社畜、異常個体に出会う

「さて、次だ次!」


ゴブリンを倒した俺は奥の方に進んでいった。

あぁ、やっぱりダンジョンは最高だ。

潜るだけでこんな爽快感を味わうことができるんだからな。

でも、今回の相手はそこまでだったな。

前の狼サンドバッグの方がやりがいがあった。


「っと、ごめんごめん。シロのことを忘れてたよ。奥の方に行くけど大丈夫?」


「えっ、あっ、はい」


俺が後ろを向いてそう聞くとシロはそう答えた。

よし、これならもっとできそうだな。

コメントの反応も上々だし大丈夫だろう。

あっ、そういえばレベルは上がったのか?

一応モンスターを倒したわけだし何か変わってるかもな。


そう思って俺はアプリを開いてみる。

だがしかし、


「あれ? 変わってないな」


そう、レベルは一切上がってなかったのだ。

まぁ、あのゴブリンは弱かったし上がらなかったのかもな。


まぁいいや。

正直言って俺はレベルとかはどうでもいい。

やりたいのはモンスターと戦って倒すことだ。

敵と戦うハラハラ感、そして倒すことで得られる爽快感。

その二つが俺がダンジョンに潜っている目的だ。

ん? いや待てよ。

今ふと冷静に考えてみたら俺戦闘狂じゃね?

うぉぉぉぉ!

いやだ!

それだけは嫌だ!


よし、これからはちゃんと思考を抑制しよう。

じゃなきゃ変な人に思われてしまう……


そう思いながら考えていると階段を見つけた。

おぉ、これが階段か。

昨日ネットで見たぞ。

確かこの下に向かうほど敵が強くなるんだったな。

俺はこのまま行くが……


「シロはどうする? この先いく?」


「はい、もちろん行きます」


あ、やっぱりシロもやるんだ。

まぁ、視聴者も強い敵との戦闘を望んでいるだろうからね。

配信者として理にかなってる。

ま、俺は違うんだけど。


「キタキタ!」


階段を降りて下の階層に来た瞬間モンスターと鉢合わせした。

クマみたいに大きなモンスターだった。

デッカ!

おい、でかいって!

高さ4メートルくらいあるぞ!?


「うぉー! スゲェ! これがダンジョンか!」


「何言ってるんですか! 早く逃げますよ!」


俺が1人で盛り上がっているところにシロは口を出す。


「えっ? 逃げる? なんで?」


〝は? 何言ってんだコイツ〟

〝異常個体イレギュラーだぞ!〟

〝ニゲロォォォォォ!〟

〝シロちゃん逃げて!〟

〝ダンジョン教会に通報した〟

〝↑ナイス!〟

〝ヤバいって!〟


あっ、これマジでヤバいっぽい。

サッとスマホを見たら『逃げろ』というコメントがものすごいスピードで流れていた。

異常個体? なんだそれ……?

もっと勉強しなくちゃいけないな。


「グォッ!」


「ってそんなこと考えてる場合じゃねぇ!」


俺はそう叫びながら間一髪でクマの攻撃を避ける。

なんだあいつ、体格とスピードが釣り合ってないぞ!

早すぎる!

クッソ! もっと防御高くてパワー高いやつだったら逃げられたんだけど……


「シロさん、やりますよ!」


「えぇっ!?」


〝何言ってんだ!?〟

〝自殺行為だぞ!〟

〝いや、その方がいい〟

〝↑は? 何言ってんだお前〟

〝一度戦ったことがあるからわかる、あれは見た目以上にスピードが早い。だから逃げようとして背を向けた瞬間血がスプラッシュするよ〟

〝マジかよ……〟

〝絶望しかない〟


「今コメント欄にもあったがあいつはああ見えてスピードがある。逃げようとしても無駄だ。今こうしている間にもあいつは隙を狙ってきてる」


そう言いながら俺はクマをじっと睨む。

肌で感じる。

もし今シロの方を向いたら間違いなく死ぬ。


「俺にはシロを守りながら戦う余裕がない。悪いが1人で攻撃を回避できるか?」


「バカにしないでください! 私も探究者です。戦います!」


提案を断るシロを見て俺は思わず口角が上がる。


「いいね、最高だ! いくぞ、あのクマを倒す!」


「はい!」


そうして俺たちは熊に向かって突撃した。

クマの攻撃が降り注ぐが、それは全て回避していく。

攻撃のスピードは思ったよりも遅かった。

流石に狼よりは遅かったらしい。

チラッとシロの方もみたが余裕で回避していた。

なんだ、怖がってる割に行けるじゃないか。

それが俺の率直な感想だった。


シロにヘイトが向かっている間に俺はアプリからあのクマの情報を確認する。

どうだ……?


______


種族   ブラッドベア

レベル  95

カテゴリ 異常個体イレギュラー クマ系

スキル  狂化

討伐推奨 レベル90台複数人

______



よーし、コイツが頭おかしいのはよくわかった。

なんだよ! レベル95って!

俺より高いじゃねぇか!

それになんだよ『狂化』って……

絶対にやばいヤツだろ!


焦りでスキルの部分をタップしてしまったがそしたら新たな情報が開示された。

ん? 


______


スキル名 狂化

効果   体力が1割以下になった場合、理性を失い体力

     がある限り暴れ回る

______


これは、スキルの内容?

なるほど、コイツは体力が1割以上ならこのままなのか。


「シロ! コイツは体力が1割を切ると暴れてくる! それに気をつけろ!」


「はい! 分かりました」


「それじゃあ、攻撃開始だ!」


そうして俺とシロはヒットアンドウェイ戦法で戦った。

1人がヘイトを買い、回避に専念。

そしてその間にもう1人が攻撃するというものだ。

これをローテーションしながら俺とシロは攻撃を続けた。


そうして殴り続けること数十分。


「グォォォォォォォォォッ!」


その叫び声と共にクマの目が赤くなった。

これは、このプレッシャーは……間違いない!


「シロ! やつがスキル『狂化』を使用した! あいつはこれから体力の限り暴れ回るぞ!」


「ウゴガァッ!」


「あっ、ぶねっ!」


俺がシロに説明したとき、俺は寸前でクマの攻撃を避けた。

もうあれだな。

体力とかこっちの方が効くとかそんなことを考えてない。

ただひたすらに攻撃を繰り返す殺戮マシーン……

はっ! 化け物が無様だな!

そうして俺とシロは再び合流し、クマと対峙する。


「さぁ! 第二ラウンドを始めようっ!」


「はい!」


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