第24話 対策会議
オスノヴァ川の架橋工事を行うにあたり、オスノヴァ侯の屋敷で部長たちが招集されて大会議となった。
基本的な方針はドラガンの説明とペティアの絵によって多くの者が理解した。
だが、実現に向けてということになるとかなり難題であった。
ドラガンは橋脚を太く大きくというのだが、そんな石をどこで切り出してどうやって運べというのか。
それと貝殻を伏せたような形の橋というが、そんな歪な橋だと渡るのに難儀してしまうだろう。
間違いなく竜車は通れない。
そして大問題は手前に植え込む丸太である。
そもそも急な川なのに、そこにどうやって丸太を刺し込むというのだろう。
部長たちは何が気に入らないのか、あれができないこれができないと指摘ばかりしている。
実現に向けて建設的な意見をと家宰のフェルマが言うのだが、元々不可能な話に予算をつけろというのはいかがなものかと指摘されてしまった。
その状況に最初に我慢の限界を迎えたのはマーリナ侯であった。
マーリナ侯は静かに席を立つと、ドラガンたちの元に行き一言、不毛だと言った。
無言でドラガンの手を引き会議室を出て行ってしまった。
ザレシエも席を立つとペティアも席を立った。
「愚か者には付き合いきれへんよ。あんたらでは小さな花壇一つ作られへんやろな」
そう吐き捨てるように言ってザレシエも会議室を出て行った。
何と無礼なと言って部長たちは激怒したが、オスノヴァ侯はその部長たちの反応にがっかりした顔をし退室してしまった。
オスノヴァ侯が退室すると、それまで椅子にふんぞり返っていた部長たちも困惑した顔で騒然とした。
あのカーリクとかいう小僧の夢物語に付き合う方がどうかしてると言い出す者がいて、ついにはフェルマも退室した。
結局、応接室でマーリナ侯、オスノヴァ侯、フェルマ、ドラガン、ザレシエ、ペティアの六人を中心に事業計画を練る事になった。
「我が領の会議では、あれがやりたいこれがやりたいと好き勝手に言い合って、理由を付けて制止する方が大変だというに、何という覇気の無い……」
マーリナ侯が愚痴ると、オスノヴァ侯はお恥ずかしい限りだとため息をついた。
「何度もあの川で大規模な公共事業を組んで、増水で無駄にされているので、すっかり緊縮派が主流になってしまっているんです。そのせいか領内の経済も縮小の一途でして……」
フェルマも困り果てたという感じで、頭が痛いという仕草をした。
ただそうは言っても、彼らのいう懸念は間違ってはいない。
今のままではどうあがいてもドラガンの案を実現することはできない。
「先ほど、彼らがわあわあ言っていた内容をまとめると三点に絞られると思います。礎石の問題、橋の形状の問題、杭の問題。これに対し何かしら答えを出さない事には、工事に入れないのは事実です」
フェルマは皆に何か案は無いかと尋ねた。
ドラガン、ペティア、ザレシエが一つだけなら解決法はわかると言い出した。
ドラガンは礎石の件で、船の形に板を川底に指し込み、その内側に石を積んだら良いという案だった。
ザレシエは、橋の形状の件で、橋の上に板を敷いてしまえば何の問題も無いという案。
ペティアも礎石の件で、港湾なんかで使われている浜砂に貝殻、製塩の時の廃汁を混ぜて叩いて固める「たたき」で固めてしまえば、そこまで大きな石は必要ないという案だった。
三人の案を聞きフェルマは大笑いした。
「なんだ。もう問題は全て解決しているじゃないですか! 明日からでも作業に入れますよ。何てことだ。あれだけの管理職を集めて一時間以上かけて何も進まなかった会議が、たった数分で終わりだなんて」
同様に川に板を刺し込むことで川底を露出させてしまえば、橋の前の丸太だって、家の大柱を打ちつける要領で打ちつけてしまえば良いだけの話じゃないかと笑い出した。
翌日からフェルマが主体となって、オスノヴァ川への架橋工事が開始された。
一方キシュヴェール地区では、ティザセルメリ族長に推薦を受けたレプシーニ村という村の鉄鋼場に行き、滑車、車輪、敷き棒の製造をしてもらっていた。
族長との会談の翌日、バルタたちは、ナザウィジフ辺境伯の屋敷に挨拶に伺った。
こちらはバルタではなくキドリーが主に対応している。
家宰のデミディウからは、少しでも気持ちが揺らいでいるようであれば、一気に引き崩せと言われていた。
面談したナザウィジフ辺境伯は、揺らいでいるどころか、なぜかブラホダトネ公一派扱いされていることに戸惑っていた。
「キドリー殿、その……もし差し支えなければなのだが、製品加工を私たちにもやらせてもらえないだろうか。いや、ドワーフ主体で構わない、我々も手伝わせて欲しいのだ」
そう持ちかけられたキドリーは、構わないのだがドワーフの方に先に話をしてしまっているので、族長と交渉して欲しいと返答した。
それでないと人間たちが自分たちの仕事を横から掠め取ったとドワーフたちが怒り出すかもしれない。
そうなったら肝心の商品が納品されなくなり、我々が困ってしまうと。
ナザウィジフ辺境伯としては、かなり迷う二択であった。
ドワーフに頭を下げる屈辱を耐えてヴァーレンダー公の陣営に入れてもらうか、このまま流されてブラホダトネ公の陣営に収まってしまうか。
少し時間が欲しいとナザウィジフ辺境伯は回答を保留にした。
だがキドリーはそれを許さなかった。
「ナザウィジフ辺境伯。申し訳ないのですが、決断は我々がいる間にお願いします。次回以降は、もう商人たちしか来ませんから、交渉したくてもできないと思ってください」
ナザウィジフ辺境伯との会談の翌日から、一行はホロデッツを呼び、レプシーニ村の温泉宿で、ゆったりと温泉に浸かり、毎晩酒を呑み、旨い食事を食べ、宿を満喫していた。
逗留を始めて二日目の事だった。
温泉宿に一人のドワーフが訪ねてきたのだった。
「手紙いただきました。その……こん手紙はアリサさん本人のものちゅうことで間違いなかやろうか?」
白茶色の立派な顎鬚を蓄え、それを綺麗に三つ編みにした青年が震える声でそう尋ねた。
ホロデッツが間違いないと言い切ると、ドワーフはポロポロと涙を流した。
「ハランさんだね。アリサさんだけじゃない、弟のドラガンもうちの村にいるよ。二人から君にそれを伝えて欲しいと言われてきたんだ」
アリサさんがちゃんと生きていてくれた、そう言ってゾルタンは地に伏せて泣き出した。
「俺たちは、ドラガンの注文した部品が完成したら帰るから、手紙など書くようなら二人に届けるから早めに頼むよ」
それを聞くとゾルタンは、まだドラガンは色々と作ってるんだと言って号泣した。
暫くホロデッツたちは無言でゾルタンを見守った。
「俺も、俺たちも連れて行ってください。アリサさんたちと約束したけん。生きのびて、もいっぺんみんなで暮らそうって」
それを聞いたイボットが幼馴染のスヴィルジを思い出し背中を向けて泣いた。
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