第14話 レオニード

 翌日、議会が開催になった。



 議会はまずは国王レオニード三世の退位宣言から始まった。

退位宣言自体はあまり驚かれはしなかった。

先日のホストメル侯の自害を思えば、さもありなんという感じであっただろう。

貴族たちが驚いたのは、その後の発言であった。


「今この国は危機に瀕している。原因は竜産協会とグレムリンたちによって、この国が支配されてきた事にある。もちろんそれを許した自分にも責任がある」


 グレムリンたちはこの大陸の中にひっそりと集落をつくり、そこを活動拠点としている。

当然そこには元々村があり人が住んでいた。

彼らはそれを殺して食事とした。


 実は私の耳にもその話は入っていた。

周辺の村々からグレムリンに襲われたから何とかして欲しいという陳情が入っていたからである。

だがホストメル侯やマロリタ侯、オラーネ侯によって、その陳情は私の目の前で握りつぶされた。

その者たちは口を揃えて言った。


 グレムリンはもはやこの国の民の一部である。

であれば彼らも国法によって守られるべき存在であり、既存の民は彼らを受け入れるべきである。

たかが生活習慣の違いで差別すべきでは無いと。


「私は今はっきりと言う! 王太子グレゴリーよ、よく聞いて欲しい。グレムリンは単なる侵略者だ! 悪意を持ってこの国の民を傷つけるのだから侵略者以外の何者でもない。侵略者は断じてこの国の民などでは無い! そして奴らによる静かな侵略はもうとっくに始まっているのだ!」


 私はグレムリンの『イェリド』という者に会った事がある。

オラーネ侯が連れてきたその者は、グレムリンの族長というような存在らしい。


 その者が私に言ったのだ。

ブラホダトネ公が失政を犯したようで、処断せねばならぬ事態になるだろう。

我々なら密かにその事態を解決できるがどうだろうかと。


 ただし、その為には今の国王は邪魔であり排除する必要がある。

今の国王は老いて頭が固い。

もっと隣の大陸から多くの民を呼び寄せ、軍備を増強し他国を征服するべきであると説いたが、聞き入れなかった。

だが若く覇気に富んだ私であれば決断ができるはずであると。


 私はそれに対し是も否も答えなかった。

するとそのグレムリンは、まずはブラホダトネ公の失敗に対する対処をしてやる。

その結果を見て判断しろと言って来た。


 数日後、父王は病に倒れた。

看病しているうちに私は気が付いたのだ。

もしや毒を盛られたのではないかと。

それを妃に言ったところ、妃は自分はやっていないと取り乱した。

その態度でもはや自分が後戻りできない事に気が付いた。


 数日後、父王は亡くなった。

エルフのドロバンツ族長が父王を殺害したとホストメル侯から報告を受けたが、妃がグレムリンにそそのかされてやったという事は明らかであった。


 そこから彼らが行うことは全てが裏目裏目に出た。

当たり前だ。

あんな粗雑で乱暴なやり方が通用するはずが無い。

だが気付けば私の周囲は全てグレムリンに取り込まれていて、もう抗うことはできなかった。



「王太子グレゴリー、いや国王グレゴリー四世陛下。父であり先代である私からのお願いである。この大陸からグレムリンを駆逐して欲しい。そして……」


 レオニードはそこで言いよどみ、膝の上で拳をぎゅっと握った。


「そして、早急にこの国の貴族をまとめ上げ、近くあるグレムリンの大侵攻から民を守って欲しい」


 レオニードの衝撃発言に議会は騒然となってしまった。


「彼らは隣の大陸の王国を支配し、私に佞言ねいげんしたように、その王国も侫言によって操りこの国への侵攻を呼びかけている。目的はこの大陸に大量のグレムリンを送り込むためだ。これは亡くなったホストメル侯が言っていた事だ」


 このままいけば、この大陸では今の民よりもグレムリンの方が数が多くなる。

女性を大切に扱う我らに比べ、性の衝動に従順な彼らの方が繁殖力という点で大きく勝るためだ。

兵一人一人に尊厳がある我々に比べ、彼らの兵は放った矢にすぎない。

放ったら別の矢をつがえて撃つだけ。

戦になればこちらが圧倒的不利なのだ。


 ホストメル侯は、だから彼らと迎合して保身を図るべきだと言っていた。


「ホストメル侯は死んだ。自分で死を選んだ。これが何を意味するのか。彼は自分の分析が誤りだったと認めたのでは無いだろうか? であれば、今ならばきっと対処ができるはずだ」


 レオニードは椅子から立ち上がり、困惑している諸侯の顔を流し見た。

最後に王太子グレゴリーで視線を止めた。


「愚かな王で申し訳なかった。私が知る限りの事は全て話そうと思う。だからグレゴリー王よ、この国の民を守ってやって欲しい。これが私からの最後のお願いだ」


 レオニードは王座を降り、目に涙を浮かべ、息子であるグレゴリーに深々と頭を下げた。

グレゴリーはそんな父には目もくれず、つかつかと王座に上った。


「ヴァーレンダー公、貴公に臨時の宰相を命ずる。即位式は後だ。新国王グレゴリーの名で全貴族に領内のグレムリン集落の捜索をさせよ。そして見つけ次第皆殺しにせよ」


 ヴァーレンダー公は椅子から立ち上がり大きく頷いた。


「マロリタ侯、オラーネ侯、ホストメル侯はいかがしますか? ロハティンは? それと二つの竜産拠点は?」


 ヴァーレンダー公の指摘に、グレゴリー王は腕を組んで悩んだ。


「三侯爵は改易だ。その領地についてはそれぞれ、マーリナ侯、スラブータ侯、ソロク侯に一時的に委ねる。二つの竜産拠点は、それぞれオスノヴァ侯とゼレムリャ侯に一時的に委ねる。ただし、絶対に民を傷つける事は許さん!」


 だがグレムリン討伐を邪魔する者はその限りでは無い。

一時的というのは、グレゴリーの即位までとする。

また、捜索や討伐は領土に残った家宰に指揮を取らせ、諸侯にはアバンハードの屋敷に留まってもらいたい。

これは家宰がグレムリン討伐をしっかりと行うかどうかを判断してもらうためであり、もし報告に不審点があれば、アルシュタへ連絡しヴァーレンダー公の家宰ロヴィーに調査をしてもらう。



「それとヴァーレンダー公、申し訳ないが先王レオニードは幽閉とする故処置を頼む。王妃エリナもな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る