第5話 報告
マーリナ侯爵領を発し、軍船はサモティノ地区に入った。
砂浜から大量の筏が海に漂っているサモティノ地区独特の光景が船外から見て取れる。
見慣れた者にとっては、もはやごく当たり前の日常の光景なのだが、そうでない者にとっては非常に珍しい光景に映る。
アルシュタ出身の六人は甲板からその壮観な光景を見続けている。
アルディノの家も筏の上だと知ると、アルシュタ出身の六人は遊びに行きたいとアルディノにせがんだ。
軍船はエモーナ村の漁港近くに停泊。
そこから小舟で数人づつ軍船から下船した。
最初は船酔いの酷いエルフの二人。
それとドラガンとレシア。
トロルの二人。
その後ろからセイレーンの三人が飛んでくる。
残りは第二陣となった。
全員を下船させると艦長はドラガンたちに敬礼して微笑んだ。
前回の送迎と船は異なるが艦長は同じ人である。
「何度も送迎していただいて申し訳ありません」
そう言ってドラガンが艦長を労った。
艦長は、これも訓練の一環と言って敬礼を解いた。
「これからこの艦は貴賓輸送の船として特別任務を受けていく事になるでしょう」
そこまで言うと艦長はドラガンに顔を近づけた。
「おかげで私は戦もしていないのに昇級です。カーリク様様ですよ」
ドラガンが笑い出すと、艦長はドラガンの背をぱんと叩き、がははと笑い出した。
港には前回同様、たくさんの村人がドラガンたちを出迎えてくれた。
これも前回同様、最前列中央はポーレとアリサである。
ポーレの腕にはエレオノラが抱かれている。
向かって左手にはイリーナとマチシェニ夫妻、少し離れてアンナが立っている。
向かって右手にアルディノの母や漆工房のおじさんたち。
コウトやムイノクもいる。
ホロデッツたちも来ている。
「よく無事に帰って来れた。成果についてはゆっくり聞くよ。こっちも話さなきゃいけない事があるしな」
ポーレがドラガンと握手をして言った。
エレオノラがドラガンの顔をぺちぺち叩き、きゃっきゃと笑っている。
アリサが、こらっと叱ってエレオノラの悪戯を制した。
帰って来た。
ドラガンはそう強く実感したのだった。
ドラガンはまずレシアと二人でスミズニー宅に向かい、アンナに結婚の挨拶をした。
アンナは終始ニコニコしており、良かったねとレシアに声をかけた。
ただ、あまりにもアンナが良かった良かったというので、レシアは不審に感じてきてしまった。
「ねえ、母さん。もしかして母さん、私の結婚の事諦めてたんじゃないでしょうね」
レシアは冗談でそう尋ねた。
「何言ってるんだい! 諦めてたに決まってるじゃないか! 私だけじゃない、父さんだってとっくに諦めてたわよ。今頃父さん墓の下でびっくりしてひっくり返ってるわよ」
アンナはそう言ってのけた。
レシアは母のあまりの言い草に開いた口が塞がらなかった。
その後暫く二人で口論になっていた。
レシアの気が済んだところで、ドラガンはレシアを連れてアリサとポーレのところに向かった。
ドラガンが結婚を報告すると、アリサはドラガンにではなくレシアに良かったわねと微笑んだ。
アンナとの口論が無ければ素直に喜べたのだろうが、あれのせいでアリサの祝意も何となく素直には受け取れなかった。
「どうしたの? 結婚早々ドラガンと何かあったの?」
アリサにそう尋ねられ、レシアは自分が少しひねくれていた事を自覚した。
「いえ、その……先ほどまで母に散々からかわれたものですから……」
レシアは少し決まりが悪そうにした。
「そう。もしもドラガンが酷い事するようなら私に言ってきなさい。代わりに叱ってあげるから」
アリサはドラガンの顔を見てくすくす笑った。
ドラガンはエレオノラを膝の上に乗せ、顔をぺちぺち叩かれて嬉しそうにしている。
「ところでドラガン、あの同行してきた六人は何なんだ?」
ポーレは、現在アルディノに案内されてエモーナ村を観光しているプラマンタたちの事を訪ねた。
ドラガンはエレオノラをあやしながら一人一人説明していった。
アテニツァとプラマンタについてはポーレたちも面識がある。
ポーレが興味を抱いたのはイボットであった。
そもそも竜産協会が白昼堂々とドラガンたちを暗殺に出たというのも驚きであった。
何十人という死者が出ている中、ドラガンたちを守り通したという壮絶な話にさらに驚きであった。
「グレムリン? そういう亜人がいるって事は噂話では聞くが、そいつらが竜産協会を裏で操ってるってのか?」
ポーレの問いかけに、ドラガンは何かを言おうとし、レシアを見てはっとした顔をした。
クレピーの事はレシアたちは知らないという事を思い出したらしい。
「以前、ここに来ていたクレピーさんもそいつらに……」
ドラガンの言葉にポーレもアリサも悲痛な顔をした。
「で、プラマンタさんはクレピーさんの代わりに監視役で来たのか?」
ポーレの質問にレシアが溜まらず噴き出してしまった。
ドラガンが笑ったら悪いよと言ったのだが、その顔も笑ってしまっている。
そんな二人の様子に、アリサもポーレも不思議そうな顔をして見合った。
ドラガンが事情を説明するとポーレは大爆笑だった。
アリサもそれは酷いと言って笑い出しはしたが、さすがに他人の恋路の話であり、かなり堪えた。
「まあ、その、何だ。空が飛べるというのは何かと仕事はあるだろう。せいぜいこき使ってやるさ」
そう言ってポーレは笑いすぎて出てきた涙を拭いた。
「ところで村の様子はいかがですか? その、マーリナ侯から悪い噂を耳にしたのですが……」
ドラガンの質問に、ポーレはアリサの顔を一瞥して特大のため息をついた。
「そうか……聞いたのか。なら話は早い。その通りだ。その一件で解雇されたバルタとボロヴァンがうちの村に来ているよ。近いうちにザレシエを呼んで今後の話をしないといけない」
するとアリサがポーレの袖を引いた。
「その件もだけど、あの話もドラガンにしないと。ドラガンは、ああいう事に知恵の回る子だから」
ポーレは困り顔でアリサを見た。
「そうだなあ……しっかし、ほんとに問題山積だな……」
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