第51話 再会
プリモシュテン市に教師が来たという話はエモーナ村を駆け巡った。
これで子供の学校を気にせずプリモシュテン市に行ける。
そう考えた者が非常に多かった。
そこから毎週のようにエモーナ村から移民者が訪れるようになった。
まず最初に来たのはゾルタン、ラースロー、イヴェット、フラジーナというドワーフたち。
次にホロデッツ親子、イヴネ夫妻、ペニャッキ夫妻。
子供たちが増えると村は一気に活気を増していく。
ポーレはネヴホディー先生に早急に学校を建てるようにしますと言ったのだが、ネヴホディーはポーレを叱った。
「デニス。学業にとって大事なのは建物か? そうではないであろう? 友人たちと遊び、意見をぶつけ合い、そして争う。彼らには勉強以外に学べることが無限にあるのだ。部屋に籠ったらその機会は失われるのだぞ?」
ポーレも自分の時のことを思い出し、何か不便があったら遠慮なく言ってくださいとネヴホディーにお願いした。
山賊たちに混じってスラブータ侯爵領から、二人の人物がやってきた。
二人ともロハティンでフリスティナと共に抵抗していた人物である。
一人はイェウヘン・カニウ。
副リーダーだった人物である。
もう一人はイリア・ロタシュエウ。
二人はロハティンでの作戦でホロデッツたちとスラブータ侯の下へ行き、北の鎮台へ潜入し山賊たちを救出した。
山賊たちと鎮台を脱出した後は、先に帰ったホロデッツたちと違って、スラブータ侯の屋敷でのんびり過ごしていたのだった。
二人はフリスティナを見ると抱き合ってお互いの無事を喜んだ。
「フリスティナ、テクチャはどうしたんだ? まさか、あいつもやられちまったのか?」
カニウの言葉にフリスティナは目の前で船から射落とされた事を思い出し泣き崩れてしまった。
するとそこに二人の女性冒険者が現れた。
マリーナ・ロズソシャとダヤナ・チャバニーである。
二人もカニウたちを見ると、二人とも無事だったんだと大喜びであった。
あの時酒場で、皆で船着き場で再会しようと約束したのに。
あれだけいた同志が最後には五人になってしまった事に、フリスティナは悲しみが溢れ出してしまった。
「何言ってるんだよ。この都市の人たち全員が同志だって俺たちは聞いたぞ? 俺たちは彼らに手を貸したんだ。これからは彼らを同志と思っていけば良いだけじぇねえか」
ロタシュエウがフリスティナをそっと抱き寄せると、フリスティナはうんと可愛く返事した。
その後、レシアの母アンナ、クラニケ、エピタリオンとアサナシアがプリモシュテンにやってきた。
「ここがプリモシュテンか。思ったより発展してるじゃねえか。荒野に近いって聞いてたのによ」
船から降りたマイオリーはアリョーナと二人で家が立ち並ぶエモーナエリアをじっくりと眺めている。
「あの時はまだ荒野に近いって俺も聞いてたんだよな。まさかあれからこんな短い期間でここまで家が建つなんて驚きだよ」
マイオリーは声のする方に視線を移す。
そこにいたのは、ロハティンで一緒に竜産協会の支部に乗り込んだムイノクだった。
隣にはあの時救助した女性の一人アンジェラを従えている。
「ドラガンはどこにいるんだ? よろしくって挨拶しとこうと思うんだけど」
ムイノクは今日の今日では会えないと笑い出した。
「『パン・ベレメンド』はこの街の責任者だぞ? パンは会うって言ってくれるだろうけど、頭の固い門番が会わせてくれねえよ」
『パン・ベレメンド』はドラガンの尊称である。
親しい者はカーリクさんと呼び、身内に近いものはドラガンと呼ぶが、その他の多くはドラガンをそう呼んでいる。
ベレメンド村出身の親分という意味合いらしい。
プリモシュテンに来たばかりの頃に、ドラガンの過去を聞いたイボットが冗談で呼んだのが驚くほど浸透してしまっている。
最近ではザレシエまで公式の場ではそう呼ぶようになってしまっている。
どういう意味だと眉をひそめるマイオリーにムイノクは行けばわかると笑った。
工員宿舎の場所を教えるとムイノクは最後に忠告した。
「腹が立っても門番とは揉めるなよ。パンはその門番の事を凄く買ってるんだから」
マイオリーはムイノクに言われた通りに工員宿舎へと向かった。
かなり初期に建てられたようで、建物の中央は木造、その両脇に土レンガの建物が建て増しされており、ここがこれまでこの街の中心として機能してきた事がうかがえる。
「あんたが噂の門番か。ドラガン・カーリクに挨拶に来たんだけど中にいるかい?」
マイオリーはとびきりの作り笑顔で門番のサファグンに話しかけた。
だがそのサファグンはマイオリーの名前を聞くと、そんな来訪者の話は聞いていないと入館を拒絶した。
「あん? 今さっき来たんだぞ? 事前の連絡なんてしてるわけねえだろうが! ふざけてんのかてめえ?」
マイオリーがその門番に詰め寄ると、それをアリョーナが制した。
門番は長い三又の銛をマイオリーに突きつけ牽制している。
アリョーナが興奮しているマイオリーに代わって門番と話をすることにした。
「今日の今日会えないのはわかったんだけど、私たちもお世話になるからにはちゃんと挨拶しようと思うのね。どうしたら会えるか教えてもらえないかな?」
門番は二つの方法を提示した。
一つは申請書に記載しこちらからの返答を待つ方法。
基本はこちらなのだが、正直いつになるかは約束できない。
もう一つは、この街にいる要人と一緒に来る方法。
この街にはどのような要件でも入室を許可されている要人が何人かいる。
その人を探し出しその人と一緒に来る事である。
「で、その要人ってのはどんな人がいるんだ? 探してくるからよ」
マイオリーの問いかけを、その門番は鼻で笑った。
「教えられるわけがないじゃろう! わかったらさっさと去れ!」
マイオリーは顔を引きつらせこめかみに青筋を立てて激怒したが、アリョーナに奥襟を引っ張られた。
「お役目ご苦労さま。門番さん」
アリョーナは笑顔で手を振るとマイオリーを引きずってその場を離れた。
「くっそう! 何なんだあいつはよう! ふっざけやがって!」
マイオリーは道の中央の噴水からちょろちょろ出ている水を手ですくい口に含むと、地団駄踏んで怒り狂った。
「あら、頼もしい門番じゃないの。あれだけきっちりしてれば、誰かさんのように怪しげな人が入り込むことは無いわよね」
アリョーナはマイオリーを見ながらクスクス笑っている。
マイオリーもアリョーナの言う事が理解できるだけに憤りが抑えられない。
「要人か。何人かは心当たりがあるけど、そいつがどこにいるかわからねえな」
少なくとも先ほどの感じ、ムイノクは要人では無いのだろう。
だとすると、あの時救出作戦を指揮していたザレシエとかいうエルフがその一人なのだろうが……。
聞いている話では、この街にはまだ万事屋が無いらしい。
冒険者専属でやれるほど仕事が無く、冒険者も畑や建築で生計を立てているのだとか。
できれば早急にドラガンに会って、その辺りの事を相談しないといけないのだが。
すると街の南北の道路をこちらに向かってくる親子がいた。
アリョーナは真っ青な顔でその男性を見て震えている。
マイオリーもその中の男性に腰を抜かさんばかりに驚いている。
「ろ、ロマン……どうして……お前、あの時、死んだはずじゃあ……」
ポーレはアリサに、そんなに似てるんだねと囁いた。
知っている人はそれは驚きますよとアリサも囁いて笑っている。
声や喋り方の癖まで同じ。
マイオリーは地面にへたり込み、ポーレを指差し震えている。
何かに怯えるように顔が真っ青である。
アリョーナもロマンは惨たらしく殺されたと聞いていたから、同様に恐怖で震えている。
そんな二人を見てクスクス笑うと、アリサはアリョーナに向かって軽く会釈した。
「お久しぶりですアリョーナ姉さん。さっきの船で到着したって聞いてのに、港にいないから探していたんですよ」
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