第47話 籠城戦
領府ネドイカに逃げ帰ってきたコロステン侯は、戦場で起こった事をありのままにスラブータ侯に報告した。
だが、本来いるはずの人物がいない。
そこで始めて家宰のソシュノが倒れてしまった事を知ったのだった。
このままではネドイカでの籠城戦を乗り切れないかもしれない。
そう考えたコロステン侯は誰か参謀になれる人物に心当たりは無いのかとたずねた。
そんな事を言われても、スラブータ侯だって心当たりがあればとっくに起用している。
絶望感漂う中、軍団長のポジールが一人心当たりの人物がいる事にはいると言い出したのだった。
スラブータ侯はその人物を招聘するために手紙を書き、この手紙が無事届くかどうかにスラブータ侯爵領の命運がかかっていると言って近衛隊の隊員を送り出した。
ベレストック辺境伯軍、オラーネ侯爵軍の連合軍は竜を鎮め、再度の軍事行動を起こすまでに三日を要した。
だが四日目にはネドイカに向けて進軍を開始。
その前日、ネドイカに待望の人物が到着した。
その人物はゾロテ・キッツェを利用した防御陣を見ると、すぐに未完成だと気付き数か所の補強を指示。
その後で侯爵屋敷へと向かった。
「ご足労いただきまして、大変感謝いたします。バラネシュティ族長」
スラブータ侯はバラネシュティ族長と固く握手を交わした。
バラネシュティも、ここまでそれなりに情報は得ている。
その上でここネドイカの陥落が致命的な事になるという事も察していた。
最初は家宰のミオヴェニが行くと言っていたのだが、自分が行くからその間、家宰見習いのロベアスカの教育を頼むと言い残して急ぎ向かったのだった。
コロステン侯から南部戦線の進捗を聞くと、バラネシュティはもっと早くにネドイカに撤収すべきだったと言い出した。
既にオラーネ侯、ホストメル侯の侯爵屋敷は接収されている。
それはスラブータ侯の耳には入っていたはずである。
つまり早晩ネドイカにアバンハード軍がやってくると言う事である。
決戦で軍隊を失わなければ、このネドイカで挟み撃ちにできた。
そんな情報は入ってきていないとスラブータ侯が言うと、バラネシュティは失敗したと呟いた。
てっきりある程度の情報は行っているものと思い静観していたらしい。
撤兵しないのは何か意図があるのではと思っていたのだった。
「一週間や。一週間凌ぎ切れればアバンハード軍は来る。ヴァーレンダー公の戦略眼は一流や。打つ手は早いし的確や。そやから間違いなくアバンハード軍は来るはずや」
情報伝達をしたいからセイレーンを貸して欲しいとバラネシュティは頼んだ。
だが残念ながらこれまでで全てのセイレーンは撃ち殺されてしまっていて、スラブータ侯の元には一人のセイレーンもいなかった。
そこでバラネシュティは先ほど自分を迎えに来た親衛隊の隊員にもう一度族長屋敷に行って貰い、連絡用のセイレーンに来てもらうようにお願いした。
そうして、ついにベレストック辺境伯、オラーネ侯連合軍はネドイカに到着したのだった。
残ったスラブータ侯の守備隊に急遽集められた冒険者の部隊、それらがゾロテ・キッツェに効果的に配置されていく。
侯爵軍の指揮はスラブータ侯、コロステン侯、ポジールがそれぞれ部隊を三つにわけて執ることに。
冒険者隊は全て弓兵となってバラネシュティが指揮を執る事になった。
ベレストック辺境伯軍はナウモフカ将軍が、オラーネ侯爵軍はザレチノエ将軍が指揮を執っている。
どちらも家宰から勝てば辺境伯にしてやると言われて出陣してきている。
総指揮はオラーネ侯の家宰フルヒフが執っている。
まずは小手調べ。
フルヒフは総攻撃を指示した。
思った以上に防御陣が固い。
そうフルヒフは感じた。
ここが最後の砦であり、援軍はすぐそこまで来ている。
守備隊の士気は異常に高く攻め手の士気を完全に凌駕していた。
ロハティンの正規軍と異なりオラーネ侯爵軍たちはそこまで重装備ではない。
その為、バラネシュティの弓隊がかなり効果的であった。
数には勝るものの明らかに攻めあぐねている兵たちを見て、フルヒフは一旦攻撃を中止し長期戦を見据えて陣を張った。
南部戦線で多くの兵を竜に食い殺されてしまい、戦力差は一対五くらいにまで開いてしまっている。
通常籠城戦は攻め手が三倍を超えると守備隊が持ちこたえるのは困難になってくると言われている。
ここから先は消耗戦になっていくだろう。
当然、最大の敵は疲労である。
バラネシュティは兵に十分休養をとるように命じ、できる限り建物に入って交代で休むようにと指示した。
三日目、攻め手は城壁を崩す事に重点を置き、竜二騎で一本の丸太を吊って城壁に突っ込んで丸太を打ち込むという手段に出た。
守備側は投槍で迎撃したのだが、防御壁の一角が壊されてしまった。
だがバラネシュティがそこに集中的に矢を撃ちこませ、ポジールの部隊が死守した事で何とか敵に雪崩れ込まれる事態は避けられた。
その日の夜、街から市民がやってきて篝火を焚いて必死に城壁を補修。
補修の甲斐あって、四日目も何とか乗り切る事が出来た。
四日目の夜、防御側の士気が大いに上がる出来事があった。
ミオヴェニとロベアスカがエルフの冒険者をかき集め弓隊を組織しネドイカへ送ってくれたのだった。
そうとは知らないフルヒフは防御陣で最も手薄と見た地点に攻撃を集中させるように命じた。
三日目に崩れた部分とは門を挟んで反対側、街に近い場所である。
バラネシュティは、そこに簡易の射撃台を作らせエルフの弓隊を配置。
迫りくる敵を一斉に射撃した。
前日までと明らかに射撃の精度が違う。
そう感じたフルヒフはすぐに攻撃を止めさせて撤収させた。
五日目はどちらも兵の休息に充てた。
六日目、フルヒフはゾロテ・キッツェに流れ込む水道の破壊に入った。
だが伝令として待機していたセイレーンがそれを発見し、ポジールの部隊が撃って出て撃退。
何とか事なきを得た。
七日目もフルヒフは水道を狙った。
破壊が無理なら汚物を流し込んでやれと、これまでに出ている竜の糞を袋に詰めて水道に向かった。
ところが前日の件でバラネシュティは事前にベルベシュティの森に冒険者の部隊を伏せてあり、工作部隊はあっさりと撃退された。
こうして予定の七日を乗り切った。
「これまでは七日を凌ぎ切る事を目標にやってきた。ここからは根性比べやな。アバンハード軍は確実にこちらに来てるはずや。そこまで何とか耐えるんや」
三日目の時点で、フルヒフはオラーネ侯爵領からホストメル侯爵領とオラーネ侯爵領が共に制圧されたという報を受け取っていた。
既にベレストック辺境伯領も制圧されており、これでもはや道は前にしかない事になった。
是が非でもスラブータ侯爵領を制圧し、反撃の前線としなければ。
ところが総攻撃を命じても跳ね返され、防御壁を壊してもすぐに修正され、水を断ってやろうとしたがそれも失敗。
兵の数ならこちらが有利なはずなのに。
八日目、フルヒフは一隊ではなく一部隊を差し向け水道の破壊を命じた。
激闘の末、水道の破壊に成功。
これでゾロテ・キッツェは水源を断たれた事になった。
九日目、明らかに敵の士気が落ちているとフルヒフは感じた。
総攻撃をかけろ。
今日こそネドイカを落としてくれん。
フルヒフに命じられ、本陣の兵を除く全ての兵がゾロテ・キッツェに向かって行った。
どこからかぴぃという鳴き声がする。
フルヒフはまさかと思い、陣幕を出て上空を確認した。
飛竜の一隊が真っ直ぐこちらに突っ込んで来る。
フルヒフはその空軍部隊の先頭の兵に一突きにされ絶命した。
「ひゃっほう! 一番槍もらったぜ!」
ブルシュティン辺境伯の叫びが戦場をこだました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます