第15話 糾弾
「どうやらブラホダトネ公は公安を使って好き放題やっていたと見える。本当にその大罪人とやらは罪を犯したのか? 公安が誰かの罪を擦り付けたのではないのかな?」
ヴァーレンダー公はスラブータ侯を援護するようにブラホダトネ公を糾弾した。
ブラホダトネ公は返す言葉が見つからず、わなわなと打ち震えている。
「そういえば、その大罪人とやらは竜を盗んだと言っていたな。本当は竜を盗んだのは別の者で、それをそなたが公安を使ってその大罪人とやらに擦り付けたのではないのか? どうなんだ?」
議会はざわついた。
もしヴァーレンダー公の指摘が正しければ、ブラホダトネ公は公安という権力を傘に一市民をリンチにかけたことになるのだ。
街道警備隊の侵攻も正当性を失い単なる暴挙でしかなくなる。
反論無し。
ブラホダトネ公は俯き、額に汗をダラダラと流しながら違う違うと呟いている。
「もしヴァーレンダー公のおっしゃったことが事実なのだとしたら、我が領内ジャームベック村に公安が大挙押し寄せ、大罪人を出せと言って略奪して回ったことも、単なる略奪行為という事になりますが?」
リュタリー辺境伯が畳みかけるようにブラホダトネ公を責めた。
どうやらヴァーレンダー公もその話は聞いていなかったようで、どういう事だと詳細を聞きたがった。
リュタリー辺境伯はジャームベックという村にブロドゥイという警部補が多数の公安を引き連れてやって来たと話し始めた。
ブロドゥイは村長の首に剣を突きつけ殺害、さらに幼いエルフの女の子を拘束。
その間公安はジャームベック村を略奪し市民に暴行を振った。
さらに収穫前の作物を全て刈り取り、そのエルフの女の子の下に敷き焼き殺そうとした。
「いきり立った市民に公安の多くは射殺されましたが、その無法な行為について未だに殿下からは謝罪の言葉がございません」
リュタリー辺境伯は拳を握りしてめてブラホダトネ公を睨んだ。
客観的に判断すれば、公安たちはブロドゥイに略奪をさせてやるから来いと言われて付いて来たと言う事になるだろう。
知らない、そんな話は聞いていない……
ブラホダトネ公はぶつぶつと呟いている。
議会は明らかにブラホダトネ公たちを糾弾する雰囲気で流れ始めている。
宰相のホストメル侯も何かしら援護をしたいのだが、何を言っても流れが変わりそうも無いという雰囲気を感じている。
「国王陛下はここまでの話を聞いてどのようにお考えか、お聞かせ願えませんでしょうか?」
審判を。
ヴァーレンダー公は国王レオニード三世に決断を迫った。
「ブラホダトネ公、本当にそなたが公安にやらせたのか? それとも公安の暴走をそなたが単に信じただけなのか? それによってだいぶ色々と変わってくると思うのだが、どうなのだ?」
詰めが甘かったとヴァーレンダー公は心の中で舌打ちした。
ただ、まあいいとも思った。
いくらでもこいつらを糾弾するネタはある。
包囲網はいくらでも敷き直せる。
最後の一兵になるまですり潰してくれる、そうヴァーレンダー公はほくそ笑んだ。
「私も公安の報告を聞いただけの事にて。ここは一度、ロハティンに戻って公安に調査をかけ真実を探ろうと考えます。それまで結論をお待ちいただければと思います」
ブラホダトネ公は冷静さを取り戻し、レオニード王に訴えかけた。
レオニード王もうんうんと頷いている。
それでは今回の議会はこれまでという事で、そうホストメル侯が締めようとした時であった。
「まだ締めていただいては困りますな。これまでは他領の話であった。まだ我が領内の話が残っておる」
ヴァーレンダー公はそう言ってホストメル侯を睨みつけた。
「何ですかな? 我らを粗探しで追い詰めておいて、アルシュタの予算増でも訴えるつもりですかな?」
ホストメル侯は下衆くニヤついた。
ヴァーレンダー公はそんなホストメル侯爵を華麗に無視した。
「オラーネ侯に問いたい。先日アルシュタで人身売買の組織が摘発されたのをご存知か?」
オラーネ侯はヴァーレンダー公の問掛けにかなり怯んだ様子で首を横に振った。
「知らぬはずはあるまい。その組織というのは竜産協会のアルシュタ支部だったのだから。理事長のそなたの耳に入っておらんはずがなかろう?」
オラーネ侯はそれでも知らぬ存ぜぬを貫き通した。
「では、理事長のそなたの命では無いという事で良いのだな? そうなるとホストメル侯、マロリタ侯、マーリナ侯の誰かという事になるが、どうなのだ?」
なぜそこで私がとホストメル侯は抗議した。
「調査の結果、かなり以前から犯行が行われている事が判明しておる。となれば、補充で入ったスラブータ侯では無くホストメル侯が当事者と考えるのが普通であろう」
かような話は知らぬとホストメル侯は白を切った。
「待たれよヴァーレンダー公。それは真の話なのか? その竜産協会が人身売買というのは?」
マーリナ侯が信じられんという顔で問いただした。
「ほう。マーリナ侯は理事なのにご存知無かったと。では、ホドヴァティ村で蜜蜂を使って麻薬を精製しているという件もご存知無いのか?」
ヴァーレンダー公の指摘に議会がざわついて来た。
「知らぬ。もしそれが真だとしたら徹底的に調査を……」
そこまでマーリナ侯が言った時だった。
「あの村の周辺の貴族は全員知っていますよ。私だけじゃなくハイ辺境伯も。ソロク侯も存じておるはずです」
声の主に皆が注目した。
声の主は、それまで沈黙を保ち続けていたルガフシーナ地区のレヤ辺境伯であった。
花畑の多いルガフシーナ地区では、昔からケシの樹液を集める蜜蜂を『幻覚蜜蜂』と呼んで、危険生物として冒険者に駆除をさせていた。
だが、それでも刺される者が多く、刺されると禁断症状を引き起こす事があり、昔から困った存在であった。
ところがある時期を境に『幻覚蜜蜂』は目撃されなくなった。
どうやらホドヴァティ村で大規模なケシ栽培が行われるようになったそうで、『幻覚蜜蜂』の大半がそちらに行ってしまったらしいという噂が立った。
表向きは竜の鎮痛剤や食欲不振のための薬と聞いている。
だが、一時ルガフシーナ地区でも麻薬中毒で命を落とす者が複数出た。
麻薬の購入で一部の村民は財産を失い、村の経済状況が異常に悪くなったという事があった。
トロルたちも同様だったようで、ルガフシーナ地区では一時、麻薬撲滅政策を地区をあげて行った事がある。
その時、調査を行っていた者から竜産協会が流通に関与しているらしいという噂を耳にした。
残念ながら、その者は夜中に酒場から帰る途中で何者かの襲撃を受け変死してしまった。
レヤ辺境伯がそこまで説明すると、ハイ辺境伯も立ち上がった。
「私は私でその件を調査させていました。その時に出てきた名は……オラーネ侯、あなたの名でしたよ」
こちらも、残念ながら調査をしていた者は夜中に何者かに寝首を掻かれてしまい変死してしまった。
『何者か』
ここまでのやり取りで、多くの者がヴァーレンダー公が言っていたグレムリンを想像しただろう。
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