社畜、交渉する

は? 専属部隊?

いや、なに言ってんのこの爺さん。

確かにわかるよ?

こんな高級車に乗ってるんだからお偉いさんってことはよーくわかる。

それはわかるんだ。

でもさ……

なによ、〝専属部隊〟って

戦争でもするの?

絶対やだぞそんな奴!


「まぁまぁ、落ち着け。1から説明するから」


「……」


ふぅ、ありがたい。

流石にこのまま、入る? それとも入らない? って聞かれたらどうしようと思ってた。

そこまでバカじゃなかったようだ。

そう思いながら俺は爺さんの話に耳を傾けた。


「今更だが自己紹介をしよう。ワシは犀川寺雄三さいがんじゆうぞう。ダンジョン教会、『犯罪取り締まり課』のトップだ」


え? ダンジョン教会の人!?

しかも犯罪取り締まりだって?

うわぁー、嫌な予感しかしない。


「我が日本では今、ダンジョンで手に入れた能力スキルを使って犯罪を犯すものが現れている。そう言った奴らを叩き潰すために設立されたものだ」


「はぁ、それで……?」


「教会の人間だけだはとても手が回らない。そこで民間人の協力を得ることにした」


!? 民間人の協力?

そんなの絶対にやってはいけないことだ!

国民を守るための教会が守る人に助けを求めるなんてそんなの設立した意味がないじゃないか!


「もちろん、それは本末転倒だ。しかし、手が回らないのも事実。そこで『ソロ探求者ランキング』というものを立ち上げることにした」


「ソロ探求者ランキング?」


俺が見慣れない単語に反応すると、老人……犀川寺……あぁ、もう! 

爺さんでいいや!

爺さんは教えてくれた。


「ソロ探求者ランキングというのは我がダンジョン教会が運営しているダンジョンガイドアプリを通して全国の探求者の能力を図り、ランキング形式にしたものだ。お主のアプリにも『称号』の欄でなっているのではないか?」


あ、そうなのか。

あざます!

それで? ランキングが乗っているのか。

確認するためにアプリを開き、自身のプロフィールを開いてみた。


______


探究者名  スト

レベル   95

カテゴリ  探究者 ソロ トップランカー

スキル   魔力操作(極)

称号    ソロ探究者ランキング8位

      反射神経の化け物

______



あっ、ほんとだ。

確かに称号の部分にソロ探求者ランキング8位って書いてある。

っていうかなんだよ! この〝反射神経の化け物〟って!

人を化け物扱いするんじゃねぇ!

……はっ!

おっと、そうだ。

こういう時こそ落ち着け、俺。

よし、落ち着いた。


「どうであった?」


「ああ、確かにあった」


俺は爺さんのその言葉に素直に答えた。


「で? これが一体なんなんだ?」


「それはな、ソロ、つまり1人でダンジョンに潜っている探求者の強さのランキングなのだ」


へぇ、そうなのか……

ん?

まてよ……?


「えっ! てことは俺、8番目に強いってこと!?」


「はっはっは、これはまだ仮定の話だ。もしかしたら実際はもっと上かもしれんぞ?」


「……まじかよ」


なんかものすごいことになってんな。

まだダンジョンに潜り始めて1週間も経ってないんだぞ!?

はぁ、最近驚くことばかりで疲れてきた。

ま、それも楽しいからいいんだが。


「それで話に戻るが、そのランキング上位、トップ10の探求者に協力を求めることにしたのだ」


「そうなのか……!? まさか俺に話す用件って言うのは……!」


「そう、お主には犯罪者を潰すための専用部隊に入ってもらいたい」


うわぁ、やっぱりこんな奴だよ。

なんでこう、俺の嫌な予感は当たるんだ……


「それは強制なのか?」


俺はそう聞いた。

もし、強制なら仕方のないことなのだがそうじゃないのなら断れるかもしれない。


「いや、強制ではないな」


「そうか、だったらーー」


「待て」


俺が断ろうとしたら爺さんが口を割って入ってきた。

なんだよ、強制じゃないんだろう?

だったら別に断ってもいいじゃないか。


「別にワシは一方的に入れと迫っているわけではない。もちろん、入ってくれたら対価は支払うぞ」


なに? 対価があるのか。

それだったら聞いてやらないこともない。

一応もう一回断ろうと思ったのだがやめておいた。

命をかけるのは嫌だが、それはすでにダンジョンで行っているからな。

それは理由にならないだろう。


「その対価というのは?」


「特権だ。ダンジョンの」


ダンジョンの特権だと……?

なんだよ、惹かれるじゃないか。

クソッ! 俺はそう言った言葉に弱いんだよ!


「ダンジョンの、というのは少し違うな。それはさまざまなものがある。例えば君を呼びに行かせた助手席に座っている圭くん」


え!?

あの赤髪、圭っていうの!?

今始めて名前をしった……

ってそんなことよりもコイツもランキングトップ10に入っているのか。

見かけによらずすごいんだな。


「彼はダンジョン教会が携わっている料理店の会計が無料になるんだ」


「は? 会計?」


「そう、彼は少し特殊でね。こう言った使い道をする人は初めて見たよ。他には魔結晶の買取額の増量とかだね」


なるほど、ダンジョン教会の関わっているものならたいていのことはなんでもできるというわけか。

だったら!


「俺専用のダンジョントレーニングルームみたいなものをくれないか?」


「というと?」


「さっきのクマとの戦闘で俺のスキル、動きにはまだ可能性があることがわかった。そこでダンジョンの環境で1人でトレーニングできるところが欲しい」


「なるほど……」


俺が要望を言うと爺さんは考え込むような素振りをした。

まぁ、それもそうだろう。

これは言ってしまえばダンジョンを丸々一つくれと言っているようなものだ。

こんなのが通るわけーー


「いいだろう」


「……え?」


「ダンジョントレーニングルーム、用意してやろう。最近、ダンジョン教会の研究チームがダンジョン空間の再現に成功したのだ。安全性も確立してある。そこをトレーニングルームとして使ってくれて構わない」


「いいのか……?」


うれしい、嬉しいんだが、ここでやっぱり無理! って言われてしまうのだけは避けたい。


「ああ、もちろんだ。民間人に協力を仰ぐのだ。しかも強力な……そんな協力者の願いはできる範囲で聞き入れたつもりだからな」


よし! 言質とった!

よっしゃー!

これで思う存分練習できるぞ!

ダンジョンでトレーニングするのは危険だからな。

大体のモンスターを倒せると言ってもクマみたいなやつが出てきたらたまらないからな。

これは本当に嬉しい。


「だったらいいだろう。爺さんの言ってる専属部隊に入ってやろうじゃないか!」


「ああ、頼むぞ」


そうして俺と爺さんは握手を交わした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る