合、つまり1位と2位を決めるらしい。

最終日がちょうどダンジョン協会発足の日付と重なる。

素晴らしい日程と言えるだろう。


「でも、その分訓練期間は短くなるな。多分、ギルドの面接も入っていくだろうし……」


これから忙しい日々になりそうだ。

そう思った翌日から早速忙しくなった。


「ストさん! 面接に残ったのがざっと50人! この中から初回のギルド員を5人選抜します!」


シロは、手元で書類をまとめながらそう言った。

続けて晴翔も


「それにストさん! 面接開始がもう10分後に迫ってるんです! 書類が多すぎてこんなギリギリになって申し訳ありません」


「いやいや、それは大丈夫だ。特に予定はなかったからな。あっ、でも明日はダメだ。撮影するからな」


「はい、わかりました。では明日話にいたしましょう。それでは応接室に入っていてください。案内しますから」


そう言われてほぼ無理やり押し込まれてから数分後、シロと晴翔、そして白い髪をした女の人が入ってきた。


「えっと、あっ、あの。よろしくお願いします」


女の人は慌てながらもそう、挨拶をした。

シロは女の人を落ち着かせた後、「こちらへどうぞ」と椅子へ案内した。


……っていうか俺はどうすればいいんだ?

何にも説明されてないんだが?

俺がそう思っていると、こっそりと晴翔が言ってきた。


「ストさん、俺たちが面接を進めていきますので、その中でこの人なら入ってもいいと思ったら面接後に教えてください」


「わかった」


ふぃー、よかった。

いやマジでよかった。

もうどうしようかと思ってたからな。


そんなことを思いつつも面接は始まった。


「それではリノさん。なぜ、我々のギルドに入りたかったのか、説明を」


白がそう促すと、リノさんは答え始めた。


「は、はい。私が応募したのは誰かの役に立ちたかったからです。私に出来ることはほとんどなく、まわりからはノロマなどと言われてきました。その中で無理やり連れてこられたダンジョンで強いスキルを持っていると言われこれなら誰かの役に立てるかと思い、探していたところにこのギルドの募集があったので応募した次第です」


「なるほど、わかりました。それでは次にあなたのスキルについてです。あなたの事前報告では〝守護者〟。人の傷を治すことができ、尚且つ人を守る盾シールドを作り出すことのできるとのことですが、間違いないですか?」


「はい、間違い無いです。それは実演の時にも試験管の方に納得していただいたので」


え、なに?

書類審査だけじゃなくてそんなこともしてたの?

いや、本当かどうか確かめるのは理にかなってるけどさ。

たくさんいたんでしょ?

よほど激務だったんじゃ……

うん、考えないでおこう。


その後もシロによる面談は続いていき、最後の質問となった。


「それでは最後に。〝人の役に立ちたい〟とは具体的にどういうことですか?」


最初は強張っていたリノさんもここまでいくと、慣れたのかスラスラと話していた。


「はい、盾と回復を駆使してサポートに回りたいと思っています」


これで終わりかと思った時にシロが迫力ある声で言った。


「その役回りはダンジョンでモンスターと戦闘した時、まず間違いなくあなたを狙います」


「えっ……」


そのシロの言葉にリノはそう言葉をこぼした。


「それはそうでしょう。回復役がいるならそれを全力で叩くべきです。つまり一番に狙われるということ。あなたにはその覚悟がありますか?」


「……」


少し厳しい言い方だけど、シロのいうことおりだ。

回復役がいるのなら俺だって真っ先に狙う。

じゃ無いと長期戦になり負ける可能性も出てくるからだ。

その時に回復役が逃げ出したり盾シールドを維持しなくなったり回復しなくなったら死活問題になる。

当然の質問といえる。


「あなたには、チームの命を守るその覚悟がありますか! あなたにはそれだけの力があるのだから!」


ずっと下を向いていたリノさんをシロはダメだと思った顔をしていた。

正直俺も思ったところがあった。

だが違った。


「嬉しい」


「「「え?」」」


予想外の言葉にその場の3人の声が綺麗に重なる。


「嬉しいんです。今まで役立たずだと言われていた私が人の命を守れるんです。こんなに嬉しいことはありません。もし、もしも私が逃げるようなそぶりを見せたら即刻クビにしていただいても構いません。なのでどうか、このギルドに私を入れてください」


「そうですか……わかりました。結果は後ほどお伝えします」


そうしてリノさんは帰り、部屋には俺とシロ、晴翔の3人が残った。


一番初めに言い出したのはシロだった。


「どう思いますか? ストさん」


「俺はいいと思うぞ。あの気持ちに嘘はないと思う。それにギルドを追放されることも覚悟している。彼女にとって人の役に立てるということはそれほど嬉しいことなんだろうな」


俺の意見に同調するように晴翔もいう。


「そうですね。ストさんのいう通りだと思います。もちろん俺も同意見です」


「私も同じです」


そうして満場一致でリノさんの正式なギルド加入が決まった。


シロと晴翔を除けば記念すべき、一番最初のギルド員の誕生だ。

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