あとがき

 他の方はどうか知りませんが、長編物を書いていると、どうしても別の話を書いてみたくなってしまいます。

当然そんな余裕なんて無いわけですし、そんな事をしたら下手すると今の長編を放置しかねません。


 その浮かんだ話はネタ帳として保管してあるのですが、生来飽き性の私は、ついつい今書いているものよりもそちらの方が脳裏に浮かんでしまいます。


 突飛も無い話であればあるほど妄想が膨らみ、ネタ帳はどんどん詳細な内容になっていくというものです。

ジャンルも様々。

スペースオペラだったり、漫遊記だったり、競馬ものだったり、戦記だったり、和風ファンタジーだったり、スポーツものだったり、ダンジョンものだったり。



 『競竜師』を書いている時に、この話は別で使える、もしくはもっと膨らませられると思う設定がいくつもありました。

そのうちの一つが第二話で記載した『竜が燃料革命によってお払い箱になった』という設定でした。


 現実社会でも燃料革命によって馬が用いられなくなり、競馬場と牧場、動物園くらいでしか見なくなっています。

ただ実際にそれを書くとなったら単なるワットの伝記みたいになってしまいます。

ではこの燃料革命をファンタジーの世界で行ってみたら?

それがこの話の一つの柱でした。


 私はひねくれ者ですので、昨今のファンタジーに少し疑問というか不満を持っています。

ファンタジーってスキルと魔法を出せば良いってものじゃないんじゃないかと思っているんです。

古いTRPG世代の人間なものですから。

そもそも大昔のロボットアニメじゃあるまいし、ロケットパンチ!のように技の名前を英語にして叫ぶのってどうなのだろうと思うんです。

ならばスキルと魔法を使わないアルスラーン戦記のようなファンタジーを書いてやろうと考えました。

もちろん流行からは程遠いものになるのですから、評価が散々なのは承知の上で。



 もう一つの柱としては、ゴッドファーザーを考えていました。

私はあのマロン・ブラントのヴィト・コルレオーネの演技が大好きでして。

いつかあんな渋いお爺さんが活躍する話を書きたいなとも思っていました。

ただあれをそのまま話に落とし込むのは極めて難しい。

そこでヴィトの若年の頃の話、映画でいう二作目の方、ロバート・デニーロの方を参考にしました。



 プロットの第一稿はファンタジー世界に蒸気機関車を走らせようという鉄道王の話でした。


 鉄道を開発し各貴族とねんごろになって鉄道網を引いていく。

その鉄道による物資輸送力でマーリナ侯たち味方の貴族がマロリタ侯たち敵の貴族に戦争で勝利する。

最後はそんな話でした。


 ただ、この時考えていたのはバッドエンドだったんです。

実は味方にも敵の貴族から調略された者がいて、幼馴染だったのに主人公のせいで不幸な目にあって、主人公はずっと友人だと思っていたのに、その幼馴染は密かに主人公を恨んでいた。

新たに敷設された鉄道網のセレモニーで幼馴染が主人公を殺害し恨みを晴らす。

そんなエンディングでした。



 その後、色々と設定資料を作っていくうちに、何もない所から蒸気機関車はいくらなんでも無理があると思い始めました。

蒸気機関にいたるまでにいくつもクッションを作らないといけない。

何も無い零からそこまで持って行くのは、いくらなんでも一人の頭脳で行うのは無理があると。

そういうの気にしない方が圧倒的に多いとは思うのですけど、私は物凄く気になるんです。


 それを可能にするためにこの第一稿では異世界転生という形をとる事になっていました。

ですが、その為にはまず『ねじ』から作っていかないといけない。

リベット打ちもしないといけない。


 そんなのが主体の話で果たして読んでて飽きないだろうか?

そう思い始めました。

そもそも書いてて私が飽きるかもと。


 そこでゴールは蒸気船とし、そこに至るまでにいくつもの困難がある、そういう話にプロットを大きく変更いたしました。

そこで第二稿では、鉄道王の話から発明少年の話になりました。


 技術として重要と思ったのは四つ。

真空の技術。

水や空気の流れを制御する弁の技術。

滑車の技術。

プロペラの技術。


 これを一つ一つ身近なところからヒントを得て、皆の役に立つ物へと変えていく。

そうする事で周囲から信頼を得ていく、全体的にはそんな内容になりました。



 タイトルは最初から竜世界に抗う的なものに決めていました。

主人公のドラガンは竜が懐かないという設定も最初から決まっていた事です。

御者の息子なのに。


 ただ少し書き始めて、それだけでは竜社会云々は弱いと感じていました。

そこで第三稿として、竜を管理する団体に付け狙われるという設定を加えました。

『王国直属の竜産協会』

ここが大陸中で悪さをしまくっていると。


 竜産協会と懇意にしている貴族とそうでない貴族で最終決戦、それが最後の盛り上がりというのはこの時に決まった事です。

それまでは、最終決戦はドラガンを庇護する貴族による反乱にしようとしていたんです。

劣勢をドラガンの考える新兵器で次々に撃破していく。


 この稿でもまだエンディングはバッドエンドでした。

庇護する貴族、ヴァーレンダー公がドラガンを危険視する。

そのヴァーレンダー公の陰謀でゾルタンが裏切り、最後船上でドラガンを殺害し海に捨てる。

理由はドラガンのせいで両親が死んだから。

最後にドラガンの懐からラスコッドの手紙が零れ落ち、それを読んで後悔するというエンディングでした。



 競竜師の時もそうでしたが、私にはどうにも本能的にバッドエンドで考えてしまう癖があるみたいです。

コンセプトをゴッドファーザーのような話としていたのが悪かったのかもしれません。

多感だった時期にそういうアニメが多かったというのも関係しているかもしれません。

その後のゲームでもどこかバッドエンド的な話のゲームが多かった気がしますし。


 一見グッドエンディングに見える、だけどよくよく窓の外を見たら、バッドエンド以外の何ものでもない。

そんな話が多かった気がするのです。


 ガンダムだって、一見ジオンが滅びて良かった良かったですが、サイド3の人たちはこれからどうするんだろうとか、レビル以外のゴップみたいなクズたちにこれから支配されちゃうのかとか、よくよく考えればかなりバッドエンドですものね。


 目の前の小さな栄光の為に、背後の多大な犠牲にはスポットを当てない。

それが昔のアニメやゲームの手法だったような気がするのです。



 確か、二章の途中からだったと思います。

再度プロットを大きく変更したのは。

エモーナ村に行く事になった頃、この話の中でもドラガンの状況が一番悪い時期を書いている頃です。

これでバッドエンドはさすがに酷いと思い始めました。


 ここまで読んでいただいた方たちは、ドラガンが蒸気船を作るのを楽しみにしているのではなく、ドラガンを虐げた者たちに天罰が下るのを楽しみにしているはずだと。

いわゆる「ざまあ展開」というやつですね。


 そこで後半に予定されていた部分をばっさりと削り、ドラガンを虐げていた者たちを操る影の存在を追加しました。

それが『グレムリン』です。

『抗竜記』という題に沿って、このグレムリンこそが悪しき竜だという設定にする。

それを最終章でドラガンと盟友になったヴァーレンダー公たちが浄化する。

この最終決戦を最後まで引っ張ってしまおうと。


 皆プリモシュテン市に集まって来た。

最後にやっと安住の地で仲間たちに囲まれて平和を謳歌できるんだ。

そんなエンディングに変更いたしました。


 第四稿、ここでやっとコンセプトの軸がゴッドファーザーから水滸伝に変更になりました。



 アリサが亡くなるのは、実は第一稿から決まっていました。

鉄道敷設に亜人たちが反対していて、その交渉を行っていたアリサが殺されるというポジションでした。

第二稿、第三稿では、敵対する貴族の放った刺客に拉致され殺される。

最終的には刺客がグレムリンになりました。


 安住の地プリモシュテン市の守護聖人、そんな位置付けです。

実は設定上で、各要人には水滸伝のキャラクターがイメージとして付与されています。

例えばドラガンなら宗江、ザレシエは呉用、ポーレは盧俊義。

水滸伝を知っている方だとわかりやすいのはプラマンタの戴宗、ホロデッツの阮小ニ、マイオリーの楊志、バルタの柴進でしょうか。


 アリサに付与されていたのは晁蓋でした。



 この話を読んでいて、最終章でアバンハードの竜産協会の部長たちの身内が殺されていくのに、あれ?と思った人がもしかしたらいるかもしれません。

その人たち関係無くないか?と。


 竜産協会は確かに悪い事ばっかりしていたかもしれないけど、その人たちは単なるサラリーマンだし、殺されたその家族に何の罪があるんだろう?

サラリーマンなら出世の為に保身したり部下を守るのは当たり前の事だし、その家族に至っては単なるとばっちりじゃないかと。


 そう思われるのを承知で私はあのあたりの話を書いています。


 ドラガンたちは治安維持をしているのではなく復讐をしているんです。

自分たちがやられた事はとにかく何倍にもして返す、それが復讐なんだと。


 こういうの国同士の外交のやり方で相互対応というのだそうです。

相手が禁輸してきたら、こっちはそれ以上の禁輸をする。

相手が要人を拘束したら、こちらはそれ以上の人数の要人を拘束する。

海外では友好国同士でも当たり前に行っていることなのだそうです。


 よくそういう話になると、話せばわかるとか言う人いますけど、話してわかるような分別のつく相手は最初からそんな事はしてこないんですよね。

逆にそういう分別の付かない相手――そういうのを『無法者』とか『ならず者』といいますけど――そういう相手というのは手痛い反撃を食うまではやって良いと判断するんです。

だから徹底的に反撃をしないといけないんです。

じゃないとエスカレートしてしまい、気付いた時には取返しの付かない事になってしまうんです。



 実は全部書き終えてからもの凄い失敗に気付いています。

これ「ドラガンとアリサが逆だった」のではないかと。

発明少女のアリサちゃんとアリサちゃんを優しく見守るドラガンお兄ちゃんにするべきだったのではないかと。


 ドラガンお兄ちゃんの親友のポーレさんとロハティンに行き、ポーレさんに守られて一人取り残されるアリサちゃん。

そこをイケメン山賊に助けられる。

そんな感じで行けば、その後の展開はイケメンたちにちやほやされる女の子という話にできたのではないか。

そうなれば絵的にもかなり綺麗なものとなり、もう少し新たな客層が開拓できたのではないかと。




 ここまで十か月にわたり、拙いお話を読み続けていただきまして誠にありがとうございました。

毎日定期的に公開した時間に読んでくれている人がいる。

それが実感できて、その人たちの為にも絶対に話を完成させなくてはと思いここまで書いてきました。


 この話は終焉となりますが、もしよろしければ次の話も続けてお楽しみいただけましたら嬉しく思います。



令和六年十一月朔日 敷知遠江守

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