日本で最初の鳥類図鑑~堀田正敦とかいうガチオタと露寇事件~
平井敦史
第1話
2023年12月6日放送のNHKBS『英雄たちの選択』。タイトルは「時代をひらいた博物大名たち」ということで、江戸時代中~後期に全国的流行を見た博物学にハマった大名たちを取り上げていました。
「
もちろん、博物学にハマったのは大名だけではなかったのですが、何しろ彼らには財力もあればある程度自由になる時間もあり、さらには大名間のネットワークまであるということで、非常にディープな研究成果を残す人たちが多数現れました。
最初に取り上げられたのは、
彼は
その成果をまとめたものが、『
ちなみに、先ほど「
日本においても、奈良時代にはすでに伝わり、発展を
これと博物学の違いは、実用性に重きを置いた本草学に対し、実用性を軽視するわけではないものの、知的好奇心を満たすこと自体に意味を
先ほど全国的に流行と書いたとおり、博物学に傾倒した大名はもちろん
主要なところでは、
彼らは、旗本らも巻き込んで、
ちょっと当時のお殿様というものに対する見方が変わりますね。
そして、こうした潮流の中から登場するのが、番組の主題となる人物。江戸幕府の
当初は中村姓を与えられ、
1786年、数え年三十二歳の時に、
その後、
そのことからもわかるように、政治家としても非常に優秀な人物だったのですが、その一方で、博物学、特に鳥の研究に情熱を注ぐ一面も持っていたのでした。
彼は若い頃から鷹狩りを好み、鷹や狩りの獲物となる鳥たちに対し、強い興味関心を
これは、鳥の生態等に関する記述のみならず、その鳥が古典文学や和歌、漢詩のなかでどのように取り上げられているかといったことまで記述されています。
すさまじいまでの鳥オタクっぷりですね。
さて、この鳥オタク正敦が若年寄を務めた時代、外交上の重要な課題が生じていました。
ロシア帝国との接触です。
拙作『女帝のお茶会』で主人公を務めてもらった
日本に帰国した彼に対し、幕府の役人たちがさまざまな事柄を聴取した記録が残されているのですが、ロシアの政治体制等に関する質問が並ぶ中、「ロシアに
これは、ご想像のとおり、正敦が役人に質問させたものであろうと言われています。
まあ、そんな質問にもきちんと答える光太夫の観察力・記憶力チートっぷりにも驚かされるのですが(笑)。
また、この質問から、正敦が単にロシアの珍奇な鳥を追い求めるのではなく、冬場日本に飛来する
このように、外交問題に取り組みつつ、北方の鳥への興味関心も
それが、「
光太夫を日本に送り届けると同時に、通商交渉も求めてきたアダム=ラクスマン(1766~1806以降)一行に対し、
これを受け取ったラクスマンは、長崎に向かうことはせず、ロシアに帰国します。自分の役目はここまで、と考えたのでしょうかね。
その後、エカチェリーナ二世は崩御し、女帝の孫のアレクサンドル一世(1777~1825)の時代、この
使者となったのは、『女帝のお茶会』の中で、みんな大好きズーボフ君(笑)が推薦していたニコライ=レザノフ(1764~1807)という人物。
1804年(
これに業を煮やしたレザノフは、1806年(文化3年)から1807年(文化4年)にかけて、
この緊急事態に際し、正敦は若年寄の任にありながら自ら
いや、ちゃんと仕事もしているわけですし、自ら危険な最前線に赴いて陣頭指揮を執るというのは、中々出来ることではないのですけどね。やっぱり、この人骨の髄まで鳥オタクなんだなあという思いは否めません。
こうして、危険を冒してまで採集した北方の鳥たちに関する情報ですが、これらは資源としての意味合いもあることから、いわば軍事機密でもあったわけです。
これを
で、鳥オタクの正敦はどうしたかというと、もちろん期待を裏切らず、北方の鳥の情報も余さず
まあ、彼なりに葛藤はあったのかも知れませんけどね。
さて、北方の鳥の情報も掲載された
その人物とは、
このことから、シーボルト事件には正敦も一枚噛んでいたのだはないかと考えられ、幕府に目を付けられる危険を冒してでも景保の名を記したのは、正敦なりの贖罪の意味合いがあったのではないかと考えられています。
最後に、番組には出てきませんでしたが、今回本稿を
元々は
その後、1811年に起きたゴローニン事件に際し、ロシアとの捕虜交換で日本に帰国。種痘法を広め、日本における種痘法の祖と呼ばれることとなりました。
こんな人物がいたんですね。全然知らんかった。
本当、歴史って面白いですね。
日本で最初の鳥類図鑑~堀田正敦とかいうガチオタと露寇事件~ 平井敦史 @Hirai_Atsushi
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