第61話 結婚
レシアと外出していたドラガンが宿泊所に戻って来た。
レシアは涙を零しながらも嬉しそうな顔をしてドラガンの腕を抱きかかえている。
そのレシアの表情から、ドラガンが三人の中からレシアを選んだのだということをペティアとベアトリスは察した。
レシアは五人の妹、だからドラガンが選んだのも無理はない。
納得はできないながらも理解はするペティアとベアトリスは、ドラガンの決断を責めはしなかった。
こっそり部屋に逃げようとしていたザレシエの腕を取り酒場へ連行しただけであった。
翌日、ドラガンはレシアを伴い総統府へと向かった。
二人は応接室で暫く待つ事になった。
その間、レシアはチラチラとドラガンを見ては照れて俯いている。
随分遅いなとドラガンが入口のドアを見ると少し開いているのに気付いた。
ドラガンはすたっと椅子から立ち上がり静かに入口に向かうと、おもむろにドアを開いた。
するとそこには、ニヤニヤしながら部屋の中を覗いているヴァーレンダー公とアリーナ妃、家宰のロヴィーがいたのだった。
「何してるんですか! 総督閣下ともあろうお方が……しかも、アリーナ様まで!」
ドラガンに叱られ、ヴァーレンダー公夫妻は二人顔を見合わせ苦笑いしている。
「いやあ、すぐに入室しようとしたのだがね、少し覗いたら実に初々しい雰囲気だったので、ついな」
ヴァーレンダー公は、がははと笑い出した。
ロヴィーはバツが悪いという顔をして顔を背けている。
隣でアリーナがレシアに小さく手を振っている。
レシアは真っ赤な顔で会釈した。
席に着くと五人は、結婚式の話を詰めていった。
本来であれば母のイリーナや、アリサ、ポーレを呼ぶべきだろう。
だがヴァーレンダー公としては、エモーナ村でもちゃんと結婚式を行って貰いたいと思っている。
アルシュタでの結婚式は社交界の一員としての結婚式という位置付けにしようというのだ。
「私たちはそれによって君たちの『後見人』になるのだ。義理の親子みたいなものだと思ってもらえれば」
どうかなとヴァーレンダー公はドラガンに尋ねた。
「何から何までありがとうございます。しかし、社交界というのは面倒なものなのですね」
ドラガンは素直な感想を漏らした。
その感想にヴァーレンダー公ではなくアリーナが笑い出した。
「そうなのですよ。ただ煌びやかなだけではないのです。裏には、そういう面倒な面もたくさんあるのですよ。世継ぎができたら、それはそれで祝賀会ですしね」
ドラガンがげんなりした顔をすると、ヴァーレンダー公とアリーナは笑い出した。
「何、君たちはそこまでする必要は無いさ。貴族なわけでは無いのだからな」
ヴァーレンダー公の説明にドラガンは胸を撫で下ろした。
四日後、総督府の大広間で華燭の典が執り行われた。
大勢のアルシュタの重役とその妻が着飾って集合している。
その中にはユリヴやプラマンタもいる。
またペティアやベアトリス、ザレシエ、アルディノも参加している。
アルディノはまだ包帯が取れず、正装から包帯が覗いているという状態である。
アルシュタには大寺院があり、本来であれば結婚式は大寺院で行われる。
だがそれだと亜人たちが参加できないという事で、大神父に来てもらい総督府で行う事になった。
先にヴァーレンダー公とドラガンが入場してきた。
来場者は割れんばかりの拍手で迎える。
大神父の前で二人で入口を見つめる。
すると扉が開きアリーナとレシアが入場してきた。
真っ白なドレスに身を包み顔にレースをかけたレシアが、アリーナに手を引かれ中央の参道をゆっくりと進む。
大神父の前でヴァーレンダー公とアリーナは二人を残し数歩後ろに下がった。
「我、汝ドラガンに問う。死が二人を別つまで、いかなる事があろうともレシアと二人手を携えていく事を誓えるか?」
大神父の問いかけに、ドラガンは横目でレシアの顔を見た。
「誓います!」
ドラガンの宣誓に大神父は満足そうに頷いた。
「我、同じく汝レシアに問う。死が二人を別つまで、いかなる事があろうともドラガンと二人手を携えていく事を誓えるか?」
レシアは足元をじっと見て、ゆっくり顔を上げた。
「はい。誓います!」
レシアの宣誓に大神父は満足そうに頷いた。
「ならば二人、その言に偽り無き事、誓いの証を見せられたし」
ドラガンはレシアの顔にかかってるレースのベールをそっと持ち上げた。
レシアは恥ずかしそうに口元をにまにましている。
その顔を見るとドラガンも急に恥ずかしくなってきてしまった。
「いかがした? 先ほどの宣誓は偽りか?」
大神父は真顔でそう二人に尋ねた。
するとドラガンは意を決し、レシアの腰に手をまわし唇をレシアの唇に当てた。
「ここに誓いは成った! 神よ! 新たな二人の門出に祝福あれ!」
大神父は高らかに宣言した。
すると参列者から大歓声が巻き起こったのだった。
ドラガンは振り返り、参列者に顔を向けると一礼をした。
レシアもそれに倣い小さく一礼した。
レシアはドラガンの腕に腕を絡ませ、ドラガンの顔を見上げる。
ドラガンもレシアの顔を見るとニコリと微笑んだ。
「じゃあレシア、行こうか」
ドラガンがそう言うと、レシアは無言でこくりと頷いた。
二人でゆっくりと参道を歩き、大勢の参列者の祝福を受けながら大広間を後にした。
二人が総督府から出ると、外にはドラガンたちを祝福しようと大勢の人が待ち受けていた。
その多くは沼地の作業員のトロル。
沼地で使う竹の購入を行っているセイレーンたちもいる。
執事たちも勢ぞろいしている。
また、憲兵隊の隊員も集まっている。
さらに、宿泊所の主人、商店街の人たちも集まってきている。
よく見るとアテニツァと三人の姉たちも駆けつけてきている。
ドラガンたちを護衛してくれた冒険者たちもいる。
皆、口々に、おめでとうと声をかけてくれている。
ドラガンが手を振ると、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こったのだった。
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