社畜、バズる

「あぁースッキリした」


あの狼系のモンスターを十数体倒したところでモンスターは逃げていった。

俺はすでに満足していたから会おうとは思わなかった。

ありがとう、俺のサンドバック


「コレからも定期的にこようかな、ダンジョン」


ダンジョンに入場すること自体は無料だ。

武器を買ったりするときにお金をかけるとはいえ、そう言ったものは滅多にやらない。

そして何よりストレス発散になる!

コレが一番大きい。


「ん? なんだコレ」


さっき俺がモンスターを倒したところになにか結晶クリスタルが落ちていた。

あれ? コレってもしかしなくても魔結晶ってやつなのでは?

確か終わった後に受付であることができるんだっけ。


「でも、これ全部運ぶのはきついよな」


その落ちている魔結晶は俺の頭と同じくらいの大きさがあった。

これを全て持って行くことは難しい。

一回待ってみたけどなかなかに重かった。

アプリとかに何かないのか?

さっき説明欄見たいのが出てたし……

そう思って俺はアプリを開いた。


「へぇ、今更だけどこのアプリって『ダンジョンガイド』っていうのか」


ガイドって書いてあるしなんかあるだろ?

あってくれ……

そう思いは伝わったらしく、それらしい説明文があった。

なるほど、なるほど。

このアプリ曰くダンジョンの性質を利用してこのアプリ使用者個々の空間を用意したらしい。

そしてそこには他の人のと混ざる危険性はないから自由に使ってね、ということだった。


「あぁ、これかな?」


俺はアプリの端っこにあったカゴのアイコンをタップした。


「おおっ、すごいなこれ」


すると目の前に白い穴のようなものが出てきた。

ここに入れればいいのかな?

中を覗いてみると結構な広さがあった。


「えーとなになに? この空間は衝撃を吸収するから素材を傷める心配はない、万能すぎだろ、このアプリ」


そう思いながらも俺は全ての魔結晶を白い空間の中に放り込んだ。


「ふぅー、結構な重労働だったぜ」


なんかモンスターと戦った時より疲れた気がする。


「さてと、帰るとしますか」


そう思って俺はダンジョンの入り口に向かって歩き始めた。


「あ、あの! 少しいいですか?」


ダンジョンの入り口が見えてきたころに人に話しかけられた。


「ん?」


呼ばれたので振り返ってみるとそこには綺麗な青い髪を腰まで伸ばして少女が立っていた。


「ふーん」


「えっ、あ、あのなんですか?」


しばらく見つめていたため、驚かせてしまったようだ。


「あっ、ごめんね。こんな子もダンジョンに潜ってるんだなーて思ってさ」


俺は素直に思ったことを口にする。

それを聞いて少女は少しホッとしたような顔をした。


「それで? 俺になんのようなんだ?」


「あっ、それなんですけど!」


俺がそう切り出すと少女はすごい勢いで俺に話しかけてきた。


「あなたって何者なんですか?」


……何ものって俺は俺以外ないし……


「いや、ただのサラリーマンだけど……」


「そんなわけありません! SS級のモンスターを瞬殺できる人です、もっとすごい人なのでしょう?」


うわっ、なんだこの子、すごい食いついてくるな。

すごい人とって、いや事実ただのサラリーマンだし。

特別な何かを成し遂げたってわけでもないしな。

というか


「そのSS級ってなに?」


「へ?」


俺が疑問に思ったことを聞くと、少女は素っ頓狂な声をあげた。


「いやいや、冗談はよしてくださいよ! 私をからかってるんですか?」


そう、今度は少し怒った口調で言われた。


「いや、からかうって言われても俺初ダンジョンだし……」


俺が事実を伝えると、少女は信じられないと顔に出した。

そして


「……マジですか?」


と、驚きの声で聞いてきた。

いやーね、マジですか、じゃなくて事実だしね。

なにか証拠になるようなものは……あっあるな。


「うん、マジ、なんならカードみる? 発行日今日になってると思うから」


「いえ、大丈夫です。ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」


「いやいや、気にしないでください」


「……」


「……」


重い! 空気が重い!

なんだろう、すっげえ気まずい。

どうしようかな……あっ、やべ!

ふと時計を見たらその針は1時を指していた。


「あっ、すみません。明日会社があるので失礼します」


そう言って俺はダンジョンの外へ走り出した。



「ねぇ、あの人の会社大丈夫だと思う?」


自称サラリーマンのいなくなったダンジョンで少女は呟いた。

それに呼応するように近くに浮いていたドローンが振動する。


〝いや、大丈夫じゃないだろ〟

〝始業3時とか言ってたぞ……〟

〝サビ残200時間とかも……〟

〝俺と同じ匂いがする〟

〝ああ! ここに同志がいる!〟

〝なんかすげえ嬉しそうにしてる奴がいるんだが笑……はぁ、笑えねぇ〟


「うん、やっぱり大丈夫じゃないよね……」


ダンジョンには心配そうな少女の声が響いた。



翌朝



「ふぁぁぁぁ」


いつぶりだろうか、こんなに清々しい朝は……

やっぱりあれだな、ダンジョンでストレス発散したのが大きいのかな。


「ん? 電話?」


今日も行くか、そう思っていた時に電話が来た。

相手は……うげっ、斉藤かよ。


「なんだ……」


『あははっ、そんなに嫌そうにするなよ! 西原! 俺とお前の中だろ?』


俺がイヤイヤ電話を取るとすぐに能天気な声が聞こえてくる。

変わってないな、あのうざったらしいところ……


「切るぞ」


『うわー、待って待って! お前に提案があるんだ』


ムカついて脅したら慌てたように引き留めた。

珍しいな、斉藤が提案するなんて。

いつもはそんなことせずに流されてるのに……


「提案? なんだそれは」


『お前、ダンジョン配信者にならないか?』


「はぁ? 何言ってんだお前」


『いやだってお前ブラックだろ? その会社。もっと楽しく稼げるぞって話だ』


「稼げるってな……まぁブラックでキツイこともダンジョンが楽しいことを事実だけどさ、そう簡単に行くわけないだろ」


そうなのだ。

確かにダンジョンの魅力にハマったのは事実だ。

ダンジョンで稼げたらなと、そう思った。

けど、そう簡単にいかないのが現実だ、それを俺はいやってほど知っている。


『それがな……うまく行きそうなんだよ』


「なんでそんなに自信があるんだ、お前は」


斉藤はもう勝ったように話している。


『だってさ、お前もう有名人だぞ?』


「は? 有名人?」


『あー、そういえばお前、SNSとかやらないもんな。見てみろよ』


そう言われたので俺は見てみる。

するとそこには、俺がモンスターをフルボッコにしていることがものすごい勢いで拡散されていた。


「えっ、おいこれなんだよ!」


『わかっただろ? 話題性は十分ある、チャンスなんだよ、あのクソ企業から抜け出すための!』


そう、斉藤は高らかにそう言った。

その言葉に俺は


「斉藤、話を聞かせてくれ」


『おうよ』


胸が高まった。


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