第21話 腕試し
ドラガンは何も真新しい事を発表しているわけではない。
以前、ポーレの工房で船を造るところを見せて貰ったことがある。
船というものはよく見るとかなり独特な形をしている。
上から見ると細長い楕円形をしている。
ひっくり返すとお椀を被せたような形をしている。
何でこんな形なのかと尋ねた事がある。
ポーレは、昔からこういうものだと言い伝えられているとしながらも、恐らくこういう事だと思うと教えてくれた。
まず、お椀のような形は下からの波の衝撃に耐える為。
底が平らだと波の衝撃に耐え切れず船底にヒビが入ってしまうらしい。
実際、近郊で漁をする非常に小さい船の中には底が平らなものもあるらしく、大抵、波で底にヒビが入って廃船になってしまうらしい。
楕円形の方については理由はよくわからないが、この方が波をかき分けられるらしい。
実際に楕円の木材と長方形の木材に樽の水を流してみると、長方形の木材は流されてしまうが、楕円の木材はあまり流されずにその場に止まった。
「だからね、橋の土台や橋脚も船みたいな形にしたら良いと思うんだよね」
ドラガンがそう言うとペティアもある程度理解したようで、ちょっと絵に描いてあげるから待ってねと言って河原に座り込み、さらさらと絵を描き始めた。
とはいえ、すぐに絵が描けるわけじゃない。
暫くは待ち時間となってしまった。
ペティアの描く絵に、皆、興味はあるのだが、ザレシエとドラガンから近づかない方が良いと忠告を受けた。
それを聞いても、皆、何を言ってるんだという感じであった。
こういう時に邪魔をすると命の保証ができないとザレシエに言われると、恐れおののいてペティアから距離を取った。
そこからドラガンは、マーリナ侯、オスノヴァ侯、フェルマ、ザレシエで色々と話し込んでいた。
その横でムイノク、アテニツァ、ヤストルブナ親衛隊長で武芸の鍛錬をし始めた。
するとムイノク、アテニツァ、ヤストルブナ三人の中で誰が一番強いのかとオスノヴァ侯の親衛隊が言い始めた。
その言葉に三人はピタリと動きを止める。
三人が三人、自分だと言い出した。
それを横で聞いていたマーリナ侯がドラガンたちに何やら面白い事になっていると笑いかけた。
ドラガンはアテニツァだと思うと即答だった。
ザレシエはムイノクじゃないかなと言い出した。
馬鹿な事を言うな、ヤストルブナは本職だぞとマーリナ侯が指摘。
オスノヴァ侯とフェルマは、うちの親衛隊だって負けてないと思うと言い出した。
急遽トーナメント表を作り、即席の武芸大会が開かれることになった。
飛び道具不可という条件が付き一人が辞退。
残り八人で争うことになった。
一回戦、ムイノク、アテニツァ、ヤストルブナの三人はオスノヴァ侯の親衛隊にあっさりと勝利。
準決勝は、ムイノクとヤストルブナ、アテニツァとオスノヴァ侯の親衛隊ウラニフ。
ムイノクの得物は両刃剣で、ヤストルブナの得物も両刃剣。
ただしムイノクは長剣で、ヤストルブナはそこそこの長さ。
その長さによる重みが出たのだろう。
ムイノクの剣技はヤストルブナを辟易させたものの、徐々に疲労で劣勢になり、最後は尻もちをついてヤストルブナに剣を突き付けられてしまった。
アテニツァの得物は鉞、ウラニフの得物は長槍。
こちらはお互い長物武器同士の争いになった。
だが、アテニツァは鉞を全く使おうとしない。
ウラニフの槍の突きを手で払ってかわし続けている。
ウラニフはそれに苛ついたらしい。
高速の三段突きを繰り出して来た。
するとアテニツァは初撃、二段を交わすと一瞬でウラニフに近づき、三段目の後で鉞を首筋近くに持っていきピタリと止めた。
ウラニフはその場にへたり込んでしまった。
マーリナ侯たちは、さあ決勝だと盛り上がったのだが、ヤストルブナは首を横に振った。
武器の長さが違いすぎて不利だと言い出した。
ウラニフから槍を貸すと言われ、マーリナ侯からも逃げたら降格だと冗談を言われ、渋々、決勝に挑む事になった。
ヤストルブナはウラニフと違い槍を体の前ではなく後ろで構えた。
アテニツァからしたらイマイチ槍の長さが把握しづらい。
アテニツァも先ほどと異なり鉞を両手で持っている。
じりじりと二人は近づいていく。
最初に仕掛けたのはアテニツァだった。
鉞の石突きをヤストルブナの胸に突きつける。
ヤストルブナがそれを同じく石突で払うと、アテニツァは払われた力を利用し鉞の斧の部分で槍を斬ろうとする。
たまらずヤストルブナは槍を引っ込め後ずさる。
オスノヴァ侯たちは大歓声である。
次に攻撃に出たのはヤストルブナ。
右から左から槍を回転させアテニツァを牽制。
そのうちの何突きかはアテニツァの体に届くもので鉞で打ち払って凌ぐ。
ヤストルブナは槍を上段に構え、穂先をクルクルと回しアテニツァを牽制。
アテニツァも鉞を体の後ろに構え直し、じりじりと近づいていく。
勝負は一瞬だった。
ヤストルブナがアテニツァを射程に捕らえたと槍を繰り出した瞬間、アテニツァは鉞の柄で弾き飛ばし斧をヤストルブナに突きつけた。
オスノヴァ侯もマーリナ侯も大満足であった。
オスノヴァ侯は帰ったら何か褒美を出すとまで言い出した。
「そういえばオスノヴァ侯、ヴァーレンダー公がトロルを親衛隊に雇って欲しいとか言っておったな。何でも良い師範を得たとかで」
マーリナ侯が思い出したように言うと、オスノヴァ侯もそう言えば言っていたと頷いた。
「アテニツァを見ていると、それも良いなあと思いますね。何でもその師範、スラブータ侯の寝室を警護し、グレムリン六体の襲撃をたった一人で撥ね退けたのだそうですよ」
オスノヴァ侯が少し興奮気味に話すとヤストルブナがそれは凄いと感想を漏らした。
オスノヴァ侯とマーリナ侯の会話を聞いて、アテニツァとドラガン、ザレシエは一人の人物を思い出した。
「あの、もしかして、その師範ってマクレシュという方だったりしますか?」
アテニツァが恐る恐る尋ねた。
するとマーリナ侯は思い出したという感じでパンと柏手を打った。
「おう、そうそう、そんな名であった! 私と同様、毛は真っ白なのに、背がピンと真っ直ぐでな。いかにも武芸の達人という感じで恰好良かった! 何だ、もしかして知り合いか?」
ドラガンがマクレシュはアテニツァの師だと言うと、オスノヴァ侯もマーリナ侯もかなり驚いた。
あれだけ世捨て人のような生活を好んでいたマクレシュが護衛隊の師範をしていると聞き、アテニツァもかなり驚いた。
そこからアテニツァを囲んでマクレシュの話で盛り上がった。
そうこうしているとペティアの絵が完成したのだった。
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