第7話 慶事
エモーナ村ではめでたい事が続いた。
まず酒宴の翌日にエニサラが懐妊した事がわかった。
その頃マチシェニは畑仕事に出ていた。
イリーナがエニサラの代わりにマチシェニに報告に行くと、マチシェニは農具を放り出して家に駆けて行った。
『あの』マチシェニが農地よりエニサラに会いに行ったとイリーナは大笑いであった。
その翌日、今度はプラマンタが結婚を決意した。
ただエモーナ村にはセイレーンの僧がいない。
二人はエピタリオンと相談する事になった。
そこで、一旦二人でペンタロフォ地区まで飛び、そこで結婚式だけして帰って来るという事にした。
一方のドラガンたちは、三日後に村の教会で再度結婚式を挙げるという事で調整していた。
すると二人の元にザレシエとベアトリスが現れた。
二人も結婚する事になったのだという。
アルシュタでの送別会の晩餐でベアトリスはザレシエに結婚しないのと尋ねた。
ザレシエは、ドラガンと同等に興味を搔き立てる女性が現れたら結婚するつもりと回答したのだそうだ。
するとベアトリスは私もドラガンのやる事に興味が湧いて仕方がないと言った。
「私たち気が合うね。一緒になっちゃおうか?」
ベアトリスは酒豪ではあるのだが酔わないわけでは無い。
その時もだいぶ酔っていたのだろう。
ザレシエは豪快にむせた。
そんなザレシエの背を撫でながら大丈夫と聞くベアトリスの態度に、ザレシエはそれも面白いと思ってしまったらしい。
その二日後、今度はアルディノとペティアが現れた。
どうやら二人も結婚する事になったらしい。
ただその経緯は決してプラマンタを笑えないものであった。
慰労会の酒宴でアルディノは友人たちとわいわい吞んでいたらしい。
それを悪い事にペティアに見られた。
怪我をしているのだから酒は厳禁だと言われていたはずと、ペティアはアルディノに詰め寄った。
すると友人たちから嫁さん気取りと囃されてしまった。
友人たちはペティアに、まあまあと言って酒を注いだ。
何気にペティアは酒に強い。
麻薬中毒の騒ぎから余計に強くなった気がする。
結果的にペティアは、アルディノの友人全員を酔い潰してしまったのだった。
アルディノも久々に呑んで潰れてしまった。
ところがペティアも酒に強いとはいえ酔ってはいる。
アルディノを自分の家に持ち帰ってしまったのだった。
酔った男女が部屋にいて何もないわけがなく。
しかも悪い事にペティアの部屋から出てくるところを人に見られてしまった。
ペティアは気にしないで良いと言ってくれたのだが、残念ながらこの事がアルディノの母の耳に入った。
アルディノは母親に頭ごなしに叱られ責任をとる事になったのだった。
ドラガンとレシアの結婚式が村の小さな教会で執り行われた。
参列者は皆ドラガンとレシアの知り合いばかり。
ただ亜人たちは教会には近づかないという決まりの為、サファグンの居住区の食堂で待機していた。
滞りなく結婚式が終わりドラガンとレシアが食堂に現れると、そこからどんちゃん騒ぎとなった。
その翌日はベアトリスとザレシエが結婚式を挙げた。
寺院が無いのにどうやって結婚式を挙げたのか、二人はマチシェニに尋ねた。
マチシェニは、わざわざ一番近いベルベシュティ地区の村の寺院に行き、ご神体を別けてもらってきたのだそうだ。
その前で二人手を合わせて、イリーナに媒酌をしてもらい僧無しで結婚式を挙げたのだとか。
それがまだ二人の家に祀ってあるので、それを持って行ったら良いと言われた。
さすがに母親が媒酌というわけにはいかないので媒酌はマチシェニに行って貰った。
翌日、プラマンタたちが結婚式を終えて村に戻って来た。
行きは二人だったのに帰りは三人であった。
一人女性を連れて戻って来たのだった。
その女性を見てエピタリオンは、うげっと変な声をあげた。
「アサナシア……何でお前がここに……」
エピタリオンは飛んで逃げようとしたのだが、その前にアサナシアに抱き着かれた。
「こんな偶然ってあるんだね。急にお兄がおらんくなって、村に戻って神社で巫女として働いとったらこの人たちが来たのよ。やっぱり運命ってあるんだね」
プラマンタの話によると、どうやら二人は幼馴染らしい。
と言ってもエピタリオンは七歳も年上らしいのだが。
学校を卒業するとアサナシアはエピタリオンを追ってアルシュタに来た。
アルシュタにはかなりの人数のセイレーンがいる。
普通ならその中から一人を見つける事など困難なはずである。
ところがアサナシアは初日に偶然エピタリオンを発見した。
そこからアサナシアはエピタリオンの家に転がり込んだ。
ところがエピタリオンは急に沼地の作業に行き帰って来なくなった。
渋々アサナシアは故郷に戻り巫女の仕事を始めたのだそうだ。
そこに二人がやって来た。
話を聞くと突然エピタリオンの名が出た。
二人がエモーナ村に帰る日にアサナシアは荷物を纏めて付いて来たのだった。
アサナシアがやってきた翌日、ドラガンとレシアはビュルナ諸島へ新婚旅行へ向かった。
ザレシエ夫妻、アルディノ夫妻、プラマンタ夫妻も一緒だった。
ビュルナ諸島と一口に言っても観光できる島はいくつもある。
特色もそれぞれ異なる。
島によって若い夫妻に人気だったり、若い男女に人気だったり、家族に人気だったり、老夫婦に人気だったりしている。
島の住人はほとんどがサファグンで、温泉宿の経営もサファグンが行っている。
調理も、管理も、船の運航もサファグンが行っている。
サモティノ地区では税収が少ないと悩んでいるのに、サファグンたちがそれほど悩んでいないのは、このビュルナ諸島の観光があるからというのが大きい。
宿泊の申し込みをして船でそれぞれの島に渡る。
八人の中でビュルナ諸島の情報に詳しいのはわずか三人。
レシア、ペティア、アルディノ。
レシアとペティアは二人で、あの宿が良い、この宿が良いと言い合っていた。
一方でアルディノは、プラマンタ、ザレシエ、ドラガンに『遊び』の情報を教え込んでいた。
アルディノとしてはこっそりのつもりだったのだろう。
だが残念ながらあっさりとペティアにバレた。
船から降りる時には、アルディノの頬にはくっきりとペティアの手形が付いていた。
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